
石破茂政権の退陣に伴い、社会保障制度の見直しは仕切り直しとなった。自民と日本維新の会の連立政権の先行きがどうなるのか未だ不透明な中、厚生労働省の苦悩は続く。「給付と負担のバランスの見直し」という中長期の課題は当然ながら、先ずは今年末に迫る2026年度の予算編成をどう乗り切るかに同省は腐心している。
石破氏が退陣を表明した9月7日の記者会見。社会保障制度改革に触れる中で石破氏は「責任を持って次の時代に引き継ぐ為、給付と負担の在り方も含め与野党を超えて議論を進めていく必要が有る」と述べ、次期政権でも制度改革の検討を続けるよう訴えた。
年々膨らみ続ける社会保障給付費は25年度予算で140兆円を超えた。高齢化や医療の高度化に伴うものだが、財源を賄う為に医療や介護の保険料は増え続け、暮らしを圧迫される現役世代の中には不満を募らせる人も多い。社会保険料の増加が賃上げ分を相殺してしまう、との危機感は広く共有されつつある。
9月25日、自民、公明、立憲民主の3党は退陣間際の石破氏の「遺言」を受け入れる格好で、「給付付き税額控除」の導入を検討する協議体を発足させた。石破氏はこの3党による協議体に関し、「社会保障制度の将来像」を議論する場としても高市早苗政権に引き継ぐ意向だ。
只、協議体は石破氏と立憲の野田佳彦代表との個人的パイプに頼った枠組みで、他の野党は排除されている。新政権にとっては、これから他の野党も含めて連立の枠組みを模索していこうという矢先の話だった。又、自民と維新の連立政権合意文書には給付付き税額控除の導入について「早急に設計をすすめ、その実現を図る」と盛り込まれたものの、具体的なスケジュールは明らかにしていない。
厚労省の26年度予算の概算要求は、一般会計で前年度予算比1・4%増の34・7兆円と過去最高だった。「自然増」を高齢化の伸びの範囲内の4000億円として今後総額を抑制していく方針だが、一方で赤字続きの為に診療の継続が困難な病院等が相次いでいる現状も有る。そこで、来年度に控える診療報酬改定ではインフレや賃上げ等に相当する分を加味する事が決まっている。診療・介護報酬は公定価格で、物価や他業種の賃金の伸びに即対応して柔軟に増減する事が出来ず、早急な対応が求められているからだ。26年度からは医療保険料に上乗せする、少子化対策向けの「支援金」の徴収も始まる。政府は「社会保障改革で医療保険料を1兆円圧縮する為、支援金による負担増は差し引きゼロ」と説明していた。ところが、医療保険料を減らす財源として当てにしていた高額療養費の自己負担上限額の引き上げは、難病患者団体等の猛反発で先送りされた。原案では約3700億円分の保険料カットに繋がるとしていたが、厚労省は「次に高額療養費を見直す時に、ここ迄踏み込むのは無理だろう」(幹部)と見立てている。
新政権との連立に於いて維新は、連立の合意文に「保険料の引き下げ」も含めた。手立ての1つとして、市販薬と成分や効果が似ながら保険が利く「OTC類似薬」を保険適用外とし、1兆円を圧縮して保険料の引き下げに充てる案を掲げる。自公両党は、OTC類似薬の見直しに関しては維新と合意しており、実現すれば一定の保険料抑制効果は有ると見られる。
それでも、患者団体への配慮もせざるを得ず、厚労省内では「1兆円を浮かすなんてあり得ない」という指摘がもっぱらだ。同省幹部は「医療従事者の賃金を上げねばならない一方で現役の保険料は抑えるとなれば、相当複雑な方程式を解く事が求められる。連立の枠組みが未だ見えず、頭が痛い」とこぼしている。石破政権を引き摺り降ろした高市新政権としては、より良い制度への見直しが必須となる。


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