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未来の会

働き方改革法が施行される時代の 医師の働き方について考える

働き方改革法が施行される時代の 医師の働き方について考える
国会で働き方改革関連法案が成立した。国を挙げて働き方について議論を進めてきたわけだが、時間外労働に上限規制が導入されるなど、労働環境を整え、過労死を防ぐための方策が取られることになった。医師は労働時間が極めて長いことが知られているが、時間外労働規制の対象とはするものの、医師法の応召義務などの特殊性を踏まえた対応が必要であるとして、5年間の猶予を与えられた。具体的には改正法施行日の5年後を目途に規制を適用することとし、新たに検討して結論を得ることになっている。医師の仕事が特殊であることは間違いないが、それが労働である以上、労働基準法が適用されるのを免れることができないのも事実。7月25日の勉強会では、厚生労働省労働基準局の増田嗣郎・監督課長(現・独立行政法人労働者健康安全機構総務部長)が、医師の働き方改革について講演し、それを元に活発な議論が行われた。

原田義昭・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」国会議員団会長(自民党衆議院議員)「このたび閉会した国会では、働き方改革が最重要視されていました。その中でも医師の働き方改革は難しい問題をはらんでいます。医師の仕事の特殊性に合わせ、今回通った法律を、どのように調整していくかが今後の問題だと思っています」

尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(集中出版代表)「平成28年度に労働基準監督署の監督業務が入ったのは、全国で約16万事業所。その中には医療機関も多数含まれていました。今回は、厚生労働省労働基準局の増田嗣郎課長に、医師の働き方改革について、ざっくばらんにお話しいただきたいとお願いしています」

医師の働き方改革について
医療従事者の勤務等に関するデータについて

 4年ごとの就業構造基本調査では、労働時間が週60時間を超えている人の割合を職種別に調べています。それによると、平成24年度に41.8%で全職種中最も高い割合だった「医師」は、平成29年度には37.5%でした。減少傾向は見られるものの、やはり全職種の中で最も高い割合です。

 医師の働き方に関する調査では、次のようなことが明らかになっています。時間外労働の主な理由は、「緊急対応」「手術や外来対応等の延長」「記録・報告書作成や書類の整理」「会議・勉強会・研修会等への参加」など。月の最長連続勤務時間は、平成28年は平均13.9時間で、平成27年の平均15.4時間から減少しています。宿直1回当たりの拘束時間は平均15.1時間で、かなり長いことが分かります。宿直1回当たりの実労働時間は、平均は5.5時間ですが非常に幅があり、2時間以下の人が約3割、12時間超の人も約1割います。宿直明け勤務は「通常勤務で業務内容の軽減はない」が72%を占めています。

 厚生労働省では、過労死等の労災補償状況を発表しています。全職種で見ると、「脳・心臓疾患」では、平成29年度の請求件数は840件、支給決定件数(労災として認められた件数)は253件、その内死亡が92件でした(請求から認定までに6〜8カ月かかるので、決定件数の中には前年度に請求されたものも含まれます)。「精神障害」では、請求件数が1732件、支給決定件数が506件、その内98件が自殺(未遂を含む)でした。つまり、「脳・心臓疾患」と「精神障害」で約200人の過労死が認定されているのです。

 医師についてみると、「脳・心臓疾患」では、平成29年度には支給決定はありませんでした。「精神障害」では8件が認定され、そのうち2件が自殺(未遂を含む)となっています。

労働時間制度について

 労働時間については、労働基準法第32条に、「1週間に40時間を超えて労働させてはならない」「1日に8時間を超えて労働させてはならない」と規定されています。ただし、労使協定を締結して労働基準監督署に届け出た場合は、協定の範囲内で労働させることができる、と第36条に定められています。これがいわゆる「36協定」です。

 36協定による延長時間は、原則として1カ月45時間、1年360時間という限度時間が決められています。ただし、特別条項を結べば、年間6カ月までは例外的に限度時間を超えることができるという規定があります。この部分について、過労死などの問題を踏まえて議論が行われ、上限規制を定めた法律の成立につながりました。

