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未来の会

第210回 政界サーチ
予算年度内成立断念の裏事情

第210回 政界サーチ予算年度内成立断念の裏事情

歴史上、止まない戦乱は存在しない。混迷を極めたイラン情勢は依然、再燃の危険を抱えているものの、パキスタンによる仲介で、停戦の機会を掴んだ。戦争の泥沼化と世界経済への悪影響を防ごうと、国際社会が懸命に動いた成果と言える。完全な終結に至るのかは依然、不明だが、戦火の際限無き拡大は一先ず食い止めた格好だ。

 「停戦、そして終戦は秋の中間選挙への悪影響を避けたいトランプ大統領の切望だろうが、事はそう簡単には運ばないだろう。米国、イスラエルとイランの主張の隔たりは依然大きいからだ。和平への道程は厳しいものになるだろう。かと言って、手を↘拱いている状況ではない。当事者同士が駄目なら、外野が頑張らないといけない。資源を中東に依存する日本は猶更だ」

 外交に詳しい自民党の中堅議員は高市早苗首相の訪米と軌を一にして発せられた欧州5カ国と日本による「ホルムズ海峡の安全確保に関する共同声明」等、国際的な取り組みが今後の鍵を握るだろうと読んでいる。

イラン終戦を睨んで動く第三極

 「日本は戦闘にコミット出来ないから米国から嫌味も言われたが、停戦となれば話は別だ。第三極の重要性は増している。停戦ではパキスタンが大き↘な役割を果たしたが、欧州等、当事国以外の動きは今後、更に活発化する。日本も然るべく役割を果たさないといけない」

 中堅議員が注視しているのは中国の動向だ。開戦当初から大きな動きを控えていた中国は3月末、北京を訪問したパキスタンのダール副首相兼外相と王毅外相との会談を契機に仲介役としての存在感を示し始めている。王外相はその後、欧州連合(EU)やドイツ、サウジアラビアの外相らとも電話会談を行った。戦況の機を見定めた動きと見られている。

 「イラン情勢を巡る動きは、米国、イスラエルによる軍事行動、パキスタン等と中国による外交仲介、欧州主導による海上安全確保の3層構造だった。↖米国の同盟国であり、イランとも長年友好関係に有る日本は立ち位置が難しい。この際、中国とも連携したい気持ちは有るが、〝台湾有事〟を巡る一件も有るし、下手に触れない。第三極による動きは、勿論、和平の確立が第一だ。でも、この混乱の中で、どのグループが次の時代の主導権を握るかという権益争いも激しくなるだろう。どの勢力と、どの程度関わるのか。そこが勝負の分かれ目だ」

 戦争は当事国だけではなく、国際関係をも大きく動かす。停戦交渉、そして終戦への動きを見据えながら、第三極相互の勢力争いも激しさを増している。

 開戦当初から発言が二転三転し、米国民向けのメッセージも市場の失望とガソリン価格の高騰を招いたトランプ大統領。傍若無人な立ち居振る舞いで知られるその人を一歩引かせたと一部の話題を集めた人物が居る。日本の高市首相である。舞台はホワイトハウスの玄関先だった。

 問題の1コマは握手しようと出迎えたトランプ大統領に対し、高市首相が一歩踏み出したシーンである。トランプ大統領は躊躇するように後方に少し動いたのだ。この後、2人はハグするのだが、この絶妙な間が東京・永田町の耳目を集めた。

 自民党若手が語る。

 「僕には、トランプさんが一瞬引いたように見えた。映像の加減なのかも知れないけど。女性にグッと迫られた際に多くの男性が見せる、テレのような仕草かな。へーって思ったよ」

 トランプ大統領は交渉相手の肩や手によく触れる。親密度合いを示す行為で、欧米ではさして問題にならないのだが、日本の場合、殊更に反応する傾向が有る。文化の違いによるものなのだが、異性間の触れ合いは注目度が高い。

 確かに映像を見る限り、トランプ大統領は一瞬戸惑ったように見える。日本の流儀への気遣いが有ったのかも知れないし、高市首相の迫り方が尋常でなかったのかも知れない。外交専門家は「本質に何の関わりも無い」と取り合わないが、この一瞬の間にトランプ大統領の置かれた複雑な状況が反映されていると読む向きも有る。

