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未来の会

第85回 世界目線 「フリーアクセス」とオンライン診療再考 ④

第85回 世界目線 「フリーアクセス」とオンライン診療再考 ④

前回はカナダの資料に基づいて、かかりつけ医の国際比較を行った。今回もその続きを考えてみたい。

地域包括ケアでのかかりつけ医の役割

日本で言われている「地域包括ケア」に対して、かかりつけ医の接点は何であろうか。世界的に言われている「エイジング・イン・プレイス(aging in place)」という考え方は、「地域包括ケア」の原型とも言えるだろう。国民が住み慣れた地域で歳をとり、その地域で最期を迎える、そのために最善の環境を整える、といったことだと思われる。「かかりつけ医がこの役割に対し積極的に関与するべき」という考え方であるとも言えよう。前回も参考にしたカナダの文献を見ると、海外のかかりつけ医は、終末期のケアも含め患者が入院したとか、救急外来を受診したといった動きに対しても注意を払っていることになる。終末期についての話し合いもしていると言えよう。

これに類する試みを、中央大学ビジネススクール卒業の医師・青山友則氏と私で、2022年の日本内科学会において発表を行ったので、『日本内科学会雑誌』からその内容を記載しておきたい。

かかりつけ医との人生会議的会話による高齢患者の変化と意識変容の可能性

目的:「本人の選択と本人・家族の心構え」は、超高齢社会を乗り越えるために構築された地域包括ケアシステムの基盤であるが、人生会議と称される終末期の治療やケアのあり方にもつながる。しかし、社会全体が日頃から人生会議を行うレベルの意識変容までには至っていない。また、患者や家族はかかりつけ医ではなく重篤な病気と診断された病院で初めて担当医から話され考え始めることが多い。本研究では重篤な病気のない高齢患者が、かかりつけ医との人生会議的会話により患者自身および患者−医師関係にどのような変化が起きるか検討した。

方法:生活習慣病等で通院中の65歳以上の高齢患者に対して外来中にかかりつけ医と人生会議的会話を一定期間行った。開始前後で患者の大切な人への思い、かかりつけ医への信頼度等についてアンケートを行い、一部の患者には終了後インタビューを行った。

結果:11名(男6女5)が参加、平均年齢78.2歳。全ての患者が開始前より大切な人(主に家族)を理解し、かかりつけ医への信頼を深めた。また、特に80歳以上は他の人にも人生会議的会話を勧めたい強い傾向があった(p<0.05)。インタビューでは患者はかかりつけ医との人生会議的会話を嬉しく感じ、そのような機会を求めていた。

考察:人生会議的会話によって①大切な人との心構えの形成につながる②かかりつけ医をさらに信頼する③地域の人にも勧めたい気持ちになることが明らかになった。かかりつけ医との人生会議的会話が患者および社会の意識変容につながり、超高齢社会を乗り越えるための新たなかかりつけ医の役割である可能性が示唆された。

オランダに見る終末期医療と家庭医との関わり

図1(19年のデータ) に示すように、欧米(特にオランダ、イギリス、ドイツ、スイス)では、終末期医療に対するかかりつけ医の関わり方が全く異なっている。これらの国でのかかりつけ医は100%近く、終末期についての話を定期的・あるいは時々患者としている。

ここで、02年4月1日に安楽死が法制化されたオランダについて考えてみよう。オランダの居住者は、自宅近辺の家庭医に登録しなければならないルールがある。家庭医の立場で言えば、通常は2500人程の住民の面倒を見ており、その住民に何かあった時は15分程度で駆けつけることになる。家庭医になるためには専門教育を3年間受け、その後も生涯教育が行われ、患者については電子化された医療情報を保管している。

住民を家族単位で見ているケースもあり、個々の家庭の家族構成にもよるが、おじいさんおばあさんから孫までまとめて面倒を見ている、といったこともある。そのため、安楽死というテーマも含め、医学的な意味だけではなく、その人の周りの環境も含めた相談相手になるという点で「家庭医」の存在はオランダの安楽死問題に密接にリンクしている。オランダでは、安楽死法の要件を満たし、届け出を適切に行えば安楽死を行っても犯罪とはならない、とされているのである。

安楽死の要件では、まず、他の医師からも基準(後述の1〜6)についての判断をもらうことが必要になる。そこで、スケン(SCEN:Support and Consultation on Euthanasia in the Netherlands)医師という安楽死に関して経験と専門知識のある医師らが、安楽死実施を検討する主治医にセカンド・オピニオンを提供することも行われる。逆に、患者の要請が基準を満たしていないと判断した場合、医師はそれについて説明することが求められる。また、基準を満たしているけれど医師が安楽死を実施したくない、あるいはできないと判断した場合、別の医師を紹介する。しかし、それでも家庭医から断られる場合があり、その点については後述する。

事後には地域安楽死審査委員会に、自分ともう1人の医師のレポートで報告しなければならない。また病理医が異常死であると報告する。この委員会は全国に5つあり、法律家、医師、倫理専門家の最低3人を含む奇数人のメンバーと、それぞれの分野の代理委員が最低数人いて、法律家が委員長となる。

このような状況なので、かかりつけ医は100%、終末期について患者と議論していることになる。スイスも同様に安楽死が法制化されているためか、ほぼ100%終末期の議論が行われている。

図1 患者と終末期の会話を日常的または時折行うプライマリケア医の割合(「回答しない」を除く) *平均以上
オランダにおける安楽死の基準

1. A voluntary and well-considered request
医師は、患者による任意かつ熟慮された要請が存在したという確信を有していること。

2. Unbearable and hopeless suffering
医師は患者の絶望的かつ耐えがたい苦しみの存在について確信を有していること。

3. Informed about situation and prognosis
医師は患者に対して、その現状およびその予後について十分な情報を提供したものであること。

4. No reasonable alternative
医師は、他の合理的な解決策がないことについて、患者とともに確信を有していること。

5. Consultation of an independent physician
医師は、少なくとも、ほかの1人の独立した医師と相談すること。後者は、患者に面会して、上記lから4に挙げた注意深さの要件について自己の判断を下したものであること。

6. State of the art care
医師は、生命終結行為を医療的に注意深く実施したものであること。

参考文献

Canadian Institute for Health Information:How Canada Compares—Results From the Commonwealth Fund’s 2019 International Health Policy Survey of Primary Care Physicians. Accessible Report January 2020
https://www.cihi.ca/sites/default/files/document/cmwf-2019-accessible-report-en-web.pdf
青山友則、真野俊樹「かかりつけ医との人生会議的会話による高齢患者の変化と意識変容の可能性」日本内科学会雑誌(2022)
シャボットあかね『安楽死を選ぶ——オランダ・「よき死」の探検家たち』日本評論社(2014

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