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未来の会

第111回 「青い目の長谷川閑史」と呼ばれ始めたウェバー氏

第111回 「青い目の長谷川閑史」と呼ばれ始めたウェバー氏

虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 武田薬品工業の経営が、急速に悪化している。アイルランドの製薬大手シャイアーの買収後、社長のクリストフ・ウェバーや経営陣の強気にもかかわらず。7月31日に同社が発表した2020年3月期第1四半期決算によると、売り上げ収益こそ88・8%増の8491憶2100万円となっているが、営業利益は90%減の98憶6600万円という惨状。このため、税引前損益は251憶8600万円の赤字となる。

 これが通期の業績見通しとなるとさらに悪化して、売り上げは3兆3000億円を確保するが、営業利益は1660億円の赤字。税引前利益の赤字は3420億円に上り、純利益は3677億円の赤字になる。しかも、従来予想の3830億円の赤字を修正しての結果だ。

 これではいくら儲けようが、最終利益は常に赤字という構図だが、他社と比較するとその悲惨ぶりは一層明白になる。同じ通期で見ると、アステラス製薬は売り上げこそ1兆2240億円と差が付けられるが、営業利益は2290億円、税引前利益は2300億円、純利益は1820億円の黒字を確保する。

 第一三共は、それぞれ9400億円、1000億円、1000億円、720億円と黒字。大塚HDは1兆4000億円、1740億円、1700億円、1250億円と黒字だ。売上高で常に業界首位を走る武田だが、上位25社中、純利益で赤字なのは武田のみ。ちなみにこの純利益の赤字額で3677億円という数字は、田辺三菱製薬の売上高が3760億円だから、その大きさが分かろうというもの。

 これが、株価に反映しないわけがない。武田の株はこの8月に入り見直し買いが入って急伸したものの、その後続落に転じ、一時は連日のように年初来安値を更新した。28日には3401円と、12年10月以来の安値をつけている。これは、大和証券が15日付で、投資判断を5段階で「2」(アウトパフォーム)から「3」(ニュートラル)に引き下げたことが影響したとされる。目標株価も4500円から3700円に引き下げられた。

 翌16日には一時、前日終値比2・3%(84円)安の3531円まで下がったが、この水準で収まらなかったわけだ。このあおりで、武田の時価総額は今年7月1日段階で6兆1477億9100円だったものが、8月30日には5兆6591億2100万円となっている。わずか2カ月足らずで、実に約5000億円が時価総額から消えた計算となる。これは尋常なことなのか。

景気の良い予測は「根拠のない楽観主義」

 武田の株価は、昨年10月から同年末にかけても、4860円から3500円台に続落した。この年の12月半ばには、財務リスクを懸念して格付投資情報センター(R&I)が武田の発行体格付けを「ダブルAマイナス」から「シングルA」に2段階引き下げ,ムーディーズ・ジャパンも発行体格付けを「A2(シングルAに相当)」から「Baa2(トリプルBに相当)」に3段階下げたのは、記憶に新しい。

 ところが、年が明けた1月8日に武田が懸案のシャイアーの「買収を完了した」と発表してから上昇に転じた。同時期、クレディ・スイス証券などは投資判断を逆に「ニュートラル」から「アウトパフォーム」に引き上げている。そして、「来期以降の収益V字回復期待」とか「高配当利回りの大型株」、「来期の営業利益が前期比で36%増益」等々と、当の武田が聞いたら赤面するかと思われるような景気の良い予測を振りまいていたものだ。

 だが、今となっては最初から「根拠なき楽観主義」というしかなく、もはや色あせた夢物語と化してしまった。武田が発表した20年3月期第1四半期の連結業績では、営業利益は「36%増益」どころか、マイナス90・0%にまで落ち込んでいる。武田自身、純利益が巨額の赤字に転落してしまい、「V字回復」などいつのことになるやら確信など持ってはいないだろう。クレディ・スイスを信じて損をした一般投資家には、同情するほかない。

 今回、大和証券が引き下げの主な根拠としたのは、多発性骨髄腫治療剤「ニンラーロ」や高血圧症治療剤「アジルバ」、関節リウマチ治療剤「エンブレル」などの、武田にとって主力商品の売り上げ予想の下回りだった。なお、以上とは別に、競合品によって血友病治療薬「アドベイト」や「アディノベイト」、「ファイバ」は全体で12・6%の落ち込みを示した(4〜6月決算)。痛風・高尿酸血症治療薬「ユーロリック」も、13・1%の減少(同)となっている。加えて武田の稼ぎ頭である潰瘍性大腸炎治療薬の「エンティビオ」が、30年までに独占販売期間の満了を迎えるのも、今後の不安材料となっている。

資産・事業の売却になりふり構わず邁進

 だが、武田の進行する経営悪化の最大の原因は、言うまでもなくシャイアー買収で抱えてしまった6兆円以上、年間の借入総額に対する年間の利息の払いが約1000億円に達する有利子負債にある。そのためか、最近の武田の衆目を集める話題といえば、約1兆1000億円規模を目標とする非中核事業の資産売却ばかりだ。

 武田は昨年、中国・広州のバイオ医薬を手掛ける広東テックプール・バイオファーマの保有株式を全て売却。さらに、ブラジルの100%子会社で大衆薬製造のマルチラブも売却した。この7月には、スイスのノバルティスにドライアイ治療薬の「リフィテグラスト点眼剤」を、約53億㌦(約5823億円)で売却。米ジョンソン&ジョンソングループのエチコンには、今年度中に手術用パッチ剤の「タコシル」を4億㌦(約439億円)で売却する。

 ノン・コア資産の売却は今後も止む気配はないが、あの長谷川閑史が社長時代、新薬創出に失敗して次々に海外企業のM&A(企業の合併・買収)に手を出し、「日本企業の海外M&Aの失敗例」としてさんざん引き合いに出された挙句、莫大な手元流動性を誇る無借金経営をついに破綻させてしまった。今度は引き続きの収益が見込まれる会社もあるのに減収影響も厭わず、逆になりふり構わぬ資産・事業の売却に邁進している形だ。これでは、どこかチグハグ過ぎはしまいか。

 業界では今や、ウェバーを「青い目の長谷川閑史」と呼び始めているらしいが、これもシャイアーの買収後に待ち構えている、暗雲たる武田の近未来を予測してのことのように思えなくもない。そしてその前途は、乱高下しながらも確実に下がり続けている株価が黙示しているのではないか。(敬称略)  

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