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未来の会

第118回 新型コロナ治療薬「最短9カ月」で承認の眉唾

第118回 新型コロナ治療薬「最短9カ月」で承認の眉唾
虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 こういう類の話を、「眉唾物」と呼ぶのではないだろうか。『産経新聞』(電子版)の3月27日付に掲載された、「武田薬品が新型コロナ回復者の血液収集、治療薬は最短9カ月で」という見出しの記事の事だ。それによると、「新薬の研究から実用化までには通常、安全性の試験や治験(臨床試験)などのプロセスが複雑で10年以上かかるといわれている」にもかかわらず、武田は「新型コロナの治療薬」を、「今春以降、なるべく早く治験に入り、9カ月から18カ月で実用化したい考えだ」という。

 また、『ブルームバーグ』の3月17日付、「武田薬、新型コロナ治療薬の迅速承認に自信‐既存の生産設備活用で」と題した配信記事も、武田の「新型コロナウイルス感染症の治療用に開発を進めている血漿(けっしょう)由来製剤」が、「順調にいけば、他社に先んじて最短9カ月で承認を得られる可能性があるという」と報じている。似たような記事は他のメディアにも掲載されているから、武田が積極的に発信していると考えられる。

 しかし、これらの記事をいくら読んでも、なぜ通常「10年以上かかる」新薬の「実用化が」、4月になって全世界で10万人を超える死者を出しながら、未だに正体が解明し切れていない新型コロナウイルスの「治療薬」に限って、「9カ月から18カ月で実用化」が可能となるのか、よく理解出来ない。しかも、この20年以上も、ヒットとなった自社オリジナルの新薬を何一つ生み出す事が出来ないでいる武田が、である。

 昨年11月に武田が東京で開いた「R&D(研究開発)デー」と銘打った説明会でも、披露された「有望な新薬候補」(2020〜24年承認目標)だという12製品14効能のうち、自社オリジナルがわずか2品目に留まっていたのは記憶に新しい。

血漿由来製剤のコロナへの有効性は不明

 それでもこれらの記事によれば、武田が「最短9カ月」と豪語する根拠のキーワードは、「血漿」にあるらしい。武田の「治療薬」は「新型コロナに感染して回復した人の血液の中にある血漿成分から、抗体を含む『免疫グロブリン』と呼ばれる成分を抽出して精製する。抗体をほかの患者に投与することで、患者の免疫が活性化され、病状を軽減することが期待できる」のだという(前出『産経』)。

 更に、「製造に関して同社は『武田が持っていた既存の免疫グロブリン製剤と全く同じプロセスで製造できるので、血漿の確保と治験がクリアできれば、製造面ではすぐに対応できる』と説明する」(同)。つまり「武田が持つ既存の免疫グロブリン製剤とは、実は一昨年(ママ)に買収したアイルランドの製薬大手、シャイアーが抱えていた医薬品だ。シャイアーは血液由来の医薬品のリーディングカンパニーで、『アルブミン製剤』や『免疫グロブリン製剤』の開発ノウハウを持っていた」(同)からとか。

 既に新型コロナウイルスに関しては、英グラクソ・スミスクライン(GSK)や仏サノフィ、米ジョンソン・エンド・ジョンソンといったメーカーが開発を表明しているが、いずれもワクチンの開発を進めている。果たして「感染して回復した人」の血漿から抽出した「成分」がこのウイルスに効くのかどうかすら何も確定していないのに、その前の段階で「製造面ではすぐに対応できる」と胸を張られても、「9カ月から18カ月」云々の根拠になるとは考えにくい。

 確かに武田が買収したシャイアーは、「血液由来の医薬品のリーディングカンパニー」だったが、これも2016年に血漿分画製剤で当時の「リーディングカンパニー」の米バクスアルタを買収していたからだ。いずれにせよ、武田が血漿分画製剤の有力商品を手に入れた事と、新型コロナウイルスに果たして血漿由来製剤が有効か否かは、何の関係性もない。いったい、「9カ月から18カ月で実用化したい」等と世間に宣言した武田は、本当に勝算があるのだろうか。

 むしろ信憑性は別にして、何か「話題作り」の必要性からアドバルーンを上げたのかと勘繰りたくもなる。新型コロナウイルスの猛威で株式市場は散々な有様だが、それを差し引いても、3月17日に自社の株が遂に3000円を下回り、2894円50銭という値を付けたのは武田にとってショックだったろう。昨年11月から今年2月あたりまで4300〜4500円台を推移していたが、3月になって徐々に下落。4月に入ってから回復しているのは、「新型コロナ治療薬の迅速承認に自信」という報道の効果なのだろうか。

 しかも、今回の一連の記事について、「日の丸」製薬メーカーがコロナ危機から世界を救い出してくれる——というように受け止め、拍手を送る反応も少なくないようだ。まだ海のものとも山のものとも分からないのに、単に当事者の「期待」だけが先行しているだけの新薬開発話が、「最短9カ月」などという口上を伴ってメディアに登場するのは違和感が付きまとう。単なる「話題作り」だとしたら、武田が株価急落で頭を抱えているのが動機だろうか。

京大との連携も「話題作り」だったのか

 一方で、気になるニュースがある。『毎日新聞』(電子版)3月31日付によると、「京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授が28日までに共同通信のインタビューに応じ『新型コロナウイルスの感染拡大が非常に心配。iPS細胞も対策に貢献できると思う』と話した。ウイルスの専門家らにiPS細胞からつくった人間の肺の細胞を提供し、感染実験を通じて性質解明や治療薬の開発に生かしてほしいとした」とある。

 この「京都大iPS細胞研究」といえば、武田が15年12月、大々的に「iPS細胞の臨床応用に向けた六つの共同研究を始めた」と発表し、世の注目を集めた相手だ。つまり研究所のメンバーが武田の湘南研究所(当時)で研究し、糖尿病等の治療法の開発にあたるとされた。ならば本来、「血漿由来製剤」よりこちらの方がコロナ対策上、現実味がありそうな気がしないでもない。

 ところが武田との「共同研究契約」の場となったはずの湘南研究所は、いつの間にか約400人もの研究員がリストラされ、武田も糖尿病治療薬から手を引いた挙句、有象無象のベンチャーや他の製薬メーカーまで入居する「湘南ヘルスイノベーションパーク」に衣替え。「共同研究」も発表から5年経ったが、成果等聞こえてこない。武田の「新型コロナ治療薬」開発も、この「パーク」とは無縁のようだ。

 メディアが騒いだ武田の「京都大iPS細胞研究所」との提携は、「話題作り」だったのだろうか。ならば「最短9カ月」の「新型コロナ治療薬」実用化も、その二番煎じになりかねない。

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