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第207回 厚労省人事ウォッチング
トランプの薬価引き下げは本気かハッタリか

第207回 厚労省人事ウォッチングトランプの薬価引き下げは本気かハッタリか

米国のトランプ大統領が医薬品の価格を大幅に引き下げると表明した事で、日本の製薬業界への影響を懸念する声が出ている。厚生労働省の或る幹部は「何とも言えない。支持者に『アメリカファースト』の姿勢を示す為のブラフでは」と半信半疑だ。しかし、もし本気なら、米国市場に頼る製薬企業への影響は避けられない。「只でさえ競争力を失っている日本企業には打撃となる」と言い、一抹の不↘安を隠さない。

「より良い医薬品を作るべく長い年月と多くの研究費用を注ぎ込んでいる。薬価の引き下げの結果、革新的新薬が患者に届かなくなる状況を懸念している」

5月22日、日本製薬工業協会の会長に就いた武田薬品工業の日本法人トップ宮柱明日香氏は、同日の記者会見でトランプ発言についてこう憂慮した。

トランプ氏は5月12日、米国内の処方薬の価格引き下げの為の大統領令にサインした。「世界で最も安い価格で販売する国と同じ水準まで価格を引き下げる」とぶち上げ、「薬価は59%から最大で90%安くなる」と踏み込んだ。

国民の多くが民間医療保険を利用している米国↘では、低所得向け等の公的医療保険を除き、薬の販売価格は企業が自由に決められる。巨額の研究開発費や広告費に加えてロビー活動費でさえ薬価に上乗せ出来、価格設定はブラックボックスと化している。例えばインスリンの場合、日本は3㌦強なのに対し米国では約23㌦と8倍弱に上る。米国の医薬品市場は7000億㌦と日本の10倍に達し、世界全体の4割を占める。米国民が負担した高額のカネが画期的な新薬を生み、他の各国はその恩恵を受けているのに対価は払わずただ乗りしている——というのがトランプ↖氏の言い分だ。

米国の高い薬価が新薬の開発を支えてきた面は否定出来ない。とは言え、薬価に関して自由価格の米国と日本等、公定価格を採用する国々を同列視しているのがトランプ発言だ。厚労省幹部は「めちゃくちゃだよね。政府による価格統制を嫌ってきた事が高い薬価を招き、低所得者等に良薬を使えなくしてきた要因なのに。今更よく言うよ」と苦笑いする。

トランプ氏は第一次政権時代も薬価に関して同じ事を言っていた。だが、今回も連邦裁判所に否定され言いっ放しに終わった前回同様、根拠法を殆ど示していない。本当に薬価の大幅な引き下げを実現するなら議会に諮る必要が有るものの、与党・共和党は米国製薬企業の売り上げ減に直結する価格引き下げには慎重だ。実現可能性は不透明で、だからこそ「支持者を意識したハッタリでは」との憶測も生んでいる。

しかし、相互関税で見られた様な合理的根拠無く自分の主張を声高に通そうとする姿勢から、企業に様々な圧力を掛けてでも価格引き下げを迫るのでは、との心配も又、日本の製薬業界内には燻っている。薬価の削減はトランプ氏が敵視する民主党リベラル派の主張でもある。議会の動向が不明な点も不安材料だ。

そうした中、仮に米国で強引な薬価引き下げが実現した場合、日本の製薬企業がダメージを受ける可能性は小さくない。日本の製薬業大手は大半が売り上げの3割以上を米国に依存しており、武田薬品工業は5割強に達する。

一方で、トランプ氏が逆に「他国も負担をしろ」と言い始めないか、という懸念も有る。米国発の薬の恩恵を得たいなら、相応の開発コストを払えと言ってき兼ねないという訳だ。米国の製薬業界は、想定以上に売れた薬の値段を下げる「市場拡大再算定」等の日本の薬価制度に不満を抱いており、厚労省幹部は「可能性は有る。それも又悪夢だ」と漏らす。

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