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未来の会

医療従事者の海外留学をサポートし 継続的にグローバル人材を育成する

医療従事者の海外留学をサポートし 継続的にグローバル人材を育成する
グローバル化が加速する21世紀になって、海外留学する日本人学生の数は減少に転じている。そんな中、順天堂大学医学部眼科学教室の猪俣武範・助教は米国留学中の2014年、医療従事者の海外留学を効率的にサポートし、日本の医療のグローバル化を促進することを目的とした一般社団法人JGMS (Japan Global Medical Career Support) を立ち上げた。猪俣氏にその思いと活動内容について聞いた。
——留学を希望する若者が減っていると言われますが、原因についてどうお考えですか。

猪俣 日本人留学生の数は全体として減少傾向にあります。海外留学生の人数は、アメリカ、中国、台湾などが多く、日本は上位に入っていません。OECD(経済協力開発機構)の統計では2003〜05年がピークです。アジアの中でも、中国、韓国、東南アジアからの留学生が増えていて、日本人の存在感が落ちました。医療従事者で言うと、日本の医療分野は進んでいるので、日本にいても海外と同じような最先端の研究はできてしまいます。しかも、日本にいれば、働きながら収入を確保しつつ研究ができます。海外、特にアメリカではビザの関係上、長期で働くのが難しくなっています。また、留学にいざチャレンジしようとしても、準備が多くて尻込みする人もたくさんいます。

——日本でできない研究ができるというようなことがないとモチベーションが上がらないですね。

猪俣国によって先端分野が違うので、それを学ぼうというのは海外留学の動機の一つになるでしょう。ただ、海外留学そのものがその人の人生におけるチャレンジになると思います。日本にいれば、保険でも携帯電話でも何も苦労しませんが、海外に行けば、保険に入るにも長文の英語を読まなければなりませんし、ソーシャル・セキュリティ・ナンバー(SSN:社会保障番号)も確保しなければなりません。毎日がチャレンジの連続です。人生のどこかでそういう経験をしておくのは、その後の人生においてチャレンジする体力が付きます。そして、旅行では得られないコミュニティや文化に触れることが重要です。現地に住んで、溶け込んで、いろいろな人に接しながら、地球人の一人として考えるようになります。私の専門分野である眼科の免疫(角膜移植など)では大御所の先生が存命中で、直接話を聞きたいという研究者が世界中から、そのラボに集います。世界中の研究者とディスカッションするのは刺激的で、本当に良い経験になりました。その研究者達が帰国した後も世界中にネットワークが残りますし、インターナショナル・スタディも可能になります。それはフェイス・トゥ・フェイスだからこそできるもの。ネットやSNSがどれだけ発展しても、日本にとどまっていては難しい。それが留学の醍醐味ですし、私自身は30歳で留学した時に人生が変わりました。

不安は帰国後のポジションや金銭面など
——留学志望者の悩みや不安は何でしょうか。

猪俣まず、留学から帰ってきた後のポジションが確約されていないことです。外科系の場合、海外では医師免許が使えないので、手術はできません。その間、スキルが鈍ってしまうのではないかという不安もあります。行くタイミングの悩みもあります。独身なら気軽ですが、家族がいて同行するのであれば、向こうでの生活費も不安です。それから、行きたい気持ちはあっても、その体験がその後の人生にどんな意味があるのか確証が持てないという人もいます。私は経験者に「行って良かったですか」と必ず質問しますが、「行かなければ良かった」と答えた人は一人もいませんでした。

——ご自身の留学で大変だったことは?

猪俣 留学しようと決めてから4年間は貯金していましたが、留学して本当に全てなくなってしまいました(笑)。また、向こうは給料が安いんです。初年度はゼロです。日本で助成金を取って行かないと、採用してもらえないこともあります。助成金は多くても4万〜6万ドルくらいですが、アメリカは生活費が高くて、日本の1.5倍くらいはかかります。家賃も年々上がります。金銭的には大変でした。

——猪俣さんは米国留学の2年間(2012〜14年)、ハーバード大眼科スペケンス眼研究所への留学だけでなく、ボストン大経営学部Questrom School of BusinessでエグゼクティブMBAも取得していますね。

猪俣 日本で研修医としていろいろな科を回っていた時に感じたのは、医師にもマネジメントの考え方が必要だということです。体系的に一度学んでおこうと思い、学問として成立しているアメリカで学べればと考えていました。ただ、人生で2回の留学は無理だと思っていたので、医療研究留学中にビジネススクールにも通って同時並行で勉強しようと考えました。高齢化や薬剤費高騰による医療費高騰から、医療費は減少傾向にあり、病院は収益が増えるわけでもありません。業務の効率化や勤怠管理など経営スキルで日本の医療に貢献したいという気持ちがあります。働き方改革ということでは、病院のマネジメントそのものが問われています。アメリカではMBAホルダーの院長の方が、病院経営がうまくいっていると証明されています。

留学は英語履歴書作成が第一歩
——JGMS設立について教えてください。

猪俣 私が留学した時は、ネットでさえもほとんど必要な情報が得られませんでした。人伝いに聞いたりして、本当に苦労しました。そういう人がたくさんいるのではないかと思いました。私はビジネススクールで社会貢献の大切さも学んだので、留学志望者を支援しようと考えたのが設立の動機です。

——JGMSの現在の取り組みは?

猪俣 留学経験者を1〜2人プレゼンターとして呼び、講演会を行っています。子供の養育費や居住環境、住宅費などできるだけ細かいところまでリアルに話してもらうようにお願いしています。懇親会も行い、後ほどメールでアドバイスなどもしてもらっています。Webサイトでは留学情報を発信しています。例えば研究で行く場合には履歴書の他に推薦状が必要です。ハーバード大の場合は3通。つまり、推薦状をお願いできる人3人の目星を付けておくため、いざという時にお願いできるコネクションを作っておかなければなりません。2年後に出発するとすれば、逆算して今から2年間は推薦状のための準備をする必要があります。

——Webサイトでは英語の勉強法も掲載していますね。今後の方針などを教えてください。

猪俣 ビジネススクールに行く場合、TOEFLで100点以上必要です。エッセイ(志望動機)も3通書きますが、相手にアピールできる経験や内容を用意する必要があります。医師・研究者として留学する場合はTOEFLは必要ありませんが、企業から派遣された留学生はTOEFLをパスしているので、医師は語学力で劣ってしまいます。向こうで円滑に研究を行うためには英語力も必要です。英語の履歴書作成が留学の第一歩ですが、履歴書が埋まらないと見てもらえないし、採用されません。打算的かもしれませんが、履歴書を充実させるための早めの準備が必要です。英語の履歴書の添削サービスを低価格でやっているので、利用者が多いですね。今後もWebサイトでの情報提供を充実させ、イベントなどを通してコミュニティの活性化を促し、日本の医療の国際化に貢献していきます。

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