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第73回 ウェバーの役員報酬9億円の真相

第73回 ウェバーの役員報酬9億円の真相
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
ウェバーの役員報酬9億円の真相

 東京商工リサーチの調査では、2016年3月期決算の上場企業のうち、役員報酬1億円以上を受け取った役員は過去最高の211社414人いたという(6月30日17時時点で有価証券報告書を提出していた2442社対象)。

 1位は、この6月22日に任期満了をもってソフトバンクグループの取締役を辞任したニケシュ・アローラで、64億7800万円という桁外れの額だ。トップ10人中、何と6人までが外国人役員で占められたのが今年の特徴だが、4位に10億7100万円の日産自動車社長兼最高経営責任者(CEO)のカルロス ・ゴーンがいる。

株価下落・売上減でも報酬は4億円増  医薬品製造業界では唯一6位に武田薬品工業のCEOクリストフ・ウェバーが入り、こちらは「報酬面での国際的な競争力を高めるとともに、好調な業績を反映させた」(武田広報)とされて、前年度比実に4億円アップの9億500万円だ。

 外国人経営者の報酬額の妥当性について一概には論じがたいが、よく耳にするのは「グローバル経済の時代に、外国から優秀な『プロ経営者』を招くには、それなりの報酬が必要」という理屈だ。武田会長で、ウェバーをスカウトした長谷川閑史の役員報酬が4億5000万円と前者の2分の1以下であるのも、そうした理屈からなのだろう。

 第三者が口を挟むことではないかもしれないが、しかし、ウェバーの9億500万円という額は妥当なのだろうか。

 例えば、ウェバーがCEOに就任した15年4月1日から今年6月1日までの約1年間の武田の株価を見ると、何と25%も下落している。就任1年と少々と言っても、ウェバーが社長兼最高執行責任者(COO)として武田に入社したのは14年6月だ。誰がどう見ても、ウェバーの「手腕」の反映でしかあるまい。

 武田の、13年3月期当時の純利益は1485億円。それが、17年3月期では880億円しか見込まれていない。4年間で、約5割の純利益が吹き飛ぶ結果になるが、そのうちウェバーは半分以上の期間をCOOとCEOとして武田に君臨している計算なのだ。

 かつての高収益企業の代表格だった武田がここまで落ちぶれながら、「好調な業績を反映させた」としていきなり役員報酬を1年で4億円も上積みするのでは、誰よりも下で働く社員自身が複雑な思いになるだろう。

 これで、株価が右肩下がりにならないはずはない。しかも、武田が5月10日に発表した16年3月期の連結決算(国際会計基準)は、最終損益が801億円の黒字となり、前期の1457億円の赤字からは好転したものの、国内の売上高は3%の減となっている。稼ぎ頭だった高血圧症治療薬「ブロプレス」、そして消化性潰瘍治療薬「タケブロン」が特許切れとなり、糖尿病治療薬「ネシーナ」も不振をかこっているのが響いている。

 こうした業績から、果たしてウェバーは役員報酬額9億500万円に見合う存在なのかと、誰しも疑念を抱くだろう。のみならず、ウェバーの招請理由として長谷川が何とかの一つ覚えのように繰り返していた「グローバル経営」とやらについても、明るくない材料が目立つ。

 例えば、欧州医薬品評価委員会(CHMP)はこの5月30日、武田に対して、同社が再発・難治性の多発性骨髄腫治療薬として欧州承認申請中の新規経口プロテアソーム阻害剤「ニンラーロ」の「承認を推奨しない」という否定的見解を突き付けた。武田にとって「ニンラーロ」は米国での承認取得後、欧州でも「グローバル展開」する重要な薬剤として位置づけられていたが、簡単に出鼻をくじかれる結果となった。

 さらに武田は3月29日、米食品医薬品局(FDA)に申請していた大うつ病治療剤「ブリンテリックス」の、成人大うつ病性障害での認知機能障害に関する新たな臨床成績の添付文書への追記に関し、審査の結果、承認が与えられなかったとして、審査完了報告書を受領したと発表した。

 事実上の拒絶を通告されたわけだが、武田は「ブリンテリックス」の米国内の売上を10億〜20億㌦見込んでいるものの、既に承認されている製品の情報追記が不可になるのは、非常にまれなケースだ。

 同じ3月から4月にかけて、武田は米国で有力な消化器領域の製品を有するカナダの特殊医薬品メーカー、バリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナルの買収にも失敗。どうひいき目に見ても、ウェバーはCEOの就任後、有望な事業開発ディールを組めたとは言いがたい。

新CFOを取締役にしなかった背景  滑稽な話がある。武田は5月12日、アイルランド人のジェームス・キーホーが、最高財務責任者(CFO)として6月15日付で着任すると発表した。だが、それが製薬業界のみならず一部上場企業で前代未聞の人事だったのは、キーホーが取締約候補に名を連ねていない点だ。

 そもそもCFOのような要職者が取締役ではないという事態はあり得ないが、なぜこんなことになったのか。おそらく、答えは単純なはずだ。

 昨年まで武田のCFOだったフランソワ・ロジェが3億円超の役員報酬を手にしながら、わずか9カ月で、しかも株主総会2日前に「電撃辞任」し、「高報酬もらい逃げ」と騒がれたのは記憶に新しい。その二の舞を避けるため、当面は様子見で、取締約候補から外しているのだ。

 実際、キーホーは武田が7社目の就職先で、前の会社には在籍1年だった。また同じことが繰り返されたら、どうするつもりなのか。そんな猿芝居じみたことまでやらかしても、長谷川は「グローバル人事」と称して、高報酬で外国人経営者を雇わなければならないのか。

 武田がウェバーを首をかしげるような破格の昇給で待遇したのも、案外引き止めが主目的なのかもしれない。だが前述のロジェは、17年度までに1200億円のコスト削減を目指す「プロジェクト・サミット」の責任者だった。ところが、そのリストラのあおりで、数々のドル箱商品を生み出してきた武田の腰を据えた伝統的研究開発風土が荒廃してしまったのは、周知の事実だ。

 ウェバーとて、このまま居続けても武田の衰退を食い止めそうな片鱗は示していない。武田は、長谷川の「グローバル人事」と心中する気なのか。

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