SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

首相直轄「感染症危機管理庁」新設へ

首相直轄「感染症危機管理庁」新設へ
コロナ禍の縦割り行政は打破できるのか

通常国会が閉幕した6月15日、岸田文雄•首相は内閣官房に「内閣感染症危機管理庁」(仮称)を新設する事を柱とする感染症対策の組織改編方針を発表した。新型コロナウイルスを巡る政府の対応は、省庁を跨ぐ縦割り行政等が弊害になり感染拡大や国民の混乱を招いた側面が有る。そうした反省点から、司令塔機能を強化する事でコロナや次なる感染症危機にスムーズに対応する組織へと刷新する狙いだ。しかし、岸田首相組は組織再編に当たって「徹底的な検証」を掲げていたにも拘わらず、7月の参院選に合わせて急い↘で「舞台作り」をした感が拭えず、批判も少なくない。不充分な検証のまま決定した組織再編で問題は解決されるのだろうか。

縦割り行政が招いた混乱

17日、新型コロナウイルス感染症対策本部で「内閣感染症危機管理庁」は正式に設置が決定した。現在コロナ対応を中心的に担っている内閣官房の「新型コロナウイルス等感染症対策推進室」と厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対策推進本部」を一本化した組織だ。首相直轄の内↘閣官房に置く事で首相自らリーダーシップを取り、感染症対策の企画立案•総合調整を行い、分散していた指揮命令系統の統一を図る。新型コロナのみならず、今後新たな感染症が蔓延した場合の、国家の危機に対応する司令塔組織と言える。

平時は「感染症危機管理監」(仮称)をトップとして関係省庁の職員を数十人規模で常駐させ、省庁間の調整をしながら医療体制拡充について政策立案する。有事の際は、関係省庁の職員を管理庁指揮下に招集し、1000人に近い体制まで拡充する想定だ。↖

本部会議で決定した組織再編では、アメリカのCDC(疾病対策センター)を手本とした「日本版CDC」の創設も掲げた。厚労省の関係部署を全て統合した「感染症対策部」を省内に新設し、その傘下に設置する。感染症の基礎的な研究を担う「国立感染症研究所」と、臨床や治療まで行える「国立国際医療研究センター」を統合したもので、政策を支える専門家組織として、治療法やワクチンの速やかな開発が期待される。

首相が組織再編を決めたのは、新型コロナ対応を巡る縦割り行政の反省が有る。現在、コロナ対応を中心的に担っている内閣官房「新型コロナウイルス等感染症対策推進室」と厚労省「新型コロナウイルス感染症対策推進本部」。前者は緊急事態宣言の決定や経済政策関連を担い、後者は医療提供体制やワクチン関連、保健所支援等を行うが、業務がかぶる政策はもちろん有る。

例えばワクチン接種。3回目を巡っては、接種を早めたい首相ら内閣官房に対し、厚労省は科学的根拠の薄さや供給量不足を懸念して及び腰だった。昨秋は、抗原定性検査キットを巡っても意見が割れた。内閣官房は行動制限を緩和する「ワクチン•検査パッケージ」制度に取り入れようとしたが、厚労省は「精度が劣るため推奨しない」とした。ワクチンについてはワクチン接種推進担当相もおり、指揮系統が散在しているが為に政府の方針が遅々として固まらず、特にオミクロン株が蔓延した第6波等で国民の混乱を招いた。

縦割り行政の弊害は安倍晋三•元首相(故)、菅義偉•前首相の当時から何度も問題になっていた。岸田首相は2021年9月の総裁選の時点で既に、感染症危機管理庁(仮称•当時の名称は健康危機管理庁)を創設する考えを打ち出していた。コロナ禍の経験を踏まえ、コロナに限らず今後新たに発生するかも知れない感染症対応において強い指揮権限を発揮させ、感染拡大時には省庁横断的に司令塔機能を果たす組織が必要だと主張していた。

