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未来の会

第33回 〝老獪な尾身氏〟が引っ張るコロナ対策

第33回 〝老獪な尾身氏〟が引っ張るコロナ対策
尾身 茂 新型コロナウイルス 感染症対策専門家 会議副座長

 新型コロナウイルス感染症対策を検討する政府専門家会議の副座長を務める尾身茂・地域医療機能推進機構理事長が引っ張りだこだ。一時は連日のようにマスコミに登場、政府に代わり新型コロナ対策を国民に発信した。そんな尾身氏が元厚生官僚だという事はあまり知られていない。

 尾身氏は東京都出身で71歳。東京教育大附属駒場高校在学中にアメリカ留学、「海外のいろんな場所で生活したい」と思い、外交官を志した。当時は学園紛争の真っ只中で、志望していた東京大受験は諦めた。慶應大法学部に進学したものの、内村祐之の『わが歩みし精神医学の道』を読み、医学に関心を持った。たまたま学生募集の広告を目にした自治医大を再受験、1期生になった。父はクレーン運転手で身内に医療関係者がいない尾身氏は「1年間寝ずに勉強すれば入れるだろうと過信していた」と苦笑するものの、夢を叶える。学生時代は「勉強はやる時はやったが、普段の寮生活はジャン荘みたいだった」と振り返る。

 卒業後は伊豆七島に配属された。濃厚な人間関係の中で、様々な世代や階層の人達と出会い、「広い視点から社会や物事を見るのが面白かった。行政や社会の仕組みを学んだ」と言う。ただ、外交官になるという夢も捨てきれず、世界を相手にする世界保健機関(WHO)で働く事を目標とした。日本の医療界に人脈を築くため旧厚生省に入省し、1989年から保険局医療課で1年間ほど勤務。本人にとってはあくまでWHOで働くためのステップだったようだ。しかし、ここで身に付けた行政感覚が後に役立つ事になる。

 翌年からWHO西太平洋地域事務局に入り、99年には事務局長に就任。在任中は特にSARS対策に尽力した。2006年には政府から推される形でWHO事務局長に立候補し、安倍晋三首相も支援したが落選し、自治医大教授等を経て現職に。新型インフルエンザ対策の基本的対処方針等諮問委員会の会長等に就任し、今回のコロナ対策でもいの一番に声を掛けられ、要職に抜てきされた。国内で感染が確認された当初、加藤勝信・厚生労働相も「まずは尾身さんに聞け」と信頼を寄せた。

 専門家会議でも「8割おじさん」こと西浦博・北海道大教授とは所々で意見が対立しながらもうまく丸め込み、クラスター対策のキーマン、押谷仁・東北大教授には時に叱責しながら議論をリードしてきた。「批判の矢面に立たされ、政府にいいように使われている」と愚痴をこぼしながらも安倍首相の会見に同席し、国民に広く知られる存在となった。PCR検査が必要な人が受けられないとの批判が大勢を占めると、専門家会議での報告書に経緯や反省を盛り込む等、世論を読む力には長けている。ある大手紙記者は「感染症の分野は原理主義に走りがちな学者が多い中、政治や行政を知っている尾身氏がうまく政府と専門家会議の橋渡しとなっている。NHKをひいきにしているが、記者に話を聞かれれば『君はどう思う』と逆質問し、世論の動向を気にしていた」と評する。「不思議の国ニッポン」と海外メディアに論評されながらも、何とか感染ピークを乗り切った。第2波が予想される中、今後も尾身氏がキーマンなのは間違いない。

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