SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

GDP戦後最大の下落で幕閉じた「歴代最長政権」

GDP戦後最大の下落で幕閉じた「歴代最長政権」
安倍首相は辞任会見で「アベノミクス」には言及せず

 新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない中、6月17日に通常国会が閉会した後も野党の臨時国会召集要求を無視し、ろくに記者会見も開かず政治的空白をいたずらに長引かせていた安倍晋三が、8月28日に突如首相を辞任した。

 9月8日には、内閣府が2020年4〜6月期の国内総生産(GDP)の第2次速報値が前期比で実質7・9減、年率換算で28・1%減になったと発表した。リーマンショック後の年率17・8%減(09年1〜3月)を上回る戦後最悪の下落で、「戦後最長期政権」の末路を象徴していたと言えなくもない。

 今年4〜6月期の年率換算の実質GDPは485兆円となり、第2次安倍政権発足時の12年10〜12月期の498兆円に及ばない。いくらコロナ禍があるとはいえ、これまで安倍が自画自賛であれほど「成果」を吹聴していた「アベノミクス」の評価が問われようが、辞任の記者会見で本人は一切この用語に触れてはいない。そのことが、全てを示していよう。当人ですら、失政を認めざるを得なかったのだ。

水泡に帰した経済政策の目標数値

 おそらく戦後の首相で、掲げた内閣の経済政策の目標数値が、かくもことごとく水泡に帰した例は安倍以外に皆無ではないか。思い付いただけでも、その主な項目は以下のように提示出来る。

 ①消費者物価の前年比上昇率を2年間で2%上昇→日銀総裁の黒田東彦がデフレ脱却を目指して13年4月に提示したが、2年どころか現在まで達成不能。日銀が市場で国債を買い、市場に大量のマネーを流す「異次元の規制緩和」を導入したものの、15年4月から20年6月までの食品やエネルギー、消費税を除いた「コア・コア」インフレ率は、わずか平均0・2%だ。

 ②10年間の平均で名目3%、実質2%の経済成長→13年6月に閣議決定された 「骨太方針」で明記されたが、未達成。「アベノミクス」開始以来、コロナ禍の前の18年までの6年間の平均成長率はたったの1・2%にすぎない。潜在成長率に至っては、19年は0・9%で4年連続の横ばいに終わっている。安倍が掲げた「成長戦略」等、一度も実現した試しはなかった。

 ③20年頃をめどにした名目GDPの600兆円達成、出産率の1・8までの引き上げ、介護離職者ゼロの実現→安倍は15年9月の自民党総裁再選後、「新三本の矢」と称してまとめて掲げたが、全て失敗。GDPがピークに達したのは19年7〜9月期の約539兆円で、目標には遠く及ばなかった。

 ④国債を除いた予算全体である基礎的財政収支(プライマリーバランス)の20年度黒字化→安倍内閣が15年に掲げたが、失敗。18年6月に達成困難と分かって25年まで先送りしてしまった。更に現状の試算では、29年でも達成困難という。

 何の事はない。安倍が打ち上げるたびにNHKの政治部あたりが大宣伝した「一億総活躍」だの「地方創生」「働き方改革」「人づくり革命」「すべての女性が輝く社会づくり」等々と同様、結局「やっている感」の演出狙いに本人の虚言癖が加わって、空疎なスローガンで終わっている。

 だが経済は、安倍が打ち上げるごとにカメラの前でこれらの「〇〇本部」の看板を手にしてニヤついていればよかったのと異なり、国民の生活に直結する。

 結局後に残されたのは、第2次安倍政権が新たに発行した実に約352兆円にも及ぶ国債の山という負の遺産。既に政府債務(国債および借入金残高)はGDPの2倍以上にもなる1355・8兆円に達し、対GDP比率で先進国ではワーストワンの悪化ぶりだ。ここまでやってもGDPの成長率が2%にも届かないのは、「アベノミクス」が根本的に欠陥を抱えているためというしかない。

実質賃金低下でデフレ脱却ならず

 第2次安倍政権下の7年8カ月あまりの期間に、勤労者一人当たりの実質賃金は何と3・5%も低下。こんな例は、他の先進諸国ではまず見られない異常現象だ。

 その結果、個人消費が停滞し続け、個人消費が6割以上を占めるGDPがいっこうに伸びないのも不思議ではない。デフレ脱却が困難になるのも当然なのだ。

 それでも、12年10〜12月期から14年1〜3月期までの四半期は円安もあって経済の成長率は一時的に高い数値を記録したが、14年4月の消費税率引き上げで頓挫。

 しかも19年10月には、安倍は懲りもせず何度か延期された後、歴代首相として初めて任期中の2度目の引き上げに手を付けた。

 既に18年10月から始まっていた景気の後退局面に実施しため、コロナ禍の影響とは無縁に19年10〜12月期の実質GDPがマイナス6・3%という大幅な落ち込みをもたらしたのは記憶に新しい。

 反面、第2次安倍政権下では法人3税が段階的に引き下げられ、税収の減少分は昨年10月段階で298兆円に達した。加えて「金持ち優遇」と批判が多い所得税・住民税の減税によっても、275兆円の税収減をもたらしている。

 そもそもいくら法人税率を下げようが、企業の設備投資も賃金も増えず、内部留保と役員賞与等に回るだけで景気回復に役立たないのは、事前に容易に予測出来たのではなかったのか。

 こうなると「アベノミクス」は、「アベノミス」で日本経済を痛めつけた挙句、500億円近い税金を投じて不評を買っただけの「アベノマスク」で終わったに等しい。

 一方で、この期に及んでも「アベノミクス」の「成果」なるものを真顔で語る向きもある。その理由は「株価を上げた」というが、いかがなものか。確かに第2次安倍政権発足直後の12年末では、日経平均株価が8000円の水準にあった。その後、2万4000円の水準まで上がり、3倍化したのだから「成果」と言えなくもない。

 だが、これは錯覚なのだ。安倍の在任期間中に13兆円も実質GDPが減少しているが、そんな国で株価が3倍になるはずもなく、ひとえに株価は経済実態を反映しなくなっている。つまり安倍が人気取りのため、公的マネーを市場に投入した結果にすぎない。

 今や、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が東証1部で保有している株の保有額は約40・3兆円に達し、時価総額では全体の約7%(20年6月末現在)に達する。

 日銀も、先進国では例のないETF(指数連動型上場投資信託受益権)の年間6兆円ペースの買い入れに走り、日本株の約6%、33兆円を保有するに至っている(20年7月末現在)。しかし、いくらこんな小細工を弄したところで、市場が歪む事があっても、肝心の経済回復にどこまで役立つのか。

 今やコロナ禍で内需も外需も総崩れ状態で、二番底、三番底が到来する可能性もある。それでも、次期内閣の「アベノミクス継承」方針は動かし難いらしい、これでは先が思いやられるというものだ。 (敬称略)

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top