
慎重論や課題も山積の中、先ずは目的設定から
消費税減税の取り扱いと「給付付き税額控除」の導入を検討する超党派の「社会保障国民会議」は、高市早苗首相や関係閣僚等による「親会議」、各党責任者が参加する「実務者会議」、専門家を集めた「有識者会議」が出揃い、本格的な議論が始まった。給付付き税額控除に関する参加者の見解は「導入が必要」との考えでほぼ一致しており、4月から制度設計に着手する。しかし、正確な国民の所得把握等課題も多く、今後難航する局面も有りそうだ。
清家篤日本赤十字社社長(元慶應義塾長)を座長に、経済、社会保障の専門家ら12人で構成する「有識者会議」は3月24日に発足した。東京・港区で行われた初会合の冒頭、担当の城内実日本成長戦略担当相はこの日のテーマに据えた給付付き税額控除の導入目的について「税・社会保険料の負担に苦しむ中低所得者の負担を集中的に軽減し、所得に応じて手取りが増える様にする」と述べた。
同日の会議で日本総合研究所シニアフェローの翁百合氏は、年収別の税と社会保険料の負担割合を国際比較したデータを示した。低所得層の子育て世帯の税と社会保険料の負担率が国際的に高い事を示すグラフで、働く低所得者に厳しい日本の実情を表す「翁カーブ」と呼ばれる。翁氏は低所得の子育て世帯の苦しい実態を説明し、そうした世帯に対する支援の必要性を訴えた。大和総研主任研究員の是枝俊悟氏は給付付き税額控除を採用している各国の制度について報告した。社会保険料の負担軽減、就労支援、子育て支援等、それぞれ制度によって狙いが異なる点に触れ「目的を先に考える必要がある」と強調した。
給付付き税額控除は所得税減税と給付を組み合わせる制度。納税額がゼロ又は少なくて税控除をしきれない人に現金を給付する仕組みだ。控除額を10万円とした場合、元々所得税が8万円の人なら所得税はゼロとなり、更に控除しきれない2万円分が現金で給付される。所得税がゼロなら丸々10万円が給付される等、中低所得層に広く効果が及ぶ。高市首相は「改革の本丸」と呼び、首相が訴える「飲食料品の消費税率2年間ゼロ」も、給付付き税額控除導入迄の「繋ぎ」と位置付けている。
野党の反発を経て、漸く発足
社会保障国民会議の発足迄には一悶着有った。発足の契機は石破茂政権末期の昨年9月、「低所得者支援等に向けて給付付き税額控除を超党派で議論する」として自民党、旧公明党、旧立憲民主党の3党が協議機関設置に合意した事だ。それが2月の衆院選を前に高市首相が突如、「消費税減税も議論の対象にする」と表明し、野党の反発を招いた。消費税そのものに反対の参政党、共産党、れいわ新選組の各党は端から除外され、他の野党も消費税減税が実現しなかった場合に責任を負わされる事を警戒して参加に二の足を踏んだ。その結果、2月26日の初回の親会議に野党から参加したのはチームみらいだけだった。
その後、国民民主党が名乗りを上げ、「議論への乗り遅れ」を懸念した中道改革連合、立憲民主、公明の各党も漸く3月25日の実務者会議から加わる事になった。厚生労働省の中堅幹部は「消費税減税と給付付き税額控除の2つしか議論しない協議体に『社会保障』の名を冠していいのか。排除された政党もいるのに『国民会議』と言うのもどうか」と漏らす。
国民会議に参加する与野党は、給付付き税額控除の導入では概ね一致している。但し、政府が導入迄の負担軽減策と見据えている消費税減税に関しては、みらいが「社会保険料の軽減」を訴えて反対する等、足並みは揃っていない。25日の実務者協議でもヒアリングをした経済界から慎重論が相次いだ。
そもそも消費税減税に関しては、自民党内にも根強い慎重論が有る。飲食料品の税率を2年間ゼロとした場合に要する約10兆円の財源にはメドが立っていないし、2年後に税率を元に戻すハードルも極めて高いとあって現行の社会保障の給付に穴が空き兼ねないからだ。それでも「負担軽減策を何もしない訳にはいかない」(自民党中堅議員)として、同党内には給付付き税額控除を不完全な形でも早期に始めるべきだという意見が出ている。
