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未来の会

ガイドライン改定で「終末期医療」の議論は前進するか

ガイドライン改定で「終末期医療」の議論は前進するか
医療費削減に絡めると、せっかくの機運が遠のく懸念も

人生の最終段階でどういった医療やケアを受けたいか——。厚生労働省は近く、終末期の患者が望む医療を受けられるようにするためのガイドラインを11年ぶりに改定する。自宅などで最期を迎えたい人の望みを叶えるため、患者を支援するチームに介護従事者を加えることを提案している。日本では延命措置の中止といった終末期の議論が長くタブー視されてきた。しかし、多死社会を迎え、「望ましい最期」を模索する動きはじわじわと広がっている。

 横浜市の会社員、吉田博さん(54歳)は、7年前に肝臓がんで死亡した父(当時73歳)の最期を思うと、今なお気持ちが揺れる。

 入院先のベッドに横たわる父の意識が薄れ、死期が近くなった頃、吉田さんは主治医から「いざという時、人工呼吸器を付けますか」と問われ、考えた末に断った。人生を教職に捧げ、常々「社会に迷惑をかけてはいけない」と口にしていた父の心情を推し量ってのことだった。「人工呼吸器は一度付けたら、もう外せませんよ」という医師の発言も重く耳に残っていた。

 6日後、父は亡くなった。その時は「これで良かったのだ」と自らに言い聞かせていた。だが、初七日を終える頃、「本当に父はもう生を終えていいと考えていたんだろうか」との思いが募り、激しい後悔に襲われた。吉田さんは、「父は繊細で空気を読む方でした。内心で延命措置を望んでいても、口に出来なかったのかもしれません。生前にとことん意思を確認しておくべきでした」と悔やむ。

患者の意思支援チームに介護従事者も

 今回改定されるガイドラインは、富山県の射水市民病院の医師による延命治療の中止(人工呼吸器外し)が警察に摘発され(後に不起訴)、社会問題化したのを機に2007年5月に策定された。現行のガイドラインは終末期にどんな医療を受けるかについて、患者本人の意思を基本に位置付けている。ただし、患者が必ずしも医療に明るいわけではない。そこで、医療従事者によるチームが支援して判断するとしている。

 高齢化が進む中、年間の死亡数は130万人を超え、毎年戦後最多を更新している。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、40年にピークの168万人に達する。12年の内閣府調査によると、「最期を迎えたい場所」を「自宅」と答えた人は55%に上る一方で、15年の厚労省調査によると、自宅で死亡した人は約13%にすぎない。依然、約75%は病院で亡くなっている。

 厚労省は現実を理想に近付ける一歩として、3月にガイドラインを改定する意向だ。1月17日には同省の有識者会議「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」に改定案の骨子を示した。積極的な延命治療を望まず、自宅などで最期を迎えたいという人の希望を叶えるため、自宅や介護施設でも活用出来るようにする。患者の意思決定を支援するチームに医療だけでなく、介護従事者を加えることが中心だ。社会福祉士や介護福祉士らの参加を想定している。

 改定案骨子のもう一つの柱が、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の考え方を取り入れた点。患者の死生観までチームで共有し、判断に反映させていく構想だ。患者の思いを尊重すると言っても、まだ元気な時と、末期が近付いた時では考えが変わることも少なくない。このため骨子案では、患者の意思について繰り返し確認を行うことが重要とした。

seiの中には延命治療をしない指針

 さらに、患者が意思を伝えられない状態になった時に備え、「家族に限らず、特定の人を(患者の)意思を推定する者」として、事前に決めておくことを勧めている。今のガイドラインは「家族と話し合い、患者にとって最善の治療方針をとる」と記されている。しかし、独居の高齢者が増えていることを踏まえ、成年後見人や民生委員など家族以外の人も「意思を推定する者」に選びやすくなるようにする。

 また、厚労省は国立がん研究センターと協力し、16年にがんなどで死亡した患者の遺族約4800人から、終末期に受けた医療や介護について初の実態調査に乗り出す。最期を過ごした場所や症状、診断から死亡までの期間の他、どんな緩和ケアを受けていたかを尋ねる。患者や遺族の希望と実際の治療の差も把握し、終末期医療の改善に繋げる。

 日本呼吸器学会は昨年、「成人肺炎診療ガイドライン」に、終末期の患者には積極的な治療をしないとの選択肢も明記した。日本臨床救急医学会は、患者が心肺停止後の蘇生処置を望まないと書面で残している場合、かかりつけ医に確認した上で蘇生処置を中止するように求める提言を出している。いずれも「延命措置が必ずしも患者の尊厳を守ることになるとは限らない」との思いが込められており、こうした動きは少しずつ浸透してきている。

 とはいえ、厚労省による13年の意識調査によると、今のガイドラインを治療やケアの参考にしている割合は、医師が19・7%、看護師は16・7%にとどまる。医師の33・8%、看護師の41・4%は「ガイドラインを知らない」と答えており、普及しているとはとても言えない。厚労省は18年度の診療報酬改定でガイドラインの活用を加算の要件とし、広めていく意向だ。

 日本で終末期医療を巡る議論が進んでこなかったのは、国が医療費削減と絡めて進めようとしてきたことが大きい。05年には終末期医療費が約9000億円に上るとの試算を公表し、在宅医療への転換により20年で5000億円削減出来るとした。

 だが、こうした姿勢は国民の不信を招いた。国は08年度施行の後期高齢者医療制度に、医師が患者と終末期医療の方針を相談したら2000円の診療報酬が付く仕組み「終末期相談支援料」を導入したものの、「医師を延命治療中止に導き、カネを浮かすつもりか」との批判を呼んだ。「患者の意に沿わない治療をなくしていく」との釈明は聞き入れられず、同支援料は3カ月で凍結された。

 医療経済に精通する二木立・前日本福祉大学学長は高額レセプト(診療報酬明細書)などを詳細に検討し、終末期医療を見直しても財政効果はない、との見解を示している。厚労省幹部は「以前の姿勢は誤解を与えたかもしれない」と反省した上で、「終末期医療は『どう最期を迎えるべきか』という人間の尊厳の話。医療費削減に結び付けると、せっかくの機運がまた遠のく。カネの話と切り離すことが肝要だ。患者が自分の意思で最期を選べるようになれば、結果的に医療費は減っていくのだから」と話す。

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