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第130回 「妊婦加算」に見る患者負担を強いる制策誘導の限界

第130回 「妊婦加算」に見る患者負担を強いる制策誘導の限界

 2019年1月1日、18年度に新設された診療報酬の「妊婦加算」が9カ月で凍結された。妊婦への丁寧な診療を評価し、妊娠しても安心して受診できるようにすることを目指した加算だった。しかし、患者には負担増となって跳ね返る。「少子化対策に逆行する」との批判が噴出し、当初の狙いとは逆の結果になった。医療政策を診療報酬で誘導する手法は限界を迎えている。

 「妊婦加算が目指すものは依然として重要だと考えています。しかし、それを実現する手段として適当であったかどうか、改めて考えてみる必要がある、と考えるに至りました」。12月14日、閣議後の記者会見でこう語った根本匠・厚生労働相は、苦渋の表情で妊婦加算の凍結を表明した。

 「胎児に影響しない薬の選択が必要」「レントゲン撮影が困難」。内科などを訪れた妊婦がこんな理由で診察を断られ、産婦人科の主治医を訪れるよう促されることは珍しくない。妊婦加算(初診時75点、再診時38点)の導入は、妊婦を診察した医師の収入を増やすことで診療拒否を減らすことが目的だった。

 だが、初診の患者なら、窓口での支払いが約230円増える。妊婦加算を説明もなく請求されたり、コンタクトレンズの処方を受けただけの人まで上乗せされたりする事例が相次ぎ、妊婦らから「妊婦税だ」といった批判が続々飛び出した。
 これに敏感に反応したのが、自民党の小泉進次郎・厚労部会長だ。周辺に「妊婦の自己負担は容認できない」と伝え、調整について部会長一任を取り付けた。安倍晋三首相も動き、12月13日には日本医師会(日医)の横倉義武会長に電話で「加算凍結」の了解を取り付けた。これを受け同日開かれた党の合同部会。厚労省は妊婦加算の適用について、「コンタクトレンズの処方」「いぼの除去」など、一部ケースを対象外とする案を示したものの、これをはねつけ、加算自体を凍結する形に持ち込んだ。

 厚労省によると、妊婦加算の自己負担分は総額で年間10億円弱。窓口負担のみの停止でも医療界には大きな減収となる。妊婦加算を推し進めた日医は「代替案なしの廃止はあり得ない」(関係者)と言う。根本厚労相は、2020年度の診療報酬改定で「丁寧な診療が目に見えて実感できる仕組み」に改める意向を示し、「『妊婦安心加算』などの名称が考えられる」と語った。夏に参院選を控え、与党として日医を刺激するのは得策ではない。それでも具体案づくりは簡単ではない。

 診療報酬の操作で国の政策を実現させる手法は、患者負担が少なかった時代には効果を上げてきた。だが窓口負担が3割にアップした今は、国の望む方向に誘導しようとして医師の収入を増やすと、患者の負担も同時に増えてしまう。すると妊婦加算のような反発が起き、国が意図した方向とは逆の結果に繋がってしまう。かかりつけ医重視で開業医の初・再診料を増やしたところ、逆に大病院に外来患者が集中したこともあった。

 厚労省幹部は「妊婦加算も、誰もが納得する内容に見直すのは無理。診療報酬で政策を左右するのは厳しくなっている」と話す。

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