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未来の会

菅政権の規制改革:医療界を襲ったハイブロー②

菅政権の規制改革:医療界を襲ったハイブロー②

 前回に続き10月9日付の日経新聞を基に菅政権の規制改革について述べたい。前回は「押印廃止」、「書面・対面の廃止」の中の「オンライン診療」、「常駐廃止」について言及したが、今回は「オンライン診療」と薬剤師・産業医の「常駐廃止」を絡めて詳しく述べてみる。無いようは多少重複するが、勘弁いただきたい。 

オンライン診療

 日本のオンライン診療は1997年に情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について離島、へき地の患者を対象とした医療に限定する形での提供を厚労省により認められた。そもそも、遠隔医療とは、距離を隔てた医療機関間、医療機関・患者間でインターネットなどの情報通信技術を用いて医療を行う行為であるが、①医療機関間(DtoD)の遠隔「診断」と②医療機関−患者間 (DtoP)の遠隔「診療」に分類される。今課題になっているのはDtoPになる。

 医療アクセスの良い日本においても離島やへき地での医療提供体制は不十分であるため、必要性があったと推察される。2015年に厚労省「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」で遠隔診療に関する解釈を示す「事務連絡」がなされ、遠隔診療の基本的考え方とともに、実用化に向け適用範囲が示された。具体的には、離島やへき地、特定疾患などに限らないことや、対面診療と適切に組み合わせることなどである。

 2017年には未来投資会議「未来投資戦略2017」にて「対面診療と遠隔診療を適切に組み合わせることにより効果的・効率的な医療の提供に資するものを評価する」ことが表明された。これにより、限定的な利用からより幅広い遠隔診療の位置づけに変化していった。そして、公式にオンライン診療という言葉が出てきたのが、2018年3月に厚労省より発信された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」であった。これはオンライン診療の対象は原則、再診に限定し、生活習慣病の慢性疾患を有する計画的な指導が必要な患者と明示され、指針に沿った診療の実施を求めたのだ。その後、2018年4月の診療報酬の改定により「オンライン診療」に係る点数が新設された。

 そして、厚労省は2020年4月10日、電話やオンライン診療システムなどの情報通信機器を用いた初診を、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を防ぐための時限的・特例的な対応として解禁し、現在も継続中である。論点は、いつこの時限的・特例的な対応を中止するのか、あるいは恒久的なものとして認めるかである。

 オンライン診療やオンライン服薬指導によって、デジタル化の特徴であるウィナー・テイクス・オール(勝者総取り方式)が顕在化する可能性はある。オンライン診療に対し、まだ対面診療が重要なことは、多くの国民もわかるであろう。オンラインの場合、現状では血液検査もできないし、視診聴診触診といった診察が全くなくなるわけであり、100%デジタルで代用できると思う人は少ないだろう。したがって、今から述べる2つの変化に比べると、徐々に影響が表れてくるものではないかと筆者は考えている。

薬局について 

 前回は、「常勤廃止」により、常勤の薬剤師や産業医が職を失う可能性を指摘した。今回はウィナー・テイクス・オールによる業界再編の視点を示したい。

 薬局のメインの業務は情報提供と物流にあるとはいえ、情報提供においては医師が関与する部分も大きく、薬剤情報が薬局からしか提供されないと考える人は少ないであろう。

 主たる機能である薬の提供という部分は、無形の「サービス」というより、有形の「モノ」の提供である。なので、オンライン化と相まって、かかりつけ薬局といった今まで厚生労働省が進めてきた方向とは全く異なる方向に加速度的に進むであろう。

 すなわち、ウィナー・テイクス・オールが調剤薬局チェーンになるのかドラッグストアチェーンなのかわからないが、患者の利便性を確保、あるいはそこに行くことが便利だと考えた患者の総取りになると考えられる。したがって、調剤薬局・ドラッグストア業界の独占化・寡占化が進むことが予想される。

 産業医については、常勤勤務は大企業に限られるし、生活者への関係が少ないので、薬局に比べると、「常勤廃止」による生活者へのインパクトは少ないと考えられる。

産業医について

 産業医について、経団連は2020年3月に出した「Society5.0の実現に向けた規制・制度改革に関する提言」や今年10月に出した改訂版の中で、産業医の確保が難しい地方での ICTの活用や、現状では認められていない多くの業務でもオンライン対応が可能として常駐の必要性は乏しいと訴えた。

 ただ、常駐の議論とは別に、産業医がすべての業務をオンラインで行うというのも、職場を全く訪問したことがない産業医がいるということになり、おかしな話だ。産業医大のように産業医の養成を行っている医大もあり、オンラインのみの産業医も現れているので、緩和のみならず産業医の教育改革も同時に行われればインパクトは大きい。

 「常勤廃止」の影響を考えてみよう。常駐を外すことは、単に都会に常駐する専属産業医がオンラインで地方もカバーするといったこととは訳が違う。企業から見れば高収入の産業医はコストカットの対象になるだろう。

 産業医にも問題がある。経団連がオンラインでもいいと判断した理由を考えると、おそらく産業医業務が定型的だと判断したのではないか。言い方を変えれば、 産業医業務の大半は一方的で、企業との対話が少なかったのではないか。現在の医学教育では企業を理解している産業医は少ないと考えられる。その改善には筆者が前から主張しているように、産業医は一従業員として企業での勤務経験をしたり、MBA を取ったりすべきだと考える。

 教育分野においても、特に医学系学会などのように情報提供が会議の8割以上を占め、議論が2割以下といったような場合にはオンラインに変わったところであまり問題はない。

消費への影響 

 この2つは消費への影響も大きいと思われる。すなわち薬剤師や医師はかなりの高給取りであり、消費も多かったと思われるからだ。

 最近、医師でもある筆者のところにも多くの案内が送られてくるのだが、医師への投資勧誘は目に余るものがある。しかしそれは、医師や薬剤師が高収入であるので、お金を使わせようという経済原理からいえば当たり前のアクションだと思われる。そこでは少なくともお金は循環していたはずだ。しかしながら、このような規制緩和が起きれば、明日は我が身と考える人も多い。医師や薬剤師の財布の紐が固くなるであろう。

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