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新型コロナワクチン開発競争で日本再びの「敗戦」

新型コロナワクチン開発競争で日本再びの「敗戦」
カネ・人で国ぐるみ支援の米中にすべなし日本

新型コロナウイルス対策の切り札、予防ワクチンの開発に世界がいましのぎを削っている。

 中国のカンシノ・バイオロジクスは、3月に治験1相、4月にその先の治験2相に進んでいる。5月22日には英国の医学専門誌『ランセット』に治験1相のデータを分析した論文が載った。現時点で開発速度だけなら僅差で米モデルナをリードし、世界のトップを走る。

 5月末にはカンシノとは別の中国製薬企業のワクチンが2相を終えて、今年末か来年初に市場投入の可能性がある、との報道も飛び込んできた。報道によれば、こちらは年1億〜1・2億回分の生産能力を目指すという。

欧米中は夏の最終治験入り

 米モデルナは、mRNAというウイルスの遺伝子情報を組み込んだ新種のワクチンを引っ提げて、3月中旬に治験一番乗りをした。開発・製造期間が圧倒的に短縮出来る、このワクチンの強みを最大限生かした。

 5月18日には1相で開発ワクチンを接種した被験者の体内で抗体を確認したと発表した。参加者45人中、少なくとも8人からはウイルスの感染予防に繋がる「中和抗体」が検出出来たという。5月末に600人規模の参加者を募る治験2相が始動。さらに異例な事に2相の結果を待たずに、すぐさま7月に3万人規模の最終3相に突っ込む計画だ。

 モデルナは2010年創業。18年12月に米ナスダックに上場したバイオベンチャー。ワクチンが承認・販売に漕ぎ着けるまでには開発・製造に数百億円はかかる。多くの人にワクチンを届けるための量産製造能力も必要だ。新興企業の泣き所は、この巨額の資金と大きな製造能力が欠如する事だが、モデルナはこの点も早々とクリアしている。

 資金面では米国の政府機関、生物医学先端研究開発局(BARDA)から500億円超の資金供与を獲得。ワクチン開発への期待で膨らんだ株価(一時は株価87㌦、時価総額もなんと3・4兆円に到達)を利用し、新株発行で1400億円規模の資金を市場から調達する。

 5月1日には世界有数の製造受託会社のスイス・ロンザと10年の生産契約を結んだ。7月から出荷を開始、生産レベルを21年には年間10億回分規模に引き上げる手筈を整えた。

 英オックスフォード大学もすごい。治験1相入りは4月下旬とモデルナにやや遅れたが、治験参加者は1000人超と1相では大規模。4月末に英製薬大手アストラゼネカ(AZ)とワクチン開発で提携した。

 開発主体を引き継ぐAZが6月に英国で1万人規模の2相を開始した。8月にも米国で3万人規模の最終3相が始まるもようだ。

 9月にも量産を始め、1億回分を英国に供給する。米BARDAから最大1300億円の巨額資金の提供を受け、米国にも3億回分のワクチンを供給する事で合意した。 

 6月に入り、インドのワクチンメーカーや、国際的な官民連携の医薬開発支援組織2つと個別に協定を結び、新興国等への供給も視野に20億回分まで生産能力の拡充を図る。

 米製薬大手J&JもBARDAから資金500億円弱を獲得。7月に1・2相を始め、9月に3相に入るとの報道も6月に出た。早期に年10億回分の量産体制を確立し、21年にはワクチンの提供を開始する。

 米ファイザーは早ければ年内に数百万回分、21年中に億回分単位の供給が可能になるという。J&Jとの違いはドイツの新興企業ビオンテックとの提携。この独企業に大型業務提携で最大800億円を支払うのは、そのmRNAワクチン技術の高さに期待するため。5月までに米独で1・2相入りしており、夏の3相開始も可能だ。

規模・速さで日本の劣勢鮮明

 6月3日、塩野義製薬は新型コロナウイルス感染症に関する取り組み状況の第2弾を発表した。新型コロナワクチンの開発は、「早ければ年内にも治験を開始出来そうだ」と手代木功社長が言う状況にある。

 子会社のUMNファーマの工場で7月後半から生産を始め、治験の前段階の試験の準備をするという。 

 6月1日の新中期経営計画説明会でも、手代木社長は来年1月以降に量産体制が整うベストシナリオの下、「年1000万人分の生産がなんとか動くかも」と発言している。

 大阪大学発バイオ企業アンジェスもこの熾烈な国際的開発競争に飛び込んだ稀有な日本企業だ。3月初旬に阪大や検査試薬大手タカラバイオと手を組みDNAワクチンの共同開発を始めるとぶち上げた。mRNAの代わりに、その親戚ともいえるDNAを使うのがモデルナとの違い。開発製造が早い点は同社と共通する。

 3月には動物実験に入り、5月にはワクチンを投与した動物で抗体が出来たと発表。当初の9月の予定から2カ月前倒しして7月にも、治験1相に入れる地点に漕ぎ着けた。治験が上手くいけば、10月にも数百人規模の2相に進める腹積もりのようだ。製造を担うタカラバイオは滋賀・草津の本社工場で年内20万回分のワクチン生産体制を整えた。来年には100万回分の量産に取り掛かる事も視野に入っているもようだ。

 ここまで書けば分かるように、日本を代表するこの2社にしても、欧米や中国等の先頭ランナーと比べての出遅れは鮮明だ。速度だけではない。極めて多数の人にワクチンを届ける必要上、量産体制を敷く必要があるが、その点でも世界を視野に入れる欧米等との差は大きい。

 日本のプレイヤーの努力に意味がないわけではない。欧米や中国がワクチン開発に成功しても、当初は自国優先で日本にワクチンを回す余裕がない事も十分考えられる。その意味でもワクチンの国産化努力は国策として強化すべきだ。ただ仮に成功しても、今のままでは日本ローカルのワクチンにとどまる懸念は強い。

 4月末、米国は「ワープ・スピード作戦」という名の強力なワクチン開発計画を始動させた。年末か来年初頭までに米国の人口に相当する数億回分のワクチン供給を実現するというもの。そのため開発や製造支援に兆円単位の国費を投じる。

 先述したBARDAからモデルナ等への巨額資金提供はその一環だ。開発が途中で頓挫するかもしれない上、ワクチン開発の成功が保証されない段階で大きな製造能力構築に金を突っ込むリスクは民間企業にはつらい。モデルナ等がリスクに立ち向かえるのも、政府の力強い支援の存在が大きい。これは感染症対策に15兆円の資金を用意する中国も同じ。中央政府、学術組織、人民解放軍等が一体で治験から製造・購入保証まで手厚い支援をする。

 第2次補正予算でワクチン向けに1000億円超の予算を付けたと胸を張る日本政府。ただ米国では、ギリアドの「レムデシビル」でも、モデルナのワクチンでも政府系機関が治験主体になった。資金供与額だけではない、この政府支援を巡る絶望的なまでの彼我の差。

 国の支援を根本から変える事でしか、新型コロナワクチンの喫緊の開発でも日本の「敗戦」は回避出来まい。日の丸ワクチンの劣勢が、製薬企業の怠惰や実力不足のせいだけでない事をよく考えるべきだ。

 

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