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未来の会

女性人材を活かす病院経営
Vol.2 三重県立総合医療センター
(三重県四日市市)

女性人材を活かす病院経営Vol.2 三重県立総合医療センター(三重県四日市市)

Vol.2 三重県立総合医療センター
「女性の働き易さ」を通じて、病院全体の環境作りを推進
地方独立行政法人三重県立総合医療センターでは、県の「女性が働きやすい医療機関」の認証の取得に合わせて職場環境の改善に取り組んでいる。その狙いや効果等について新保秀人理事長・病院長と、2児の母でもある宇都宮愛医師に話を聞いた。

——2019年と22年に三重県から「女性が働きやすい医療機関」の認証を受けられました。
新保 秀人 理事長・病院長

新保 三重県では、医療機関に於いて女性が働き易い環境作りを推進する事で医療スタッフを十分に確保する為、15年、全国に先駆けて「女性が働きやすい医療機関」の認証制度を創設しました。当センターは県立の医療機関ですが、実は私が病院長に就任した18年の時点では、未だこの認証を受ける事が出来ていませんでした。そこで改めて院内の環境の見直しを行い、19年に認証を取得しました。認証の有効期間は3年間で、21年が更新の年でしたが、新型コロナ禍の影響により1年延期され、22年に認証を更新しました。

——どの様な項目が評価されるのですか。

新保 ハラスメント対策等の職場環境や、保育や介護を行う職員の時短制度や休暇制度といった人事管理、保育所や授乳所等の施設整備等のチェックリストを自ら作成し、250点満点で評価を行います。書類審査の合格の目安は170点とされていますが、自己点検による点数だけでなく内容も精査されます。実際に病院でのヒアリング調査も有りました。ヒアリングは経営陣だけでなく、女性医師や女性職員に対しても行われます。

——病院長就任後、直ぐに女性の働き易さの改善に取り組まれた狙いを教えて下さい。

新保 最近は若手医師の女性比率が高まり、国家試験合格者の35%程が女性です。女性の医師が多いのは、統計的に小児科や産婦人科、放射線科等ですが、病院としては女性医師が働き易い環境を積極的に整備していかないと、これらの診療科で医師の確保が難しくなるかも知れない。又、医師が確保出来なければ、医療機関として生き残れないかも知れません。この様な状況から、職場環境の整備は不可欠であり、もし認証制度が有るのなら、それをクリアするレベルに達していなければならないと考えました。

——当時は、どの様な点に課題を感じていましたか。

新保 先ず感じたのは、本来の業務に付帯する職場環境についてでした。一例を挙げると、ハラスメントの訴えを受け付ける窓口は有るものの、実際に相談を受けた際、誰がどの様に対応するのかといった体制や手順は整備されていませんでした。又、医師には当直勤務が有りますが、女性医師の仮眠室は騒音が気になるだけでなく、寝具の寝心地も良くなかった。この様な細かな環境の不備が嵩んだ結果、職員満足度調査の結果も芳しくありませんでした。そこで、組織の風通しが良く、身体的にも快適に働ける環境を整えていけば、必然的に女性にとっても働き易い職場になっていくのではないかと考えました。

——女性の働き方を含めた職場改善を進めて生まれた変化は。

新保 私が就任した年の女性医師の数は20人で、比率は17%でした。日本全体の女性医師の比率は20%半ばですから、世界的に女性医師が少ないと言われる日本の中でも、更に低かった。それが現在では35人になり、比率も3割程度に上がりました。全て認証制度の効果という訳ではありませんが、初期研修医も年間20人の採用で、男女比が丁度半々になっています。こうして若い人達が入職して来てくれるのは、1つの成果ではないかと思っています。

——産休や育休の制度について教えて下さい。

新保 産前・産後の休暇はそれぞれ56日間(8週間)で、多胎児の妊娠の場合は98日前から産前休暇を取得可能です。育児休業は産後休暇が終了した翌日から子供が3歳になる前日迄となっています。育休の取得日数は女性医師が329日で1年弱、女性看護師で573日と約1年半が平均です。

——産休や育休を取得する医師も多いのですか。

新保 産休や育休を取得する医師は順調に増えていて、23年度は産休を4人、育休を5人が取得しました。育休取得後の復帰率も高く、看護師を含めて99%が復職している。同時に、離職率も他の病院に比べてかなり低いと思います。24時間保育にも対応し、出産後も働き易い環境を整えていますから、出産を考えている女性医師が当センターでの勤務を希望するケースも増えて来た様に思います。又、女性医師に限らず、働き方改革の実施に合わせ、残業時間の縮減にも取り組んでいます。

——「働き方改革」にも早くから取り組まれたと伺いました。

新保 24年から働き方改革がスタートする事は早くから分かっていましたので、対応を急ぎました。私達の地域の医療需要のピークは40年頃と言われており、需要増に対応するには人材の確保が必要でした。しかし、働き方改革が始まると人材の獲得競争で負けてしまうかも知れない。それなら早めに動こうと、採用数を増やしていました。すると、そこにコロナ禍が起きた。幸い、人材を確保していたお陰で病棟を閉鎖する事無く対応が出来ました。この時の対応全般が評価され、医療機関としての信頼も存在感も高まった様に思います。

——今後、女性医師が働き易い環境の整備として考えていらっしゃる事は有りますか。

新保 産休や育休の利用者は増えましたが、対象者が多い筈の生理休暇の取得率が低い事が分かっています。名称の変更を含めて、利用し易い環境作りを現在検討しているところです。他には、女性に限った事ではありませんが、医療機関としてのブランド力を高め、職員が誇りを持って働ける病院にする事がとても重要だと思っています。それには経営の安定と、「県立総合医療センターに行けば安心出来る」という地域からの信頼が大切だと思っています。懸命に働いている職員の為にも、更に良い病院にしていきたいと思っています。

Voice 

子育てをしながらじっくりとキャリアを積み、後輩に道を示す

⿇酔科 宇都宮 愛 医師

第1子を出産したのは2019年8月です。産休からそのまま育休に入り、子供が1歳の誕生日を迎えたのを機に復職しました。第2子の出産は23年で、やはり1歳の誕生日まで育休を取得しました。

今は復職して1年ですが、時短制度を活用し午後4時頃まで勤務し、子育てとの両立を図っています。当センターでは有給休暇以外にも看護休暇が設けられており、子供の急な体調不良時には優先的に利用しています。院内保育所の保育士も、病院勤務の事情など理解して下さっているので非常に助かっています。又、私自身は該当しませんが、当直勤務が有る場合は、夜間保育にも対応してくれ、心強い存在です。

勤務面では、出産前には放射線を使う様な治療は外れていましたし、現在はオンコールの免除等の配慮を頂いています。又、時短制度は30分単位で2時間まで利用する事が出来、出勤を遅くする事も退勤を早める事も可能な為、今後、子供の成長に合わせて柔軟に制度を利用しながら働き続けたいと思っています。

第1子と第2子の産育休期間、しっかりと家庭に専念する事が出来た事もあり、これからは専門医の取得も目標の1つとしながら、医師として時間を掛けて勉強していきたいと思っています。他の医師よりも多少ゆっくりとしたペースでも、着実にキャリアを積んでいく事が出来れば、後輩が私を見て「出産しても医師として一線で活躍していく事が出来る」と安心してくれるのではないでしょうか。

 

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