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未来の会

「病院倒産」を回避する経営管理

「病院倒産」を回避する経営管理
再建の鍵を握るのはトップのリーダーシップ

令和最初の年明け、診療報酬改定もすぐ間近に迫っている。次期改定(2020年度)では、技術料に相当する本体部分は、前改定(18年度)と同率の0.55%(国費約600億円)引き上げるプラス改定となった。しかし、薬価の1.01%引き下げにより、実質は0.46%のマイナス改定となることが決まった。

 2019年を振り返ると、9月末に自治体病院などに衝撃が走った。厚生労働省が、手術実績が乏しいなどを根拠に、「再編統合について特に議論が必要」として、424の公立・公的病院名を公表して、検討を迫ったからだ。

都立病院は効率化のために独法化

 地域の事情に配慮していないとして、各地で反発を招いた。一方で、実際に赤字が積み重なって存続が厳しいことを実感し、近隣の病院と統合再編もしくは役割分担をすることで共倒れを回避したいといった本音も漏れ聞こえてくる。

 424病院の中には、東京都の病院が10あり、都立病院も含まれている。神経疾患の専門病院である都立神経病院である。

 同院をはじめ都立病院は不採算な政策医療を担い、これを維持するために、都は毎年、一般会計から約400億円(うち神経病院は30億円)を病院会計に繰り入れている。しかし、2016年度からは赤字が続き、2018年度は総額で30億円を超えた。都病院経営本部は年末に、都立病院の経営形態の在り方などを示した「新たな病院運営改革ビジョン」の素案を公表。2月7日までビジョンへの意見を募り、これらを踏まえて年度内に報告書を完成させる予定だ。

 ビジョンの中では、都立8病院、東京都保健医療公社の6病院及びがん検診センターについて、地方独立行政法人化して一体的な運営とすることで、様々な課題に対応していくことが最善である旨が明記されている。都では、病院経営改善のため、地域の病院などに患者の紹介を呼び掛ける他、2018年度からはコンサルタントに依頼して、診療データの分析や助言を求めているが、赤字は膨らみ続け、効率化のための大なたを振るうことになった。素案では、今後は地方独立行政法人への移行に向けて準備を進める方針が明記されている。

 都財政からの補填がなければ、病院会計の「実質的な赤字」は430億円超となり、とても持ちこたえられない。公的病院は、まだ恵まれているとも言える。より深刻なのは、こうした補填のない民間病院だろう。再編の議論も、公立・公的病院を俎上に載せただけでは進展しない。病床ベースでは、日本では民間病院が全体の7割以上を占め、大都市部には民間病院が多い。

 民間病院は、厳しい経営環境にさらされている。中央社会保険医療協議会が2019年11月に公表した調査では、民間病院の3割超が赤字経営に陥っていると回答。診療所も約3割が赤字を抱えており、厳しい実情は破綻した医療機関の数にも反映されている。病院・診療所・歯科医院を合わせた倒産件数は2019年には40件を超え、この10年で最多となった。

 既に人口は減少に転じており、地方では患者減少に見舞われている。片や都市部では、医療機関同士が激しい競争を繰り広げて、慢性的な赤字体質に陥っているところもある。診療報酬が右肩上がりの時代ならいざ知らず、そもそも経営のプロフェッショナルではない医師には、医療法人の舵取りは難しい。

 医療界が経営に苦慮していることは、たびたび報道されるので、一般市民も敏感に感じ取っている。娯楽の世界にまで影響している。

「医療は経済的な弱肉強食の時代に突入」

 「2019年、白い巨塔は完全に崩れ落ちた。日本の大学病院は巨額の赤字に追い込まれ、命のやり取りをする医療は経済的な弱肉強食の時代に突入した」——テレビ朝日のドラマ『ドクターX』第6シリーズのイントロダクションである。

 虚構の世界であるが、大衆娯楽であるテレビや映画は、敏感に現実を切り取ってデフォルメしている。医療ドラマも、その例に漏れないだろう。

 ご存じない人のために。米倉涼子が演じるドクターXこと大門未知子は、架空の女性外科医である。医局に属さないフリーランスで、専門医のライセンスと叩き上げのスキルを武器とし、「私、失敗しないので」を決めゼリフに、自らのメス捌きで困難な症例を次々に治癒に導く。予定調和で一件落着する『水戸黄門』的な痛快さが、人気の秘訣のようだ。たかがドラマと侮れないのは、近年は「大門に憧れて」と、女性外科医を志望する者もいるのだという。

 さて、第6シリーズでは、大門の派遣先で国立の雄である東帝大学病院に、権威世代と次世代のバランス、コンピューターやAI(人工知能)との共存といった時代の波が押し寄せる。“白い巨塔”はかつてない大赤字に見舞われて倒産寸前となり、ハゲタカの異名を持つ投資家、ニコラス丹下(演・市村正親)が乗り込んでくる。丹下は、世界でも指折りの企業再生のプロで、彼が打ち出す再生プランをもとに、病院は経営再建の道を歩み始めるという展開だ。丹下が「今世紀最大のコストカッター」と称されるブラジル出身日系人なのは、やはりブラジル育ちのカルロス・ゴーン氏を想起させる設定である。

 さて、ドクターXの好調に触発されたものか、テレビ界は医療ドラマばやりである。2020年1月には、何と6本の新シリーズが始まった。天海祐希が演じる天才脳神経外科医の苦悩を描く『トップナイフ—天才脳外科医の条件—』(日本テレビ系)。腫瘍内科医(演・松下奈緒)が主役の『アライブ がん専門医のカルテ』(フジテレビ系)。新米看護師(演・上白石萌音)が男性医師(演・佐藤健)に恋して奮闘するラブコメディー『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)。僧侶兼救命救急医(演・伊藤英明)の葛藤を描く『病室で念仏を唱えないでください』(TBS系)。実話に基づきPTSD(心的外傷後ストレス障害)研究のパイオニアである精神科医(演・柄本佑)を描く『心の傷を癒すということ』(NHK総合)。

 そして、医療経営者にお勧めなのが、異色のドラマ『病院の治しかた〜ドクター有原の挑戦〜』(テレビ東京系ほか)である。主役の有原(演・小泉孝太郎)のモデルは、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院(長野県松本市)最高経営責任者である相澤孝夫氏である。相澤氏と言えば、家業の病院を継ぎ、倒産寸前の経営危機から日本を代表する民間病院にまで引き上げた有能な病院経営者で、日本病院会の会長職も務める。2018年の平昌冬季五輪スピードスケートの金メダリストである小平奈緒選手の所属先として、一般の知名度も一気に上がった。

 1月20日に初回がスタートしたが、破綻寸前の病院における医療従事者のコスト意識のなさや、病院中心で排他的な感覚は、かなり“忠実”に再現されていると感じた。これから、いかにして病院を軌道に乗せていくか、お手並み拝見——。結果は吉と分かっているので、医療経営者必見のドラマと言えるだろう。再建の鍵は、トップのリーダーシップが握っている。

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