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安倍元総理大臣暗殺、「銃撃」に医療は何が出来るのか

安倍元総理大臣暗殺、「銃撃」に医療は何が出来るのか
事件から見えた「問題点」医療機関へのテロ対策必要性も

日本でこんな事が起きるのかという衝撃のニュースが飛び込んで来た。2日後の参議院選挙を控え、候補者の応援演説中だった安倍晋三・元総理大臣が、聴衆に紛れて近付いた男に自作の銃で撃たれ死亡した事件。男の動機になったという宗教の問題や安倍氏の国葬問題等、事件によって派生した問題は多々あれど、日本では珍しい「銃撃」に医療はどう対応したのか。二度と起きてはならないが、もし再び銃撃事件が日本で起きたら、医療現場は充分に対応出来るのか。事件から学ぶ事は多い。

 先ずは事件を振り返ろう。前代未聞の惨事が起きたのは、7月8日午前11時半過ぎ。奈良県奈良市西大寺東町の近鉄大和西大寺駅前で、自民党の佐藤啓氏の応援演説をしていた安倍氏が、「彼は出来ない理由を考えるのではなく」と声をあげたところで、破裂音の様な大きな音が響き、白煙が上がった。音に驚いた安倍氏が振り返ったところで再度、大きな破裂音。その間、3秒程度だ。この2発目の銃弾が致命傷になったと見られ、安倍氏はこの直後、崩れ落ちる様にして倒れた。一方、安倍氏を撃った男は、複数の警察官に取り押さえられた。

 取材に訪れていたマスコミ各社や聴衆の複数の動画を見ると、倒れた安倍氏の周りを選挙スタッフが取り囲み、マイクを持ったスタッフが、医師や看護師がいないか、協力を呼び掛けている。この呼び掛けに応じる様にして駆け付けたのが、事件現場の直ぐ近くのビル3階で「中岡内科クリニック」を営む中岡伸悟医師だ。当時、外来診療中だった中岡医師は外から叫ぶ声を聞き、慌てて院外に。外にいた知人から「安倍首相が撃たれた」と聞き、外来を中断してそのまま現場へ向かったという。しかし、状況は厳しかった。安倍氏には看護師と見られる女性達の手で心マッサージが行われていたが、反応は無かった。中岡医師のクリニックから運び出したAEDを取り付けても、安倍氏が完全に心停止していた為か作動しなかった。中岡医師は後日、報道機関のインタビューに、状況がかなり厳しい事は一目見て分かったが、それでも祈る様な思いで心マッサージを続けたと答えている。

 午前11時43分、現場に到着した救急車によって、安倍氏の搬送が始まった。同じ頃、出動要請を受けたのが奈良県のドクターヘリだ。基地である同県大淀町の南奈良総合医療センターを飛び立ち、救急車との合流地点である平城宮跡に向かった。ヘリには同センターの救急医が乗り、安倍氏を受け入れ先である奈良県立医科大学附属病院へ運ぶ役目を担った。

安倍氏への治療に対する疑問の声とは……

 ヘリが奈良県立医大病院に到着したのは午後0時20分。撃たれてから1時間近くが経過しており、治療は同院高度救命救急センターの福島英賢センター長らに引き継がれた。午後5時3分、死亡が確認される迄約4時間半、救命センターのスタッフは懸命に治療を続けた。「午後6時過ぎから、福島氏らは会見を開いて状況を説明した。安倍氏の首には2カ所の銃創が有り、銃弾は心臓まで達し、心室には穴が開いていたとの事だった」(全国紙記者)。同病院への到着時、安倍氏は心肺停止。病院では輸血と止血の為の緊急手術を行ったが、血管の損傷が激しく出血はなかなか止まらなかった。何とか血管の損傷は塞いだものの、心拍は再開しなかったという。死因は失血死だった。

 「会見では、安倍氏に14リットルの輸血をし、医師や看護師ら20人以上の体制で治療に臨んだ事が明らかになった。ところが、この治療に対して医療者らから疑問の声が上がった」(同)

 その疑問の声とは、「明らかに死亡している、蘇生が無理と分かる患者に過剰な治療だ」というものだ。「外傷による心停止は心拍再開の可能性が低い。もっと早く、蘇生が不可能であるという判断をすべきだった」(中部地方の医師)と指摘する声は少なくない。又、「現場に駆け付けたクリニックの医師は別としても、ドクターヘリに同乗した南奈良総合医療センターの救急医か、県立医大附属病院の福島氏には、蘇生不可能の判断が直ぐ下せた筈だ」「2人とも銃創の患者を診た事があったそうで、経験不足とは言えないのに」等の声も聞かれた。14リットルの輸血は、成人男性約3人分の血液量に相当する。

 こうした「過剰な医療」「死亡宣告の遅さ」に対して、「患者が元総理大臣だったという事で忖度があったのではないか」との疑念も出た。前出の記者は、「南奈良総合医療センターの救急医はNHKの取材に対し、患者が安倍氏だった事は聞いていなかった、要人だから対応を変える事は無いと答えている。一方の福島氏は、病院に家族が来ると聞いていたので、家族の理解を得て治療の継続を中止する判断をしたと認めている」と話す。

事件に関わった医療者の判断に理解を示す

 こうした様々な疑問や批判に対して、ある大学病院の救急医は「撃たれた直後から蘇生の可能性は著しく低く、医学的には無駄な治療だったと思う。しかし医療者として、やれる事はやったと説明する事で家族に納得してもらう為の過程であり、無駄な医療だったとは言えない。多くの救急医は、相手が元総理でも子供でも同じ事をするだろう」と反論する。事実、午後5時前に病院に到着した安倍氏の妻、昭恵さんは、意識が無い安倍氏に「晋ちゃん、晋ちゃん」と何度も呼びかけたという。その後、医師から説明を受け、最後は昭恵さん自身が蘇生は難しいと判断した。この判断を受けて治療は中止され、安倍氏の死亡が確認された。

 「早々に蘇生は無理と判断し、現場から救急車で運ばなかったら、ドクターヘリを出動させず、県内一の高度救命救急センターに運ばなかったら、批判されなかったのか。逆に、やれる医療をやらなかった、蘇生出来たかも知れないのに、と批判されただろう」とこの救急医は今回の事件に関わった医療者の判断に理解を示す。

 それより救急医が問題視するのは、「テロや銃撃に対して、医療現場がきちんと備えられているかどうか」だ。前出の記者は、「ドクターヘリの運行に関わった関係者は、安倍氏が救急車からヘリに移される様子が報道ヘリから空撮されているのが怖かったと話していた。現場の平城宮跡は人の規制もしておらず、誰でも入れる状態。もし犯人が複数いたら、待ち伏せをして、医療者もろとも狙った恐れが有る」と危惧する。

今回の処置を批判よりテロ対策を進めるべき

そもそも日本の医療機関は、入口に金属探知機や荷物チェックを導入しておらず、銃や爆発物を持った人間がノーチェックで入れてしまう。「テロ犯が対象者を殺し切れなかった時、次に狙うのは運ばれた医療機関だろう。その場合、医療機関が第2のテロ現場になってしまう」(同)。

 前出の救急医は、「もし銃撃で多数の死傷者が出ていたら、安倍氏1人にあそこ迄の医療を提供する事は出来なかっただろう。ウクライナを見ていても、非常時には満足な医療を提供出来ない。今回の処置を批判するより、医療機関のテロ対策を進める事の方が大事だ」と語る。テロ犯はいつ、どこに現れるか分からない。忖度云々ではなく、状況が異なれば同じ様な医療を受けられない事を、全国民が覚悟しておく必要があろう。

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