更に今年1月、通常国会の施政方針演説で「これ迄の対応を客観的に評価し、次の感染症危機に備えて、本年6月を目途に、危機に迅速•的確に対応する為の司令塔機能の強化や、感染症法の在り方、保健医療体制の確保等、中長期的観点から必要な対応を取りまとめる」との方針を打ち出した。危機管理庁の設置は、岸田首相の〝公約〟が具体化した格好だ。

透けて見える参院選へのイメージ作り

ただ、その実現に至る迄の過程は急ぎ足で、7月10日投開票の参院選へ向けたイメージ作りと取る声も少なくない。5月、岸田首相は政府の新型コロナ対応を検証する目的で、永井良三•自治医科大学長を座長とする有識者会議を設置した。同月11日の初会合に始まり、会議は計5回で、6月15日には報告書がまとまった。報告書は次の危機に備えた態勢作りを提言、これを受けて首相は間髪入れず同日中に記者会見を開き、内閣感染症危機管理庁の新設を柱とする組織改編に踏み出す事を決定したと明らかにした。「出来レース」感は否めない。

有識者会議の発足当時、首相は「徹底的な検証をする」旨の発言をしていた。新型コロナ対策を担う山際大志郎•経済再生担当相も「これ迄どういう闘いをして来たのか全部しっかり検証した上で、次に備える必要が有る」と発言していた。しかし、2年超に及ぶコロナ禍を1カ月で分析出来る筈が無い。案の定、5回の会合の内、ヒアリングは経済や医療等各団体に対して2回のみで、安倍•菅両元首相はじめ政策決定に関わった政治家や官僚からは聞き取っていない。政府分科会の尾身茂•会長も、ヒアリングがごく短時間だったと発言している。

有識者会議の永井座長は15日、記者団に対して検証する論点は政府側から要望があった事、議論の主題は岸田首相が打ち出していた司令塔機能の強化に絞る様政府側に求められていた事を明かしている。「全部の検証は出来ないと思っていた」「コロナ禍は歴史的事件ですから、簡単に検証出来る話でもない」と述べた。「検証」を掲げるなら、政府が用意した資料に限るべきでは無いし、報告書は一旦持ち帰り、政府として改めて掘り下げるべきだ。そうした記者団の指摘に対し、内閣官房の担当者は「解釈の問題。皆さんが思う検証と違うのかも知れない」とかわした。

組織改編も検証も今回で終わりではない

組織改編の発表から1週間後の22日は、参院選の公示日だった。自民党は、念願である憲法改正も掲げており、参院選での圧勝はコロナ禍のみならず政権の安定運営に欠かせない。新たな目玉施策を打ち出して、党のイメージアップに繋げる舞台作りが行われた様な印象が拭えない。

コロナ禍を巡っては、縦割り行政だけでなく国と地方自治体とのちぐはぐさも目立った。ワクチン供給体制や緊急事態宣言等で、都道府県や市町村の希望は中々通らず、むしろ政府の繰り返す方針転換に振り回された。こうした点は有識者会議で検討•指摘され、岸田首相は組織改編を発表した15日、感染症法の改正案を秋の臨時国会に提出する方針も明らかにした。都道府県と医療機関が病床確保や発熱外来の設置等に関する協定を結ぶ仕組みを作り、大学病院等の「特定機能病院」には締結を義務付ける。現場では、病床確保の協定を結んで補助金を受け取りながらも受け入れ要請を断る例が相次ぎ、病床逼迫の一因になった。実効性確保の為、政府は協定を守らなかった際の協定の履行状況公表や、特定機能病院の承認取り消しといった罰則も検討している。

発表方法には政治の思惑が透けて見えるが、法改正やコロナ禍の検証、組織再編が必要である事は間違いない。最近は、感染者数こそ多いものの、病床の逼迫や新たな株の出現等も無く重症化率は下がっている。政府も「会話の殆ど無い屋外でのマスクは不要」等脱コロナに向けた指針を示し始めており、改革のタイミングと言えるだろう。ただ、課題はまだ山積みで今回の改革はあくまで第一歩だ。引き続きコロナ禍の分析を重ね、実行力有る組織に育て、国民の危機に速やかに対応出来る体制を根付かせて行って欲しい。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top
Translate »