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日医役員選で「無所属」松原氏副会長当選の意味

日医役員選で「無所属」松原氏副会長当選の意味
盤石に見える横倉体制に陰りが露呈

 任期満了に伴う日本医師会(日医、会員約17万人)の会長選挙は、現職の横倉義武氏(73歳)が圧勝し4選を果たした。安倍政権と近く、国の医療政策に一定の影響力を及ぼしてきたことが要因だ。ただ、前哨戦では世代交代を求める声や横倉路線への不満も顕在化。副会長以下の選挙では波乱も起き、思い描くキャビネットは形成できなかった。盤石に見える横倉体制にも陰りが生じつつある。

 6月23日、東京・本駒込の日本医師会館。当選を決めた横倉氏は「かかりつけ医を中心としたまちづくり」を掲げてきたことに触れ、「地域医療を大事にしようとする方針が評価されたと思う」と選挙戦を振り返った。さらに国民生活を守ってきたと自賛し、「4期目はそれを充実させていきたい」と述べた。

 対抗馬は、前奈良県医師会長の塩見俊次氏(69歳)だけだった。横倉氏は、出席した367人の代議員から328票を得た。片や塩見氏は19票(無効1票、白票19票)。横倉氏が任期の2年を全うすれば、故羽田春兔氏(東京)と故坪井栄孝氏(福島)の4期8年に肩を並べる。昨年は世界医師会長にも就任した。社会保障費の抑制を迫られている折の診療報酬増額など、これまでの様々な実績について周辺は「横倉マジック」と称賛している。

 横倉氏は福岡県出身。民主党支持に舵を切った原中勝征元会長(茨城)の後任として12年に初当選し、与党に返り咲いた自民党に接近した。安倍晋三首相とは首相が党の社会部会長時代からの付き合いで、福岡から首相の地元、山口県まで会いに行くこともたびたびだった。首相は07年の自らの首相降板に触れ、「退陣後も横倉氏は態度が変わらなかった」と周辺に横倉氏への謝意を漏らしている。権力闘争の絶えない日医内で横倉氏が4選を果たせた背景には、安倍首相との良好な関係があると言われている。

 3月末、小渕優子・元経済産業相がトップの自民党財政構造のあり方検討小委員会は、経済や人口の変動に応じて患者の医療費負担を決める制度を提案した。支え手の現役世代の数や高齢化に合わせて年金の伸びを抑える「マクロ経済スライド」の医療版と言える医療費抑制策だった。

 横倉氏はこれに強く反応した。4月19日には東京・永田町のホテルで小渕氏らとの朝食会をセットし、小渕氏らを前に訴えた。「医療は支え合いの制度です。患者の負担増で賄うのではなく、社会全体でカバーすべきです」。

 小渕氏らは納得しなかったものの、結局、財務省が強く求めていた、19〜21年度の社会保障費の伸びを抑えるための数値目標とともに、6月に閣議決定された骨太方針には盛り込まれなかった。来年の参院選や地方選への影響を懸念した首相が、「キャップをはめて医療費を抑えるようなことはしたくない」との意向を示したためだ。経緯を知る政権幹部は「日医も衰えたとはいえ、選挙区で候補を落選させる力は残っている。安倍政権のうちに医療版マクロ経済スライドが息を吹き返すことはないだろう」と語る。

次期役員選にらみ東京が大阪に貸し?

 この他、18年度の診療報酬改定で横倉氏は、医師らの技術料にあたる「本体部分」の引き上げを死守した。3期目はかかりつけ医機能の定着に力を入れるなど、日医の中軸である開業医への目配りをしてきたことも、支持の源泉となっている。横倉氏の側近は「首相と近い横倉会長だからこその実績」と強調する。ただ、各地方医師会とも「諸手を挙げて横倉氏支持」というわけではない。

 「キャビネットの一人でも欠けると、『横倉義武に、日本医師会に陰りが見えた』となってしまいかねません」。6月3日。横倉選対本部の事務所開きで、選対本部長の松田峻一良・福岡県医師会長は檄を飛ばし、この日公表された横倉陣営推薦の役員候補全員の当選を訴えた。

 日医の役員選挙は、会長候補が、本人の望む副会長(定数3)と常任理事(同10)の候補リストを掲げて戦う。横倉氏は今回、副会長候補に現職の今村聡氏(67歳、東京)、中川俊男氏(67歳、北海道)両氏を並べる一方、同じ現職の松原謙二氏(61歳、大阪)はリストから外し、代わりに常任理事だった松本純一氏(66歳、三重)を入れた。

 松原氏が外されたのは、2月の新専門医制度に関する会合で、戦時中の医学専門学校出身の医師を貶める発言をしたことが直接の原因。「上から目線の人」「審議会で居眠りをする」などと内部で批判されていることも考慮されたようだ。横倉氏は松原氏に「あなたをリストに入れると、日医があなたの発言を容認したことになる」と伝え、候補リストから外した。

 それでも松原氏は横倉氏の了承を取り付けた上で、「無所属」で立候補した。結果は今村氏が270票、中川氏が261票で当選。一方、松本氏は174票で落選し、松原氏が214票で当選した。横倉選対の松田本部長の懸念が的中した格好となった。松原氏の副会長当選について、横倉氏は「本人も直すべきところは直すということなので、『チーム横倉』としてまた一緒に頑張っていきたい」と述べた。松原氏も「横倉先生を支えていきたい。しこりはない」と語っている。

 だが、松原氏の勝利は同氏を押す大阪府医師会が、東京都医師会など大票田を持つ地方医師会に働き掛けた結果とみられている。東京都医師会の尾崎治夫会長は、次期日医副会長選候補の一人とも目される。「東京がやはり大票田の大阪に貸しを作ったのでは」(日医関係者)との見方も出ている。

「首相との距離」が横倉氏には両刃の剣

 また、松本氏の副会長落選も横倉氏には痛手となった。横倉氏が松本氏に白羽の矢を立てたのは、松本氏と田村憲久・元厚労相の強い結び付きを期待してのこととされる。田村氏は厚労行政に最も影響力を持つ族議員の一人だ。

 「首相との距離」もこのところの横倉氏には両刃の剣となりつつある。今回の会長選の前段では、中川氏の会長候補擁立が取り沙汰された。結局中川氏は引き続き横倉執行部の副会長に納まり、両氏はがっちり握手。互いをたたえ合い、横倉氏は中川氏を「私の右腕」とまで持ち上げた。「中川氏擁立構想」の真偽ははっきりしない。ただし情報の発信元は、横倉氏を「安倍首相に近過ぎ、懐柔されてしまっている」と批判する、全国に点在する「反横倉」勢力だ。ある地方医師会の幹部は「論客で強気の中川氏なら、もっとカネを分捕ってこれる」と言う。

 「医療版マクロ経済スライド」こそ引っ込めた財務省だが、次の医療保険制度改革で75歳以上の医療費の窓口負担割合(原則1割)を2割にアップする案は譲らない構えだ。薬価の毎年改定導入により、20年度の診療報酬改定は本体部分の財源をねん出することが例年より難しくなる。安倍政権が依然、モリ・カケ問題を引きずる中、医療政策の行方次第で鳴りを潜めている「反横倉勢力」がのろしを上げない保証はない。

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