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未来の会

役員選前に横倉会長「去就」で虚々実々の日医

役員選前に横倉会長「去就」で虚々実々の日医
大阪府医師会の不満勢力「扇動」が広げる波乱

新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言が延長された初日の5月7日夕、日本医師会は東京・本駒込の日本医師会館で緊急記者会見を開いた。緊急事態宣言の延長について、日医としての評価を発信するためだった。

 「日本医師会は医療崩壊を起こさないために緊急事態宣言の延長は必要であると述べてきた。今回の政府の判断は医療崩壊を防ぐという事では必要な判断だったと思う」

 横倉義武会長は冒頭発言でこう述べ、安倍晋三政権の対応を高く評価したが、続けて「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針によると、緊急事態宣言時に全ての医療関係者の事業継続を要請すると書かれている」とも指摘。新型コロナに直接対応する医療機関以外の地域の診療所等も事業継続が求められているとして、政府からの支援の必要性を言外に強調した。

 新型コロナ感染拡大の経済影響は一般の民間企業だけでなく、医療機関にも及んでいる。院内感染を恐れて全国各地で受診控えが起こっており、経営状態が急速に悪化する医療機関が増えている。不要不急の「コンビニ受診」が減ったとの見方もあるが、元々医療機関の収入は診療報酬で政府にコントロールされているため利益率も抑えられ、受診者の急減は廃院に直結しかねない。

 代替措置として過去の受診歴がない初診を含め全面解禁されたオンライン診療についても、対応出来る医療機関は限られている。日医には全国から悲痛な訴えが相次ぎ、横倉氏をはじめ執行部は政府への働き掛けを余儀なくされている。

府医「内部対立」激化のあおり

 こうした全国の医師の不安の高まりは6月27日に予定される日医の役員選挙にも影を落とす。新型コロナの対応を巡っては、横倉氏がたびたび安倍首相に直接働き掛けを行い、政府の政策判断に一定の影響を及ぼしている事から、世論に対する日医の存在感は高まってはいるものの、その恩恵が医療界全体に還元されなければ業界での評価は上がらない。地域医療の疲弊が深刻化していくのに伴い、5選出馬を事実上表明している横倉氏の会長勇退説が、その力の陰りとともに信憑性を持って日医内で囁かれるようになるのも必然の流れだ。

 噂の震源地は会長選で東京に次ぐ大票田でもある大阪府医師会だ。発端をみると、横倉氏が茂松茂人・府医会長の日医副会長抜擢を念頭に、今年1月5日に開かれた府医の新春互礼会へ顔を出した事が反茂松派の導火線に火を付け、大阪から横倉退陣論の発信が続いているという。横倉氏は、かねてから府医出身の松原謙二副会長の手腕を疑問視しており、2年前の役員選挙でもクビのすげ替えを図ったが、失敗に終わった過去がある。今回は2期4年にわたり府医会長を務めてきた茂松氏の指導力に期待して、松原氏の交代を着々と狙っていた。

 一方、反茂松派の中心には茂松氏の前任の伯井俊明・元府医会長がいると言われる。伯井氏は日医で府医出身の植松治雄会長時代に側近として常任理事を務めた事もある重鎮。現在は一線を退いているものの、松原氏の後見人的存在として日医への影響力を保持し続けている。

 茂松氏が日医でも副会長として力を増す事になれば、伯井氏をはじめ反茂松派の出る幕はなくなる。そうした府医内の不満を背景に、年明け以降、茂松氏に関する醜聞が急に出回るようになる。一部雑誌では、府医事務局でスキャンダルが相次いでいるとの噂をもとに、「ガバナンス能力に欠ける人物を日医の副会長という要職に送り込んでいいのか」といった声を掲載。横倉氏に対しても「権力に固執している」「トップとしての資質が問われている」と手厳しい見方が載るようになった。日医関係者は「関西在住のベテラン専門記者が反茂松派の医師とつるんで横倉、茂松両氏の批判記事を書いて、対立をあおっているようだ」と明かす。

 横倉氏としては、昨年75歳の後期高齢者となり、体力的な問題も出てきている事から、当初は今期での引退を考えていたとされる。ただ、親交の深い安倍首相が政権を続けており、カウンターパートとして日医内外の期待の声を受けて5選出馬に傾いた経緯がある。会長を続投するからには「ポスト横倉」への穏当な移行もにらみながら、挙党体制を築こうと根回しに動いたが、突如勃発した〝大阪の乱〟で待ったを掛けられた格好となった。

中川副会長への〝禅譲〟に逡巡

 現在の日医の発言力の強さは横倉氏の下、激しい内部対立もなく、一致団結しているところが大きい。隙あらば医療費の削減を狙う財務省にとって、日医が「自分達の勢力争いばかりしている利権団体」と世論からみられるのは好都合だが、横倉氏はそういった構図を念頭に置きながら、日医の円満な運営に努めてきた。横倉氏が今回の会長選で対抗馬として出馬への意欲を隠さない中川俊男副会長へのバトンタッチをなかなか考えられないのは、舌鋒鋭く敵の多い中川氏では日医の安定が保たれないとみているからでもある。

 そこに降ってわいてきた新型コロナ騒動。日医の分裂を招かずにこの難局を乗り切るには何がベストかを思案した横倉氏は、周囲に「国民が苦労している時に、日医が選挙で争っている場合ではない」と自ら身を引く意向を漏らしたとされる。一抹の不安は残るが、「最近は人間が丸くなってきた」(日医幹部)との評価も得ている中川氏への〝禅譲〟も想定しているというのだ。その一方で、日医内では「中川会長ではますます混乱する」(ベテラン職員)との声は根強く、横倉氏は苦慮しているとの見方も出ている。

 日医の喫緊の課題は、やはり新型コロナに伴う医療機関の経営危機の問題だ。横倉氏は5月1日、中川氏や全日本病院協会の猪口雄二会長、日本医療法人協会の加納繁照会長とともに厚生労働省を訪れ、加藤勝信厚労相に日医と四病院団体協議会の共同による「新型コロナウイルス感染症における診療体制に関する要望書」を提出した。一番のポイントは、患者数の大幅減に伴う減収をカバーするため、大規模な自然災害発生時と同様に前年度の診療報酬支払額に基づく診療報酬の「概算払い」を認めてもらう事だ。

 ただ、厚労省側は「地域のPCR検査センターの運営に参加する等、新型コロナ対応に積極的に協力する医療機関は支援するが、一般の民間企業と同じで損失補填のような事は出来ない」(幹部)と否定的な考え。このまま十分な支援が受けられずに倒産する医療機関が相次げば、役員選挙を前に横倉日医の威信はがた落ちとなる。

 6月末から新体制がスタートする日医。様々な恩讐を乗り越え、一致結束して新型コロナに立ち向かう事が出来るのか、横倉氏の去就にかかわらず、改めて組織としての存在意義が問われる局面に立たされていると言えそうだ。

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