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高市外交が咲き誇る「世界の真ん中」とは?

高市外交が咲き誇る「世界の真ん中」とは?

衆院選大勝の熱気と空虚な政策のギャップ大きく

「世界が直面する課題に向き合い、世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す」。高市早苗首相は昨年10月の所信表明演説で語ったこの言葉を、衆院選で歴史的大勝を果たした今、どう実践に移すのか。自由民主党の衆院選公約には「日米同盟を基軸に、『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』を外交の柱として力強く推進」とあるが、頼みのトランプ米政権が国際秩序に背を向け、「世界の真ん中」が何処なのかも分からない混沌の中、高市外交が「咲き誇る」具体像が浮かんでこない。

 権威主義の中国が軍事力を振りかざして南・東シナ海での権益を拡大させ、同じく権威主義で中国と連携するロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける。それに対抗する民主主義陣営の結束軸が、自由と民主主義を基調とする第2次世界大戦後の国際秩序を守る「正義」だった。ところが、民主主義陣営の盟主たる米国が、自国の利益を追求する為に「正義」をかなぐり捨て、同盟国にも経済抑圧の矛先を向け、中露とのパワーゲーム(大国間競争)に興じている。

円安加速で「日本列島は弱く、貧しく」の懸念

 この状況を「世界秩序の断絶」と表し、「ミドルパワー(中堅国)の団結」を訴えたのがカナダのカーニー首相だ。日本国内が衆院解散の喧噪に包まれていた1月20日、スイスで開かれていた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でカーニー首相は、ミドルパワーが結束して国際秩序を構築し直し、大国と交渉する力を持つべきだと呼び掛けた。

 中小の国々がバラバラに大国と二国間交渉をすれば、弱者の間で大国への譲歩を競い合う事になり、弱者は強者への従属を強いられる。主権と領土の一体性、国連憲章に則った場合を除く武力行使の禁止、人権の尊重等を基本的価値とする「ルールに基づく国際秩序」が機能しなくなった現実を直視し、ミドルパワーが結束して、ルールが機能する制度や合意を創出するべきだ、とカーニー首相は提起した。ミドルパワーの団結に向けてカナダが信頼出来るパートナーとなる理由としてカーニー首相が挙げたのが、①多元主義社会として機能している②活発で多様性に富み、自由な議論の場が有る③持続可能性への取り組みを続けている——等、「多くの国が憧れる価値観を体現している」点だった。

 翻って我が国の衆院選に於ける議論はどうだったか。自民党が衆院選の公約に掲げたのは「日本列島を、強く豊かに。」のキャッチフレーズだ。「基本的価値を共有する同志国・地域やグローバルサウス諸国等との連携強化」「力による一方的な現状変更の試みや経済的威圧への対応を抜本強化」等の外交政策の方向性はカーニー首相の演説と重なるが、全てがお隣の覇権国家・中国を牽制する文脈で書かれている点に留意する必要が有る。トランプ大統領と握手する高市首相の写真が外交公約のトップを飾り、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳との握手写真も「中国包囲網」を思わせる。カーニー首相の演説に有る様な、新たな国際秩序作りの中核を担う決意は感じられず、高市首相の語る「世界の真ん中」はあくまで米国中心のパワーゲームの中に在る様だ。

 「日本列島を、強く豊かに。」の内向きさも気になる。高市首相が厳冬の衆院解散・総選挙で国民に信を問うた「責任ある積極財政」は、政治の師と仰ぐ安倍晋三元首相が進めたアベノミクスの延長線上に在る。大規模な金融緩和で円安に誘導し、財政出動によって経済を活性化させれば、輸出と内需の双方が拡大し、海外からの投資も増え、経済成長に連動して物価と賃金が上昇する好循環に繋がる筈のアベノミクスだった。しかし、円安になっても日本企業の海外投資は止まらず、国内産業の空洞化は益々進み、円安に乗じた海外からの不動産投資や、少子高齢化に起因する働き手不足の穴埋めを外国人労働者に求めた事が内向きのナショナリズムを刺激した。円安と人口減少に象徴される国力の相対的な低下が物価高となって国民生活を苦しめている。

