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“コロナ・パンデミック”に翻弄される「世界経済」

“コロナ・パンデミック”に翻弄される「世界経済」
株安・円高・原油安、実体経済への打撃、そして景気後退

新型コロナウイルスによる感染拡大が、世界経済に大きな影響を及ぼし始めている。当初は、中国からの観光客に依存する観光業や宿泊業に限定されていたが、じわりじわりと様々な分野に広がっている。株価は徐々に安値を着け始め、ついには3月9日のニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均が前週末の終値と比べ、一時2000㌦も下落したからだ。

 3月10日付の新聞各紙も大きな横見出しで、「NY株2000㌦安」等と大きく報じた。取引開始直後にダウ平均が1800㌦超下がり、2万4000㌦を割り込んだ。ニューヨーク証券取引所は株価の急落を受け、取引が15分間にわたって一時的に停止する混乱に陥ったのだ。

 この日は、日経平均も新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の減速懸念から東京株式市場では取引開始直後から売り一色で、一時1200円以上も下落した。終値で1050円も下げ、下げ幅としては2018年2月6日以来の大きさとなった。

 3月に入り、新型コロナウイルスが世界規模で感染拡大の様相をみせている。米ニューヨーク州は非常事態宣言を出し、イタリア政府はミラノ等北部地域で移動制限措置を発動(その後、全土が対象)。石油輸出国機構(OPEC)とロシア等による原油の協調減産協議が決裂した事で、OPECの中心的存在であるサウジアラビアが増産に転じる姿勢をみせ、原油先物市場が混乱の様相を呈する等、様々な局面に影響が及んでいる。

 この日のニューヨーク株式市場も「様々な材料が投資家をリスク回避に向かわせた結果で、株のパニック売りが起きたとみるのが妥当だ」(あるエコノミスト)との見方が有力である。

 既に国内では景気に悪影響が出始めていた。中国からの航空便欠航やイベント中止による観光客の減少に続き、部品の供給がストップしている製造業にも影響が及ぶ。

 例えば、新潟空港では中国東方航空の上海路線等が欠航となり、佐賀空港では格安航空会社の上海路線の運行が停止になった。宿泊業でも業績を下方修正する企業が現れ始めている。

 北海道は「中国人観光客の減少が3月まで続けば観光消費が200億円以上減る」との予測を公表している。静岡経済研究所は新型コロナウイルスによる宿泊客の減少が6月まで続けば、県内で累計1071億円の経済的損失が生じるとの試算を公表した。内閣府が1月下旬に実施した景気ウオッチャー調査では、全国11地域のうち10地域で19年12月より先行き判断指数が低下する等、早くから兆しは見せ始めていた。

企業の海外投資は世界全体で15%

 こうした世界的な景気の混乱を受け、米連邦準備制度理事会等主要各国の中央銀行は景気を下支えするため相次いで利下げを決定する方針を打ち出している。ただ、日本の場合は、既にマイナス金利を導入しており、さらに引き下げる余地は少ない。

 為替市場の変動も激しく、一時1㌦=101円台となるなど過度な円高基調になっており、財務省幹部は「為替市場の過度な変動は望ましくない」とのメッセージを出している。

 しかし、トランプ米大統領は他国の通貨安を容認しない考えを鮮明にしており、政府による為替介入に慎重にならざるを得ない。証券業界の関係者からは「協調介入も単独介入も想定しづらい」という声が漏れている。

 景気の先行きに対しては厳しい見方が既に出ている。国連貿易開発会議は、新型コロナウイルスの感染拡大がこのまま長引けば、新たな工場の建設など企業による海外への投資が世界全体で15%落ち込むとの予測をまとめた。

 具体的には、今年から来年にかけての海外への直接投資額は、海外への投資を積極的に行ってきた多国籍企業に大きな影響がみられる事から、感染が広がる前の予測と比べ、世界的な感染が今年前半で落ち着けば5%減、年末まで続けば15%減となる見通しを示しており、更なる景気後退は避けられそうにない。

五輪中止なら7・8兆円の経済損失

 懸念されるのは夏の東京五輪・パラリンピックが開催中止に追い込まれないかだ。安倍政権が一斉休校やイベント自粛など経済への悪影響にもなりふり構わずに対応しているのは、「どうしても東京五輪・パラリンピックを予定通り開催したいからだ」(自民党幹部)とされている。

 仮に中止になれば影響は甚大で、SMBC日興証券は、五輪が中止になった場合の経済損失は7・8兆円に上ると試算している。国内総生産(GDP)を1・4%マイナスに押し下げる影響があり、日本経済は大打撃を受ける。国内消費の他、サプライチェーンの依存度が高い中国を取引先とする輸出入減等の影響が大きいとみられる。

 政権のなりふり構わない姿勢は、治療薬の開発を取り巻く環境にも垣間見られる。現在、大手製薬メーカーによる新薬やワクチン開発の他、既存薬の投与も始まっているが、そんな中で一時期、突如として「アビガン」が注目を集めたのは訳がある。

 アビガンは富士フイルムホールディングス傘下の富士フイルム富山化学が開発した新型インフルエンザ治療薬だが、妊婦が使用すると新生児に奇形などの先天的異常を引き起こす可能性があり、推奨されるべき薬ではない。

 しかし、政権に近い読売新聞が2月22日付の朝刊紙面で、アビガンが政府推奨薬として期待を集めていると報道し、それをマスコミ各社が後追い報道したため、世間的に広く知られるようになったのだ。

 これには更なるカラクリがある。富士フイルムホールディングスの古森重隆会長と安倍晋三首相は昵懇の仲で政治献金も受け取っているのだ。下落基調の株式相場とは一転し、富士フイルムの株価は報道後、一時値上がりした。

 厚労省関係者は「副作用もあり、アビガンは推奨しにくい状況で、効果もそんなに期待出来ない。それでも官邸サイドからアビガンを推奨する声が聞こえてきたので、きな臭い感じがしていた」と明かす。

 既に国内経済は消費増税による影響で後退局面にさしかかっていた。内閣府が3月9日に発表した19年10〜12月期のGDP改定値によれば、物価変動を除いた実質で前期比1・8%減。このペースが1年続けば年率換算では7・1%減となる。速報段階の年率6・3%減から下方修正された形だ。国内では昨年夏の段階で既に成長が横ばいとなっており、10月の消費増税等を経て大幅なマイナスに陥っていた事が鮮明になった。

 こうした状況に加え、新型コロナウイルスにより、世界的な大不況に陥りかねない状況が今後も続く。東京五輪や安部政権の行方は、このウイルスの動向次第といえる。

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