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第三者委員会調査報告書の“美しき偽装”

第三者委員会調査報告書の“美しき偽装”
第三者委員会調査報告書の“美しき偽装”

「第三者調査委員会(以下・第三者委員会)」と聞くと、多くの人は中立・公平といったイメージを抱くだろう。しかし現実には、それが企業の〝免罪符〟と化しているケースが増えている。昨今問題となったフジテレビの件、そして過去のオリンパス事件は、その構造を鮮明に浮かび上がらせた。

先ず、フジテレビの第三者委員会である。2025年1月、プロアクト法律事務所を中心に発足したこの第三者委員会は、竹内朗弁護士(同法律事務所)を委員長とし、複数の弁護士によって構成された。企業側は「この人選には利害関係が無い」と説明したが、依頼主であるフジテレビが報酬を支払っている以上、真の意味での中立性は担保されていない。自分の寝首を掻く人間に金を払う輩はいない。

欧米では、この様な第三者委員会の選定方法が日本とは大きく異なる。企業側が委員会を設置する点は同じでも、メンバーの選定に於いては企業側と独立第三者機関の双方から推薦された弁護士を対象に、抽選等で構成員を決定する仕組みが存在する。両社が関与する事で、情報の偏向や報告書の誘導が起き難くなる。日本の様に、構成員が全て〝企業が選んだ外部専門家〟である場合、作成過程で企業に都合の良い〝調整〟が行われる余地は限り無く広がる。

報告書の内容にも、そうした構図が透けて見える。性的被害を訴えた女性アナウンサーに関し、「生命を最優先」「復帰まで何もしない」とする社内の発言は認めたが、番組継続出演の経緯や、責任の所在には踏み込みが弱く、曖昧なまま幕引きされた。又、全関係者への十分なヒアリングが行われたのかという疑問の声も上がっている。報告書全体からは、会社に都合の良い解釈が随所に見られ、信頼性にも疑問が残る。特に、今回、委員会のインタビューを受けた幹部らは、それぞれの立場で日枝体制批判をしていた。自分の将来を賭したにも拘らず、報告書には反映されていないと不満を漏らしている。今は静かな不満だが、大きな問題に拡大する可能性も有る。

こうした〝調査報告書〟の形骸化は、最近に限った話ではない。嘗て〝第三者委員会〟が信頼されていた時代に於いても、実態としては企業の意向に沿う内容が量産されていたという証言は業界内部では多い。一部では、「結論は最初から決まっており、それに向けて〝調査風の作業〟が行われる出来レースだった」との辛辣な指摘すら有る。

こうした構造が最も明瞭に露呈したのが、11年のオリンパス事件だ。CEOだったマイケル・ウッドフォード氏は、約1500億円に及ぶ粉飾決算を内部告発した。しかしその直後、実力者である会長・菊川氏らにより、同氏はCEO職を解任された。身の危険を感じた彼は日本を離れ、英ヒースロー空港で緊急記者会見を開き、「排除されたのは、粉飾の真実を突き付けたからだ」と世界に訴えた。

その後、オリンパスでも第三者委員会が設置され、報告書が公表されたが、ウッドフォード氏の主張や、社内意思決定の過程に深く踏み込む事は無かった。

しかし、こうした報告書が企業社会の中で〝機能〟してしまう理由も有る。人は企業に就職し、やがて企業戦士となり、出世を目指して働く。その過程で、青春時代に抱いていた夢や理想は次第に霞み、組織の論理、社風に染まっていく。そして幹部候補に名を連ねる頃には、複数の派閥からの誘いが始まる。「誰に付くか」でキャリアが決まり、所属派閥からは忠誠心と〝敵派閥への徹底抗戦〟が求められる。敗れれば左遷、勝てば社長。もはや正義よりも、生存本能が勝る世界である。

こうして、勝ち残った派閥の長が企業のトップとなり、組織を掌握する。報告書も又、その〝勝者”の視点で描かれる。フジテレビに限らず、多くの大組織が同様の構造を抱えているのだ。

「第三者委員会」は、もはや真実を明らかにする為の手段ではなく、〝真実風〟のストーリーを創作する装置に堕してしまったのかも知れない。第三者委員会を取り仕切った弁護士らの責任を追求する声が大きくなった事は自業自得かも知れない。

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