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「新型コロナ対策」として 厚生労働省が行ってきた事

「新型コロナ対策」として 厚生労働省が行ってきた事
鈴木 康裕(すずき・やすひろ)1959年神奈川県生まれ。84年慶應義塾大学医学部卒業、厚生省入省。98年世界保健機関(WHO)派遣。2005年厚生労働省医政局研究開発振興課長。09年同省新型インフルエンザ対策推進本部事務局次長。10年同省保険局医療課長。12年防衛省大臣官房衛生監。14年厚生労働省大臣官房技術総括審議官。16年同省保険局長。17年同省初代医務技監。

昨年末、新型コロナウイルスが日本に入る前から、厚生労働省の新型コロナ対策が始まった。水際対策、クラスター対策、検査体制における目詰まり解消、新しい医療体制の構築等、次々と対策を打ち出し、4月末時点では、急激な感染拡大は抑えられ、既にピークアウトしたと見られている。日本のコロナ対策を内側から見てきた鈴木医務技監に、これまで行ってきた事を語っていただいた。

——日本ではPCR検査が抑えられてきたと言われていますが、制限した理由は?

鈴木 我々としてはPCR検査を抑えてきたつもりはありません。現在、1万6000くらいのキャパで、最大で1日9000を超えるくらいの検査を行っています。韓国はキャパ3万程度で、最大1万8000くらい。もちろん韓国の方が多いのですが、日本が意図的にPCR検査を抑えてきたという事はありません。そうではなくて、保健所への電話が繋がりにくいなど、いくつか目詰まりを起こしていた部分があって、なかなか検査が受けられないといった事が起きてしまったわけです。そこは改善すべきと思っています。それから「37・5度以上の発熱が4日以上」というのも、検査数を減らすためと思った人がいたようです。あれは受診の目安で、インフルエンザなら熱は1〜2日で下がるので、通常の人なら4日以上、高齢者や基礎疾患のある人は2日以上熱が続いたら受診してください、という事だったのです。伝え方にも問題があったもしれません。

——検査数は多ければ多い方がよいのですか。

鈴木 そうではありません。仮に国の人口が1万人で、有病率が1%とすると、感染者が100人、非感染者が9900人いる事になります。この全員に、感度(感染者が陽性と出る率)と特異度(非感染者が陰性と出る率)が99%の検査を行うとします。すると、感染者100人の検査結果は、陽性が99人、間違って陰性となる人が1人います。非感染者9900人の検査結果は、陰性が9801人、間違って陽性となる人が99人います。つまり、陽性となる人の半分が、本当は感染していないのに陽性となる疑陽性なのです。この人達は感染していなかったのに陽性グループに入れられ、感染してしまいます。それに陽性者の半分が疑陽性だとしたら、医療機関の病床を本当に必要でない人が埋めてしまう事になります。実際には、PCR検査の感度は99%よりはるかに低いし、日本の感染率が1%という事もありません。人口1億2000万人の1%は120万人ですから、現在までに分かっている感染者数の100倍近くになります。検査の感度や有病率がもっと低くなれば、全員を検査した時の疑陽性の人の割合はもっと多くなります。とにかく検査数を増やせ、全員にしろという意見もありますが、専門家は全体の事を考えていると思います。我々もメディアの人達にいろいろ説明しているのですが、この手の話はやや専門的なので、どうしても報道は「今日の新たな感染者は何人」という話が中心になってしまうようです。

——新型コロナウイルス発生当初から、日本はどのような対策を取ってきたのでしょうか。

鈴木 最初に行ったのは水際対策です。武漢市や湖北省から来た人、もしくはそういった方に接触した人を対象に、検疫を徹底的にやるというのが最初でした。ウイルスが日本に入ってからは積極的疫学調査で、人との接触をトレースする事を丹念に行ってきました。これが日本の対策の特徴でもありますが、ある程度の流行状態までは非常に有効だったと思います。また、それによってどのような所で感染が起きるのかが分かってきました。例えば屋形船とか、ライブハウスとかですね。3つの密が揃う所で集団感染が起きている事が分かり、3密の場所に行かない、3密の場所を作らないのが大事だという事になっていきました。ただ、東京や大阪のように一定程度以上の感染が見られるようになると、なかなかトレースも出来なくなります。そういう中で、医療体制の強化が重要な時期になっていると思います。

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COMMENTS & TRACKBACKS

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  1. 少なくとも判明してニュースになっただけで38件の偽陽性例がある。さんざん「陽性者数は氷山の一角」といわれていたけれど、そんならこの偽陽性者数も氷山の一角じゃないの?

  2. By 通りすがり

    特異度99%と言う専門家が未だにいるのか、と驚くと共に情けなく思う。

    検査原理を考えると偽陽性の原因は検査ミスによる他検体試料の混入で、つまり検査技師の人為的ミス。どの国でもPCR検査の特異度は十分高いと認識されているので偽陽性はあまり問題とされていない。実際、武漢市の大規模スクリーニングPCR検査の結果から示唆される特異度の最小値は99.997%、つまり偽陽性は3万人の検査で1人出るか出ないか。日本でも流行が落ち着いた近々3週間で感染者0の県が24。この期間これらの県では述べ1万人程度検査を受けている。しかしその中から陽性は0、依って偽陽性も0。つまりこのグループについては特異度は99.99%以上という事。最近のCOVID-19論文で特異度99%などという値を用いた議論をしている物は無いと思う。

    特異度99%とは、技師は100回の検査で1回ミスするという想定。なぜそんな値がまかり通っているのか?専門家として表に出る人々はマネージャーばかりで知識の更新が止まった人ばかりなのか。或いは検査技師を一段も二段も低く見る病院の文化が遠因か?

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