 「責任ある積極財政」はアベノミクスと何処が違うのか。財政規模の拡大によって見せ掛けの国内総生産(GDP)は膨らんでも、国家債務の増大は円の価値を毀損し、外貨に換算したGDPは更に縮小し、物価を一層押し上げていく。仮に食料品の消費税8%が無くなったとしても、物価が8%上がれば減税効果は相殺される。この簡単な足し算・引き算に国民が気付いた時、今回の衆院選で高市首相に寄せられた熱い支持がどうなるか。

「中道=リベラル」結集は野合か、必然か

思い起こされるのは2005年の「郵政解散」だ。当時の小泉純一郎首相が、郵政民営化法案が参院で否決されたのを受けて衆院解散に踏み切り、自民党単独で296議席、公明党と合わせた与党で327議席の大勝を果たした。小泉氏は翌年、安倍氏に後を託す形で退陣。その後の自公政権は3代に亘って首相が毎年交代する混迷期に入り、09年の衆院選で政権を旧民主党に明け渡した。当時の自民党が急速に国民の信を失った背景には、「消えた年金」問題への対応を誤った上に政権不祥事が相次いだ事も有るが、それだけでは説明が付かない。冷戦終結後の世界経済のグローバル化にバブル崩壊後の日本経済が対応出来ず、政治の無策に国民が愛想を尽かしたところに08年のリーマンショックが追い打ちを掛けた。

 06年に発足した第1次安倍政権は「経済再生」を掲げると共に、教育基本法を改正して「我が国と郷土を愛する」愛国心教育を明記する等、「保守=国家重視」政策を推し進めたが、07年の参院選で大敗し、参院で与党が少数となった「ねじれ国会」の苦境に陥る中で退陣に追い込まれた。

 高市政権は衆院で安定多数を得たものの、参院では少数与党の状況に変わりはない。只、この点については、減税や外国人規制の強化等を進める事で、国民民主党や参政党、日本保守党等の右派ポピュリズム政党が雪崩を打って政権に協力する展開が予想される。自民党と日本維新の会の連立合意には既に、結婚後も旧姓を通称として使える様にする法整備やスパイ防止法の制定、更には憲法改正にも取り組む事が明記されており、維新はこうした「保守=国家重視」政策のアクセル役になる事を与党・維新の存在意義だと強調。これにも右派ポピュリズム政党がこぞって協力するだろう。2年後の参院選迄にこれ等の政策実現を国民にアピール出来るか、経済失政で支持率を落として失速する方が早いか。

 「中道=リベラル」勢力の結集を目指した中道改革連合は、公示前の167議席から3分の1以下に減らす惨敗を喫した。野党第1党の立憲民主党と、昨秋まで与党だった公明党が手を組んだ事には「選挙目当ての野合」との批判が付き纏い、捨て身の解散で覚悟を示した高市首相と、保身の野合に走った中道改革連合という対比の構図が両者の明暗を分けた。とは言え、立憲と公明が別々に選挙に挑んでいたら、更に壊滅的な結果となっていただろう。

 高市政権が「保守=国家重視」路線を鮮明にする中、穏健な「中道=リベラル」の灯を如何に選挙後に残すかを考えた時、立憲と公明の合流は政治的にも政策面でも合理性を持つ。今後、参院と地方に残った立憲、公明両党の議員も新党に合流するのかに先ずは注目したい。その覚悟すら示せないなら、正に選挙目当ての野合だった事になる。

 郵政解散時、旧民主党は選挙前の177議席から113議席まで減らしながら、2年後の参院選、4年後の衆院選で自民党を圧倒して政権交代を果たした。今回の49議席はより壊滅的な結果だが、旧民主党政権が国民の期待を裏切った悪夢からの連鎖を断ち切る節目と考えれば良い。「保守=国家重視」政権が国民の信を失った時の受け皿を準備する「中道=リベラル」政党の責務は重い。

2月8日、衆院選後に取材に答える高市総裁(自民党HPより)

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