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コミュニティノートはエセ医学の救世主になれるか

コミュニティノートはエセ医学の救世主になれるか

迷走する「X」の新機能が高評価を得る理由

「コロナ禍真っ最中に、この機能が有ったら」——。インターネットのSNSで情報発信をするのが当たり前の時代、ツイッター(現・X)で医療情報の発信を続けて来た医師ら専門家の間でそんな声が聞かれる様になって来た。

 「この機能というのは、『コミュニティノート』と呼ばれるものです。簡単に言うと誤解を招く様な内容のツイートが有った時に、他のユーザーが正しい情報を追加で書き込める機能。怪しい民間療法や反ワクチンといった偏った医療情報や、一部の政治的な主張はこれ迄垂れ流されて来ましたが、そうしたツイートにはコミュニティノートが付き易い。これ迄通りのツイートが出来ない訳ではありませんが、自分のツイートに他者が修正を入れる様なものですから、愉快ではないでしょう」(ITジャーナリスト)

 幾つか例を見てみよう。

 『医学不要論』『新型コロナワクチンの正体』等の著書が有り、反ワクチンの主張で知られる医師の内海聡氏は7月31日、自身のアカウントで「このコミュニティノートとかいう、御用丸出しのクソシステムはいつから入り込んだんだ?ブロックとかできないの、これ?新手の検閲かぁ?(原文ママ、以下同)」と怒りをぶちまけた。翌日には「ツイッターもこのゴミノートってやつで、利用者激減、閲覧も激減なはなりそうだね。ここぞとばかりに工作員とか業界アカウントもわいてくるしw、。しかも前回コメントみてもブロックする術がないと」「そろそろFBとかインスタに戻る時期だね。究極的にはSNS全般がオワコンなのだが、実名でやれるFBを見直したほうがよい。ゴミアカウントもわきにくいし長文でかけるし。まあ、今の人はテレビだけ見てればいいんだろうね」と連続して投稿し、「クソシステム」である「ゴミノート」を批判した。

 「内海氏が怒ったのは、医療について持論を展開した自身の投稿に連続してコミュニティノートが付いた為です」(同)

〝反論〟により偏った意見である事が露呈

 例えば、「先住民や野生動物が癌にならない」「癌が激増している」「『がんは体の中にある毒をかき集める』存在」「社会毒環境毒に精神面が混ざって癌が姿を表す」等とがんに対して述べた独自の理論(7月30日)には、「先住民もがんになる」「野生動物もがんになる」「日本を含めてがんが増えている国は多いが、人口増加と高齢化のため。高齢化の影響を取り除いた年齢調整がん死亡率は減少」とそれぞれ情報ソースのリンクが張られた〝反論〟がコミュニティノートで示された。

 「ステロイド軟膏などはあっという間に依存を誘発し、それをやめるといわゆる『脱ステ』の禁断症状などが発生するわけです。ステロイド軟膏はやプロトピック軟膏は癌の発生率を増すことが証明されています。これらの軟膏は本質的には何の役にも立ちませんので、生き方や食などを改善してください。」(7月31日)とした投稿には、「2022年の系統的レビューによると、いわゆる「ステロイド依存'steroid addiction'」は、中強度から高強度の局所ステロイドを顔に長期間使用した後に発生します。国際的なアトピー性皮膚炎のガイドラインでは、ステロイド外用薬は第一選択薬で患者の生活の質にプラスの影響を与えることが示されています」「2018年の系統的レビューによると、ステロイドの局所長期使用と皮膚がんと関連しているかどうかを確立するのに役立つ研究は見つかりませんでした」とやはりコミュニティノートが付いた。

 ワクチンやがんの標準治療に疑義を示す投稿についても相次いでコミュニティノートが付けられ、さすがの内海氏も「ゴミノート」に怒りが収まらなかったらしい。

 「内海氏の様に、独自の医療理論を投稿して目立って来た人には特に、コミュニティノートが付き易い側面は有るでしょう。名も無い、権威も無い、フォロワーも少ない人の投稿は、拡散されにくく多くの人の目に触れないので、例え内海氏と同様の内容を発信してもコミュニティノートは付けられないでしょうから」と前出のITジャーナリストは言う。或る意味、コミュニティノートが付く事は「名誉の証」と言えそうだが、それを静観せず怒りを露わにするのは、「ダメージを受けている」証拠でもあろう。