 何を労働時間とするかについては、古くからいろいろな見解があり、裁判でも争われてきました。基本的な考え方を示しているのは三菱重工長崎造船所事件の判決で、「労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」としています。

 宿直とは、外来診療を行っていない時間帯に、入院患者の病状の急変に対処するために待機している状態です。このような待機時間も、一般的には労働時間とみなされます。しかし、これには特例があり、断続的な労働と判断される場合には、労働基準監督署長の許可を得て、労働時間規制の適用から外すことができます。ただし、「医師、看護師等の宿直許可基準」を満たす必要があります。

 自己研鑽の時間はどうでしょうか。使用者の指示や就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる強制がなく、あくまで研修医が自主的に取り組むものであるなど、使用者の指揮命令下に置かれていると評価されない時間であれば、労働時間には該当しないとされています。

 労働基準監督署の監督業務は、定期監督と申告監督を含めると、全国412万事業場のうち年間約16万事業場に対して行われています。定期監督は約13万6000件で、約7割の事業場で違反が認められています。労働者の申告で行われる申告監督は、約2万5000件。病院を含む医療保健業に対する監督は、平成28年度に1613件行われ、そのうちの585件(36.3%)で労働時間に関する違反が認められています。他の業種に比べると、労働時間に関わる違反が少し多い状況にあります。

 産業保健制度について

 50人以上の事業場には「産業医」の専任が義務付けられていて、人数の多い事業場では専属であることが義務付けられています。また、産業医とは別に、「衛生管理者」や「安全衛生委員会」という制度もあります。産業医は、健康診断の実施を含め、健康に関することについて、非常に大きな役割を担っています。平成27年度に始まったストレスチェックについても協力をいただいています。衛生委員会は、健康障害の防止、健康の保持増進、労災の防止などの観点から、その対策について議論していただく場です。

 労働時間が一定程度を超えた場合には、医師による面接指導が必要であると、労働安全衛生法第66条の8で定められています。過労死を防止する必要があるということで改正された法律です。

 産業医や産業保健機能の強化も行われています。産業医が勧告を行っても、事業者が必要な改善などを実施しないことがあるため、事業者は衛生委員会に対し、産業医の勧告の内容を報告しなければなりません。そして、それを事業所全体で考える、という仕組みを作っています。また、事業者は労働者が安心して健康相談を受けられるように、必要な体制整備を講じなければなりません。せっかくの産業保健体制が、きちんと利用されるようにするための措置です。

働き方改革法と医師の働き方改革に関する検討会について

 注目されている労働時間の上限規制ですが、36協定の限度時間は、原則が月45時間、年360時間です。特例として、年720時間、1カ月100時間未満と定められています。医師の働き方については、医師法に基づく応召義務などの特殊性を踏まえた対応が必要ということで、具体的には改正法施行5年後を目途に規制を適用することとし、2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策などについて検討し、結論を得ることになっています。これを踏まえて「医師の働き方改革に関する検討会」が検討を行っています。医療関係者や労働組合の方にも加わっていただき、多様なメンバーで、いろいろな現場の実態を踏まえながら議論を進めています。

 その中から、医師の勤務実態の改善のため、個々の医療機関がすぐに取り組むべき事項として「緊急的な取り組み」がまとめられました。それを受けてどうしたかについて、調査が行われています。院内での検討や具体的な取り組みを「実施した」「今後実施を予定」している病院が60.5%でした。具体的な内容を見ていくと、医師の労働時間短縮に向けた取り組みとして、当直明け勤務負担の緩和に関しては、「実施を開始」と「実施を予定または検討中」で、ほぼ5割に達しています。勤務間インターバルについても、「実施を予定または検討中」が4割近くあります。全国医学部長病院長会議の調査では、緊急対策のとりまとめを受け、86.0%の病院が、院内での検討や取り組みを「実施した」「今後実施を予定」していると回答しています。

 医師の働き方改革に関する検討会では、今後具体的な論点についてさらに検討を進めていきます。また、いろいろな形で皆様の意見を拝聴させていただきながら、この検討会の結論を出すべく、厚生労働省の医政局と労働基準局が連携して進めていきたいと考えています。


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