先行国の目的設定は大きく4つ
とは言え、導入には課題が山積している。先ずは目的をどうするかだ。救済する対象者、給付の規模については先行している国でも異なり、目的は大まかに4つに分かれている。
1つは就労支援を目的とした米国の制度だ。就労所得が一定額に達する迄は給付を続ける。中低所得者の働く意欲を高めつつ、生活を支援する事を目指している。
ドイツ等で実施されているのは子育て支援型だ。子供の数や所得に応じて給付額が変動し、子育て世帯の負担軽減効果が大きい。米国等は就労支援と組み合わせて実施している。
更に、控除額が所得税額を上回る場合に社会保険料から差し引く形で保険料の負担軽減を目的としたものも有る。オランダ等が採り入れている。
又、消費税の負担を軽くする目的で、一定所得迄の人全てに生活必需品の消費税額相当分を給付する仕組みも有る。カナダ等で導入されている。対象者が幅広くなり、設計次第では巨額の財源を要する。
この他、所得補償や児童・住宅手当から生活保護まで包含した英国の「ユニバーサルクレジット」は有名だ。職業訓練等を対象者の要件としている。只、英、仏等は実務軽減の観点から控除を止め、全額給付に切り替えている。
会議に参加する各党の中で、国民民主は「社会保険料還付付き住民税控除」を提案している。住民税の控除額を引き上げると共に、社会保険料の負担を上限額として税を還付するという。一方、高市首相は給付付き税額控除の狙いに関し「社会保険料負担や物価高に苦しむ中低所得者の方々の負担を緩和したい」と語りながらも、具体策には触れていない。
財源の確保や仕組みの問題も
この様に、対象者や規模をどう設定するかにより、所要財源も異なってくる。目的だけでなく、給付や減税を打ち切る所得水準をどう設定するかも難題だ。目的を消費税の負担軽減とし、一定所得以下の全国民を対象とした場合、数兆円規模の恒久財源が不可欠となる。
旧立憲民主は、昨年9月、独自の給付付き税額控除案を纏めていた。この案では、4人家族(夫婦片働き、子供2人の世帯)なら年収670万円未満の層で4万円×4人=16万円のフル受給となる。670万円以上〜1232万円未満の世帯は年収が上がる程、次第に実質の受給額が減っていき、1232万円以上の世帯は給付と同額以上の所得税が差し引かれる為実質ゼロ給付となる。これに要する財源について同党は3・6兆円と試算していた。
又、給付付き税額控除の実現には国民の所得情報を正確に把握する仕組みも必要となる。日本では自営業者等の所得の把握が不十分なままだし、勤め人についても国は個人単位の納税情報を持たない。株の配当等で多額の所得を得ても確定申告不要の制度により、莫大な配当を得ながら課税を免れる例も存在する。こうした人まで給付対象となれば、国民の間に不公平感を生む恐れが有る。
税務当局や自治体は勿論、企業や個人の事務負担が増す事も想定される。より正確な所得情報把握に向け、複雑な控除計算や年末調整の作業が求められそうだ。国と自治体の連携も不可欠で、デジタル化されたシステムの整備も必須となる。公平さを追求して資産の把握を進めるなら、国に所得情報を握られるのを嫌う層の強い反発を招くのは必至だ。
実務者会議の議長役、自民の小野寺五典税制調査会長はどの国も最初から万全な制度ではなかったとし、「海外でも制度改正が繰り返されてきた。精緻なものについては随時、充実させていく姿勢が大切だ」と話す。早期導入に向け、「目的や対象を絞ってスタートし、その後拡充していくべきだ」(有識者会議のメンバー、深沢祐二JR東日本会長)との考え方も選択肢となりそうだ。



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