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防衛費急増が象徴する「財政再建」を妨げるカラクリ

防衛費急増が象徴する「財政再建」を妨げるカラクリ
防衛象徴「財建」を妨るカ

財務省が昨年11月に発表した数字によると、同年9月末時点で国の借金(国債と借入金、政府短期証券の合計)が1080兆4405億円となり、過去最大を更新したという。

 もはやこの国では、とうの昔にこうした破局的な財政状態は主要な関心事ではなくなっているが、財政赤字は国内総生産(GDP)比で240%以上にも達しており、世界でも最悪レベルだ。どう楽観的に考えても、債務膨張と金利の高騰によって国家的破綻が到来するリスクを排除するのは、年々困難となっているに違いない。

 国民も少子高齢化の進行で将来、年金や医療、介護といった社会保障給付費を財政が果たして賄えるかという不安を漠然と抱えてはいながらも、財政再建より地方を中心に政治屋による票目当ての無駄な公共事業の大盤振る舞いを歓迎しがちだ。財政健全化のために残された時間を無為に過ごしているどころか、予算のバラマキに興じ続けている首相の安倍晋三にも、大甘のままだ。

 だが、いかに愚鈍な首相であれ、現状では建前でも「財政再建」というスローガンを掲げないわけにはいかない。例えば政府の「新財政健全化計画」は、安倍内閣が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に示されている。そこでは、財政の安定度の指標である基礎的財政収支(PB)の黒字化が、これまでの2020年度から5年遅らせて、2025年度に達成可能と見なしている。

 これがデタラメなのは、「計画」の前提となる20年以降の成長率が、3・1〜3・5%とバブル期並みに設定されていることに示されている。第2次安倍政権発足後の実質GDP成長率平均値はせいぜいプラス1・4%だから、最初からPBの黒字化や財政の健全化など真面目に考慮されているかどうか疑わしい。それでも「骨太の方針」は毎年度の予算編成や重要政策に反映されているから、安倍の無責任な政権運営の表れとして嘲笑するだけでは収まるまい。この「骨太の方針」の細部を検討すれば、政権が「財政再建」など頭にない実態が浮かんでくる。

防衛費大幅増の一方で財政再建説く愚

 それを証明する例の一つが、防衛費だ。「骨太の方針」の「第2章 力強い経済成長の実現に向けた重点的な取組」の「7 安全で安心な暮らしの実現」には「(1)外交・安全保障の強化」という項目があり、その②に「あらゆる事態に備え、高度の警戒態勢を維持するとともに、いかなる事態にあっても、国民の命と平和な暮らしを守り抜くため……我が国の防衛力を大幅に強化する」などと、堂々と書かれている。

 そうなると、防衛費は聖域ということなのか。「骨太の方針」を取りまとめるのは安倍が議長で閣僚5人が議員として加わっている経済財政諮問会議だから、政府が政府に対し予算編成や重要政策を示すような、奇異な光景が繰り返されている。当然ながらこの②には、「我が国の安全保障環境が厳しさを増している中にあって」といった、防衛省の役人が予算増の名目として必ず繰り返す決まり文句が登場する。

 経済財政諮問会議の「民間委員」は、御用学者の代表格である学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重と、経団連前会長で東レ相談役の榊原定征、サントリーホールディングス社長の新浪剛史ら4人。この面々に防衛問題を論議する素養があるのか疑わしいが、最初から「防衛力を大幅に強化する」などと公言しておいて、「財政再建」もあるまい。「我が国の安全保障環境が厳しさを増している」などとしたり顔で語るのなら、歯止めなど存在しないように「防衛力を大幅に強化」すれば、「安全保障環境」の「厳しさ」が和らぐとでも言うのか。

 いかにもうさん臭いこうした記述は、安倍による防衛費の4年連続の最高額更新、6年連続の前年度比増を正当化したいがためだろう。だが、2012年に4兆7100億円だった防衛費は18年度で5兆1900億円となり、4000億円以上アップしたが、その結果、どれほど「我が国の安全保障環境が厳しさを増」さなくなったのか。

 どうせ仮想敵は中国と北朝鮮なのだろうが、こちらが「防衛力を大幅に強化」すれば中国も警戒して同じことをしがちだから、「安全保障」にとって必ずしも得策にはならない。北朝鮮にしろ、この間の南北融和と米朝接近に関し、日本だけが「カヤの外」だったのは、米国でさえ残しておいた北朝鮮とのパイプを自ら放棄した結果だ。挙げ句の果てに安倍は、米朝会談前にトランプに「日本人拉致問題の解決」を頼み込む醜態を演じたが、通訳を挟んで限られた時間しかないトランプと金正恩の首脳会談で、「日本人拉致問題」がどの程度の比重を占めるのか考えればすぐ分かろうというものだ。

受益者団体の民間委員が予算に影響

 そもそも安全保障は軍事力と外交が両輪となるが、外交が機能していないのに軍事力だけ増やしても、「安全保障環境」が好転するはずがない。だが、榊原が会長だった経団連は、16年度で見ると、防衛省に武器や弾薬などの装備品を納入している企業の上位20社中、過去15年間に役員を送り込んだ企業(子会社を含む)は13社に上る。また、経団連が15年10月の防衛装備庁発足前に発表した「提言」には、「自衛隊の国際的な役割の拡大」や「防衛産業の役割拡大」と並び、「政府の(防衛)関連予算の拡充」を要求していた。

 何のことはない。政府予算による受益者団体が「民間委員」として政府の諮問機関に入り込み、「自分達にもっとカネを回せ」とばかりに予算編成に影響力を発揮しているのだ。利益相反そのもので、こんなことがまかり通ったら「財政再建」であれ「健全化」であれ、実現するはずもない。一方で自民党も5月、政府が策定する新防衛大綱と中期防衛力整備計画(中期防)への提言として、実質的に防衛費を2倍にするよう求めている。これが経団連による「政治献金」という名の〝媚薬〟の効果かどうか別にして、今どき戦争でもあるまいし、財政の破局を促進するだけの効果しかないのは自明だろう。

 韓国の文在寅政権と米国のトランプ政権の外交努力により、北朝鮮のミサイル実験は脅威度を激減させたが、安倍は北朝鮮を念頭にした「敵地攻撃能力」を有する長距離巡航ミサイル取得や、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」導入のため、18年度予算では数十億円計上。今後、見直し機運もないままその額は膨れ上がっていきそうだが、「財政事情に考慮する」というような発想は死滅しかけているようだ。

 無論、防衛費の増額傾向だけが財政再建を妨げているのではない。だが、止まらぬ財政の破局化は、政権与党と癒着した業界団体の働き掛けや政・官の定見のなさに起因する面が大きいという見方に対して、防衛費がその証明材料を提供しているのは疑いないように思える。(敬称略)

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