 「これ迄にも反ワクチンやあやしい医療情報等の投稿には、その内容を疑問視したり訂正を求めたりするリプ(返信)が付いていた。でも、リプ欄は投稿を1つずつチェックしないと表示されず、投稿者本人も無視出来た。しかし、コミュニティノートは投稿そのものと一緒に表示される為、さすがに目障りという事でしょう」(同)

 トンデモ医療を信じるのは〝信者〟と揶揄される特定の層だけと言われてはいたが、公開のSNSに投稿される以上、そうした情報に触れた事の無い人達が新たな〝信者〟になる恐れが有る。又、トンデモ情報の方が拡散され易い傾向に有る為、通常の情報が届きにくくなったりどちらが信頼出来る情報なのか判断するのが難しくなったりする可能性が有った。だが投稿にコミュニティノートが付いていれば、「両方の声」を同時に入手し、ユーザーが判断出来る。

 「ツイッターのルールに違反していない、ユーザーになって半年以上が経過している、電話番号を登録している等の簡単な条件は有るものの、ほぼ誰でもコミュニティノートを書く事が出来ます。ただ、そのノートが表示されるには、一定数の支持を得る必要が有ります。書いた人が『匿名』である事をこのシステムが信用出来ない根拠にする声は有りますが、匿名、実名は関係無く、内容が評価されて初めて表示される事を忘れてはならないでしょう」(同)

 言わば、コミュニティノートはSNSユーザーによる「ファクトチェック」システムと言えそうだ。

医療情報だけでなく多方面に影響か

医療情報は人の生死に関わるだけにより慎重に発信されるべきだが、政治的主張を繰り広げるユーザーにとっても、このコミュニティノートの存在は問題となっている。「私の周辺で最初にコミュニティノートが話題になったのは、政権に批判的な主張で知られる東京新聞の記者、望月衣塑子氏の7月8日のツイートです」と話すのは、全国紙の記者だ。

 問題の投稿は、東京新聞の看板コーナー「こちら特報部」で「原発処理水の放出にお墨付き IAEAは本当に『中立』か 日本は巨額の分担金、電力業界も人員派遣」と報じられたニュースに、望月氏が「疑念だらけ」「IAEAはどこまで信を置けるのか。かねて日本政府は、IAEAに巨額の分担金や拠出金を支出してきた。IAEAのお墨付きは、中立的な立場から出たと受け止めるべきか?」と意見したもの。国際機関には加盟国の義務的拠出金が有り、経済規模に基づく為日本はアメリカ、中国に次ぐ第3位(2020年)であり、21年に派遣された日本人の職員数は41人と、全職員のうち1・6%に過ぎないと指摘するコミュニティノートが付き、東京新聞の報道の信頼性が揺らぐ結果になってしまった。

 「自分が好きなユーザーに公式バッジを与えたり、ツイッターの名前を『X』にしたり、投稿の表示回数を絞ったりと、買収以降、ユーザーから改悪と言われる様々な改革をして迷走して来たイーロン・マスク氏だが、このコミュニティノート機能だけは、ユーザーから高い評価を得ている。逆に言うと、ユーザーの多くはこれ迄、特定の人物による偏った主張によって不愉快な思いをして来たのでしょう。つまり、名も無き多数派ユーザーは、エセ医療に惑わされず特定の政治的主張に与しない人達だったという事です」(前出のITジャーナリスト)

 同じ主張の人達の声だけが目に留まりがちなネット表示に於いて、コミュニティノートは革新的な良いシステムと言える。エセ医学を信じる人に閉口する医療者にとっても救世主と言えそうだが、問題は「X」がいつ迄続くかだろう。

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