SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

経済合理性も商取引常識も通用しない米国製兵器輸入

経済合理性も商取引常識も通用しない米国製兵器輸入
費用対効果や必要性より米政権の歓心を買うのが目的か

世の中には、奇妙な「取引」がある。売り手が買い手に対し、①契約価格と納期は、いつでも売り手の都合で変更できる②契約しても、売り手の都合で解約できる③代金は前払い——という条件で、「商品」の売却契約を交わすのだ。

 もう殿様商売どころではなく、こんな会社と取引契約を交わした社員は、首にされても文句は言えまい。だが、民間の商取引ではないが、この条件を承諾した場合にのみ、契約が成立するケースがある。対外有償軍事援助(FMS)と呼ばれる、米国政府独自の武器の売却契約だ。

 こんな契約がまかり通るのも、それだけ米国製兵器が国際市場で圧倒的強みを有しているからだが、半面買い手側、つまり兵器輸入国は適切な価格なのかどうか疑問を提示することなく、言い値で買わされるなど、不条理な目に遭うのを覚悟しなければならなくなる。その典型が、ほかならぬ日本なのだ。

 とりわけ問題なのは、米国に対しては、およそ媚びへつらい以外のいかなる策もなさそうな安倍晋三が首相として再登場した以降、FMSの予算額がむやみやたらと急増した点だろう。2018年度予算では4102億円と、2年ぶりに4000億円を突破した。13年度当初予算では1179億円であったから、実に約3・5倍にもなっている。

 やせ細る一方の福祉や教育、医療関連の予算と比べ、それほどプライオリティーがあるのか疑問なしとしない。米国製兵器輸入に占めるFMSの割合は既に約8割に達しているが、輸入自体、安倍が米国の政権の歓心を買うのが目的ではないかと勘ぐられても仕方ないほど費用対効果や必要性といった面で疑問だらけだ。だが、大盤振る舞いが続いている結果、破局的な財政状況の悪化に拍車を掛けている。

 4月7日、長崎県佐世保市の陸上自衛隊相浦駐屯地で、水陸機動団なる名称の新部隊の初演習が公開された。水陸機動団は「中国軍が尖閣など南西諸島の島を占領した際、奪還するために投入される」(防衛省)といった、軍事的に眉唾物のシナリオに基づいて編成されたが、その様子を伝えたテレビのニュースでは、自衛隊員が中から飛び出してくる巨大な装甲車が映し出されていた。

米国では旧式車両の高値が笑い話に

 この装甲車は、水上の航行が可能な米国製のAAV7。元々、海兵隊の上陸作戦用に開発されたが、17年度防衛予算で33両が約233億円で調達されている。すると、1両当たり7億円ほどだ。だが、同年度予算で調達された最新鋭の16式機動戦闘車(105㍉砲装備のタイヤ付き戦車)も、ほぼ同額となっている。

 このAAV7はほとんど報じられていないが、既に1970年代に製造ラインが止まった化石のような兵器だ。海兵隊が現在使用しているのは、あまりの防御力の弱さから車体を強化して改修したほぼ別タイプの車輌だが、こちらは何しろ古過ぎて部品が不足したことなどもあり、水陸機動団発足時に30両の配備が予定されていたが、現在7両しかないというお寒い現状だ。なぜそれが、割高な傾向がある国産の最新兵器・16式と同額なのか。

 それでもAAV7は、最終的に52両も調達される。米国の戰車・装甲車関連のメーカーでは一時、とうの昔に生産が中止された問題だらけの旧式装甲車に、突如7億円というおよそ常識ではあり得ない高値が付けられ、しかも大量購入になったという笑い話で持ちきりだったとか。無論、7億円というのは価格交渉の結果ではないのだ。

 ただ、7億円など安い方で、同じく陸自が購入する輸送機のオスプレイは、今年度予算で4機が計472億円で購入される。1機当たり118億円だが、最新鋭のステルス型F35A戦闘機は6機で881億円だから、1機当たり約147億円だ。ハイテクの塊でジェットエンジンの戦闘機と比べ、所詮プロペラ輸送機で垂直に離発着陸できるという点以外めぼしい技術もないオスプレイの異様な高値が際立つ。米軍では陸軍が「汎用性もなく、ヘリコプターで十分間に合う」と採用を拒否したいわく付きのこの機体については、開発費を高値で吹っ掛けて回収しようという魂胆が見え見えだ。

 高値自体ならまだしも、無人偵察機のグローバルホークは価格が一方的に吊り上げられた。防衛省は当初、3機を20年間運用する予定で、その間のライフサイクルコストは約1700億円と米国側の説明を受けていた。だが、同機の採用が正式決定すると、3269億円に跳ね上がった。価格も1機158億円で計474億円が見込まれていたが、昨年4月に今度は3機で600億円と吹っ掛けられた。

技術者の「日本滞在費」に30億円要求

 それでも、唯々諾々と従うのはこの国らしいが、購入できるのは米軍の現用タイプより古いタイプ。しかも、維持管理費が年間100億円もかかるが、製造元のノースロップ・グラマン社の技術職の社員40人に対し、「日本の滞在費」名目で何と計30億円、1人当たり約7500万円支払えと要求されている。

 いったい、約7500万円という法外な「滞在費」にどういう根拠があるのか。もう、経済合理性も商品取引の常識も通用しない世界で、中には送られてきた兵器が欠陥品だったり、前出のF35A戦闘機の場合、何と機体を作動させるソフトウェアが未装備という例も。こうした例は挙げたらキリがないが、これまで必ずしも、兵器購入の選択肢が米国製のみではなかったという事実だけは知っておいた方がいい。

 「安倍首相は大量の(米国製)軍事装備を購入するようになるだろう。……米国は世界最高の軍事装備を保持している。F35戦闘機でもミサイルでも(米国から買えば)米国で多くの雇用が生まれ、日本はより安全になるだろう」——。

 昨年11月6日、訪日したトランプ米大統領が安倍との共同会見で述べた言葉だ。米国の雇用に日本が責任を持つ筋合いはないが、安倍は「米国からさらに購入していくことになるだろう」と相槌を打っている。米国務省が15年末に発表した世界各国の軍事費調査報告書によれば、日本は170カ国中、022年から12年の11年間で1661億㌦の武器を購入し、世界一の武器輸入国だったが、無論大半が米国製だ。それでも飽き足らず、安倍はまだ大盤振る舞いを続ける気らしい。

 無論、トランプを喜ばせたい一心なのだろうが、3月にトランプが打ち出した鉄鋼とアルミの輸入規制に関しては、日本は欧州連合(EU)やカナダ、韓国などとは違い、規制対象国とされた。いくら追従の限りを尽くしたところで、「日米同盟」などこの程度で、米国にしてみれば、自国の利害の計算能力があるのかどうか疑わしい国は「同盟国」どころか、カモにするだけの相手だ。日本にとって必要なのは、交渉のうまさという意味で「経営能力」かもしれない。  (敬称略)

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top