日本の医療と介護は高齢化の進展で大きな変化が起きている。急性期の患者が減り、ポストアキュート(急性期後)の医療を必要とする患者が大幅に増えているのだ。また、国内に暮らす外国人が急増することで、多国籍化した日本の社会保障をどうすべきかについても考えておく必要がある。この先も質の高い医療と介護を維持するために、今何をすべきなのか、松田晋哉・産業医科大学教授に聞いた。
——日本の医療や介護のニーズは、今後どのように変化していくでしょうか。
松田 日本は成熟社会ですので、これからは高齢者に多い病気がさらに増えていくことになります。キーワードとなるのは「複合化」。急性期と慢性期が複合化し、医療と介護も複合化します。医療・介護と生活も複合化してきます。そのため、単に医療を必要とする人に医療だけを提供していればいい、という時代ではなくなっています。そういった状況があるので、厚生労働省も地域包括ケアということを言い出しているのです。例えば、病院で退院調整をやっている担当者は気づいていますが、80歳を超える高齢者が退院するような場合には、医療や介護だけでなく、生活そのものをコーディネートしないと退院できないケースが増えています。急性期を中心とした今までの医療提供体制が高齢化に対応できていないのでしょう。これからは複合的なニーズを持った高齢者が増えることを前提にして、医療そのものを見直していく必要があります。
——地域による違いもあるのでしょうね。
松田 地域医療構想で大切なのは、慢性期が療養病床と介護施設と在宅の三つになったことです。この三つをどう配分するかは、地域の条件によって異なります。それぞれの地域に合った慢性期のやり方を考えていただくのが、地域医療構想の調整会議の重要な役割だと思います。例えば東京都内には療養病床があまりないので、現在は東京都内の人達を、三多摩地区や埼玉県、神奈川県が引き受けてくれています。しかし、それらの地域でも高齢化が進むと、自分のところで精一杯となり、東京都内の高齢者を受け入れることができなくなります。そうなれば、在宅に向かうしかありません。在宅を増やすには住宅政策とリンクする必要がありますが、現在、都心で次々と建てられている高層マンションは、高齢化を意識したものになっていません。在宅医療や介護をやろうとしても、駐車場もエレベーターも足りません。自治体が指導し、高齢化に備えたものを建てるべきだと思います。
——うまくいっている地域はありますか。
松田 例えば岐阜市では、岐阜駅の隣にタワーマンションがありますが、共有部分にリハビリ・サロンがあり、在宅医療を行っている診療所も入っています。そうやって将来を見据えた街づくりを行っている地域と、そうでない地域では、今後大きな差が付いてくると思います。
——病院はどう変わるべきでしょうか。
松田 ごく一部を除けば、どの地域でも急性期の患者は減っているはずです。日本では既に201
3年時点で、一般病床が8万床くらい余っていたのです。そのため、地方ではたとえ県庁所在地にある大病院でも、病床稼働率が7割そこそこだったりします。しかし、それは仕方がないのです。高齢者が多くなれば、典型的な急性期の患者は少なくなりますし、医療技術が進歩することで、入院患者の在院日数は短くなっているからです。しかし、退院していく患者がすっかり良くなっているのかというと、そうではありません。慢性疾患が元々あるので、完全な健康状態に回復するわけではないのです。その受け皿として、ポストアキュート(急性期後)をどう整備するかという議論が必要になります。ところが、医学教育も看護教育も急性期を中心に行われていますし、いろいろな委員会に出てくるのも、多くは急性期をやっている先生方です。そのため、議論はどうしても急性期中心になってしまいます。本当に必要なのは、ポストアキュートをどうするか、ということなのですが。
——そこにニーズがあるのですね。
松田 私は全国のいろいろな病院に見学に行き、そのレポートを書いていますが、最近はポストアキュートの病院が一番楽しそうに仕事をしていますね。ニーズが膨らんでいますし、クオリティーを上げなければいけないと、いろいろな工夫をしています。例えば、街づくりにまで踏み込んで、医療を提供する体制を整えている病院もあれば、急性期から介護までやる中で、ポストアキュートに取り組んでいる病院もあります。本当にこの分野の皆さんは、実に楽しそうに仕事をしています。
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