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未来の会

中東情勢緊迫化で世界はインフレ・景気悪化懸念が高まる

中東情勢緊迫化で世界はインフレ・景気悪化懸念が高まる

紛争長期化が心配される中で、日本は政策面で迅速に対応か

イスラエルと米国によるイランへの攻撃に世界は震撼し、これを受けた原油価格急騰によって世界経済への影響が注目されている。年明けのベネズエラのマドゥロ大統領の拘束劇にも驚かされたが、原油輸入の多くを中東に頼る我が国にとって今回はダメージが大きいのは言う迄もない。イラン情勢が及ぼす世界情勢、日本経済の行方、日米同盟も含めて今後の影響について整理する。

イラン情勢の緊迫化は今に始まった話ではない。親米政権だったパーレビ王朝が1970年代にイスラム革命によって打倒されて以来、最高指導者がホメイニ師、殺害されたハメネイ師と引き継がれた半世紀近くの間、一貫して反米姿勢だったイランは、核兵器開発など地政学リスクをもたらしてきた。

核開発のレッドラインを踏み越えたイラン

最近の動向をみると、2024年に強硬派のエブラヒム・ライシ大統領が墜落死した後、選挙で改革派大統領が就任しながらも、その一方で、テヘランでのハマス指導者暗殺、それに対するイランの報復空爆等、史上初となるイスラエルとの直接的な攻撃が行われ戦闘状態が常態化する事となり、今回の攻撃の直前まで軍事的緊張が高まっていた経緯が有る。決定的な要因となったのが、トランプ大統領の再就任だろう。米国にとっての不都合を徹底的に排除する姿勢を示してきた同大統領は、イランが核開発を止める気配が無い事で、イスラエルとの共同攻撃を行った。その一方、英仏独(E3)との核交渉も決裂、解除されていた国連制裁が復活し、イランは一段と孤立を深める事になる。

そして、25年末から行われていた米国との交渉に於いて、イランは米側からの要求であるウラン濃縮の完全停止や査察の受け入れを拒否。「核開発のレッドライン(限界線)」を踏み越えたとして、トランプ大統領は核開発施設を破壊する一方、35年間に亘りイランを支配した最高指導者のハメネイ師を始め政権幹部殺害に踏み切った。

中東有事で懸念されるのは原油の産出、輸送に悪影響を及ぼす事である。これ迄の経緯からも、イランは攻撃された場合、報復措置を取る事は十分想定出来たが、最高指導者が殺害されても反米姿勢が強い体制が転換された訳ではなく、時を置かずして報復したのは言う迄もない。この点がマドゥロ大統領拘束後に、対米政策の方向性が親米に変わったベネズエラとは大きく異なる。

イランの報復は、ペルシャ湾を挟んで対岸に在る米国の軍事施設を攻撃しただけではない。原油輸送の重要航路となるホルムズ海峡を事実上封鎖した。

ホルムズ海峡の事実上封鎖で原油急騰し危機的に

それは直ぐ様原油価格に反映され、指標となるWTI原油先物価格は一気に1バレル=100ドルを突破。これにより、経済面での不安から日本を始め世界の株式市場は急落した。

イラン・イラク戦争時等、過去にもホルムズ海峡が完全封鎖の危機に見舞われたが、これが長期化した場合、日本のみならず世界経済への影響は大きい。

日本が輸入する原油運搬の8〜9割がここを経由する為、海峡封鎖は石油関連製品の価格上昇、電力不足や物流の停滞等を引き起こす。日本国内では、暫定税率の廃止により実質的に値下がりしたガソリン価格が急騰。既に、生活に影響が出始めた。

世界的に見ても、エネルギー価格高騰によって激しいインフレが生じるリスクが大きい。海上保険価格の急騰により、原油のみならず海上輸送運賃の高騰も懸念されており、景気低迷と物価上昇が同時に起きるスタグフレーションが世界規模で発生する恐れが出てきたのだ。

最悪のシナリオは、海峡封鎖による輸送困難に加え、双方の攻撃激化によるイランのみならず他の湾岸諸国も含めた原油生産設備の破壊だろう。日本にとっては、半世紀前の狂乱物価を引き起こしたオイルショックの悪夢再来が心配される。

