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未来の会

第114回 低用量ピルによる血栓塞栓症

第114回 低用量ピルによる血栓塞栓症

 エストロゲン(E)とプロゲスチン(P:黄体ホルモン)を低用量(L: Low-dose)で組み合わせた製剤(LEP)は、経口避妊剤(OC)として自費(保険診療外)で1999年以降、日本でも用いられてきたが、2008年から月経困難症の症状改善に保険適用となった。それに伴い、血栓症を起こしやすい年齢層(40歳以上)にも多用されるようになってきた。

 薬のチェック84号(2019年7月発行)*では、低用量ピルによる血栓塞栓症の危険度を、改めて推計した。欧米での平均服用期間が約8年間であることから、今回の推計では、日本でも普及し、40歳代で高血圧のある人が10年間服用した場合の累積危険度として計算したところ、37人に1人という高頻度で血栓塞栓症を発症し得ることが判明した。その概要を紹介する。

低用量ピルによる血栓症の5分の4は静脈系

 血栓症には、深部静脈血栓症や、それが剥離して肺動脈を広範囲に閉塞させ、突然死の危険性の高い肺塞栓症など静脈系血栓塞栓症と、心筋梗塞や脳梗塞など動脈系の血栓症がある。低用量ピルを服用中に起こる重大な血栓症の5分の4は静脈系の血栓症である。

5倍の危険度が長期間続く

 低用量ピルを服用すると、開始後3か月以内は危険度が12.6倍と高く、その後、やや危険度は減るが、1年以降は長期にわたり(5年、10年と)5倍以上の高い危険度が続く。血栓塞栓症の半数以上が服用開始後7年以降に起こるので、短期間に害がなくても決して安心できない。また、長期服用後に生じた血栓塞栓症も、低用量ピルによるものであると認識して、報告を怠らないようにすべきである。

40代は10年間で74人に1人が血栓症

 低用量ピルの服用を10年続けると110〜330人に1人に血栓塞栓症が起こると推計される。その危険度は40歳超で格段に高く、24歳までに比較して40代前半で約3倍、40代後半では約6倍になる。そのため、40代で服用を開始した人が10年間続けると74人に1人の高頻度となる。

40代の高血圧者は10年間で37人に1人

 エストロゲンは動脈でも静脈でも血液を固まりやすくする。細動脈内で血栓が生じると血圧が高くなり、血圧が高くなる人は血液が凝固しやすく、静脈血栓症も起こしやすい。高血圧症は動脈血栓症のリスク因子であるとともに、静脈血栓症を約2倍増やすことが、低用量ピルの使用有無で調整したコホート研究をメタ解析した結果で判明した。従って、血圧が高くなく、低用量ピルを服用していない人のほぼ10倍起こしやすいことになる。

 40代で高血圧のある人が10年間服用すると、37人に1人が血栓症を起こすと推定された。

 ヤーズ配合剤は他の低用量ピルと比較して約8倍と格段に危険度が高く使用すべきでない。

実地臨床では

 日本産科婦人科学会の2015年のガイドラインでは、WHO(世界保健機関)ガイドラインの「絶対禁忌」を「原則禁忌」、「原則禁忌」を「慎重投与」と読み換え、高血圧をはじめ、喫煙者、肥満者、片頭痛のある人など、高リスクの人への安易な使用を推奨しており不適切。真の危険度を考慮し、安易な使用を避ける必要がある。

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