 自民党のベテラン議員が語る。

 「トランプさんはイランへの軍事対応に関して、NATO(北大西洋条約機構)にそっぽを向かれて、言わば孤立状態だった。不満たらたらの所に巨大な対米投資の土産をぶら下げ、満面の笑みで高市首相が接近してきた。嬉しかった筈だ。一瞬戸惑ったのは、イラン攻撃を指揮する最高司令官としての尊厳を保つ為だろう。手放しで喜べる状況ではないと、自らを諫めたんじゃないかな」

 日米首脳会談での高市首相の決め台詞は「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだと思っています。その為に、私は諸外国に働き掛けて、しっかりと応援したいと思っています」だった。

 野党議員らからは「戦争を起こした張本人に対し、おべんちゃらが過ぎる」と批判されたが、日本国民の受けは悪くなかった。世論調査では、この首脳会談を評価する声が多く、高い内閣支持率を維持するのに役立ったと見られている。但し、別の世論調査によれば、米国のイラン攻撃に対して過半の国民が「支持しない」と回答している。日米同盟は支持しているが、中東への武力介入には否定的という民意が示されている。

 一方、トランプ政権の支持率はイラン攻撃で下降が強まっている。3月下旬の各種調査を見ると、ウェッジ・オンラインが掲載した、政治系サイトによる複数の世論調査の平均値では、支持が41・1%、不支持が56・6%。支持と不支持の差が15・5㌽に広がり、2期目の最低水準になった。その他の調査でも、支持率は大きく下がっている。戦争長期化への懸念からガソリン代等が高騰しているのが原因と見られる。トランプ支持層でも「戦争には膨大なコストが掛かる。米国第一主義の理念と相容れない」等批判の声が強まり、概ね1割程度、支持率が低下しているようだ。

 自民党ベテラン議員が続ける。

 「高市さんにすれば、トランプ政権の支持率低下の悪影響を被る〝連れ安〟は避けたい。その一方で、トランプさんの機嫌も損ねないように立ち回らないといけない。当面の命題は、今後の経済に大きく響くイラン情勢の緊張緩和だ。とは言え、日本に出来る事は限られる。限界を感じながらも必死に食い下がるしかないのが現状だ。当然、イライラは募る」

外交だけでなく国会にも配慮を!

日米首脳会談を無事終えた高市首相を待っていたのは、今年度当初予算の成立という内政最大の課題だった。衆院での圧倒的多数を背景に打ち出したのが「当初予算の年度内成立」という大方針である。ところが、これを参院に阻まれる。高市首相は通常国会の冒頭解散に打って出たから、その分、国会での審議日数は目減りする。そうでなくとも、参院は少数与党体制なのだから、自民党内では「当初予算の年度内成立は参院での審議時間不足で断念せざるを得ない」との受け止めだった。高市首相の大方針は当初から「無理難題」だと見られていた。

 自民党ベテラン議員が更に語る。

 「どんな状況だろうと、政府が年度内成立を目指すのは当たり前の事だ。その意味で首相の方針は間違ってはいない。但し、間違っていないからといって国会を素通り出来るものでもない。通すつもりなら、各党党首を官邸に呼ぶ等して説明を尽くし、協力を頼むべきだった。忙しいのは分かるが、トランプさんへの対応に心を砕いたのと同様の気遣いが有れば違ったかもな」

 首脳外交は国益を懸けた大交渉だ。入念な準備と度胸が試される。国会運営は、それと比べれば確かに地味だ。通常は幹事長や国会対策委員長がその指揮に当たるが、今回の予算年度内成立断念は党幹部すら知らなかった『高市解散』が原因だった。

 「衆院が圧倒的多数だから早晩、予算は通る。でも、多数に胡坐をかいていると、足下、つまりは身内の信頼を損ねる事になる。高市さんは『国会の事は国会にお任せする』という姿勢が強すぎる。建前はその通りなのだが、現場で汗を流している自民党にも野党にももっと配慮が必要だ。首相は自民党総裁でもあるという事を忘れてはいけない」。自民党ベテラン議員の箴言である。

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