経済の悪影響は、エネルギー以外にハイテク産業にも深刻な打撃を与えると懸念されている。実は、半導体、MRI等の先進分野で不可欠なヘリウムガスの世界シェア約3割を湾岸諸国の一角であるカタールが占めており、海峡封鎖で運搬出来なくなるのだ。特に、ヘリウムを輸入に頼る日本、中国へのダメージが大きい。露光装置の冷却、シリコンウェハーの温度管理、エッチングの温度制御等にも使われているが、その構造上、人工品の製造やリサイクルは不可能。他のガスでは代替出来ないとされるだけに、半導体不況が深刻化する可能性も有る。

こうした事態を防ぐ為にも、紛争の早期終結、ホルムズ海峡の航行の安全確保が求められるのだ。

紛争長期化懸念もイラン孤立が解決の糸口になるか

以上を踏まえると、世界景気の先行きの為には、紛争の終結が求められるのは言う迄もない。しかし、仮に早期に集結が実現したとしても、ハメネイ師の後継として第3代最高指導者に選出された次男のモジタバ師は、反米強硬派でイラン革命防衛隊と強い関係を持つとされている為、尚不透明要素が残ると言えそうだ。尤も、過去に西側先進諸国と中東諸国が激突し、原油価格が急騰したオイルショックとは異なり、今回は実質的にイランを支援する勢力は大きくない。

ホルムズ海峡封鎖で一番困るとされるのは、原油調達先としてイラン他湾岸諸国への依存度が高い中国だろう。同国は原油の大口購入者であり、本来であれば反米姿勢を強める立場にあるが、原油に加え、先述の通りヘリウム輸送でも影響が深刻化しているところへ、自国製の防空システムがベネズエラに続きイランでも突破されたとされる状況もあり、対応のトーンは抑制的だ。制裁で苦境にあった財政が原油高で持ち直すロシアも、表立って親イランの姿勢を取っていない様だ。

そして何よりも、報復措置としてイスラエルに加え、カタール、バーレーン、UAE、クウェート、サウジアラビアなどの米軍施設を攻撃した事で、これら湾岸諸国との関係が悪化し、イランが孤立を深める構図となった。こうした状況が結果的に事態収束への圧力として働く可能性もある。何れにしても、世界が早期終結を望んでいるのは確かだ。

日本の迅速な対応は高い評価

日本は今回のイラン攻撃で、こうした経済への直接的な影響だけではなく、攻撃した同盟国である米国との関係が難しい局面を迎えた。仮に、ペルシャ湾に自衛隊の派遣を要請されたら、苦境に陥る可能性が高い。憲法上の制約から派兵を断った場合は、米側から関税引き上げを通告されるリスクが高まり、そうなると経済面での不透明要因が加わる為だ。

しかし、先日行われた日米首脳会談に於いて、こうした懸念は後退した。この会談で高市首相は、ペルシャ湾への自衛隊派遣を即座に約束せず、国内法の範囲内という原則を貫いた。それに対してトランプ大統領が理解を示した事もあるが、経済的な意義も大きかった事が注目された。

25年の石破前首相との会談では、地位協定の改定の様な制度論を進めたのに対し、高市首相は足元のイラン攻撃を踏まえ、エネルギーと技術という目に見える利益を追求する姿勢が功を奏した格好。自衛隊派遣という軍事貢献の代わりに、米国産LNG(液化天然ガス)の輸入拡大という経済的貢献を示し、これが受け入れられた事によって、良好な対米関係が維持されただけではなく、経済的な果実が得られた。

この他、日本政府は史上最大規模の石油備蓄放出を断行する一方、国策会社とも言えるINPEX(旧国際石油開発帝石)はホルムズ海峡の封鎖懸念を受け、カザフスタン、アゼルバイジャン等、中央アジア諸国で生産する原油を日本企業へ優先販売する方針を示した他、豪州産原油も日本へ優先供給する体制を整備した事も見逃せない。

ガソリン価格の急騰等、日々の生活が脅かされているが、悪影響を最小限に食い止める為に、日本が官民を問わずエネルギー安全保障に真摯に取り組んでいる姿勢は、評価する事が出来そうだ。

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