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未来の会

次世代へ繋ぐ成育医療で世界をリード
~小児・周産期・女性医療を起点とする生涯の健康支援~

次世代へ繋ぐ成育医療で世界をリード ~小児・周産期・女性医療を起点とする生涯の健康支援~
笠原 群生(かさはら・むれお)
1966年群馬県生まれ。92年群馬大学医学部卒業。99年京都大学移植外科助手。2002年キングス・カレッジ病院(英国)肝移植ユニットクリニカルフェロー。03年京都大学移植外科医長。05年国立成育医療研究センター移植外科医長。11年国立成育医療研究センター臓器移植センター長。16年インドネシア大学教授。17年国立成育医療研究センター特任副院長。18年海南大学(中国)教授。21年湖南大学(中国)客員教授。22年聖マリアンナ医科大学客員教授、ニムズ大学(インド)教授、シズガノフ国立科学外科センター(カザフスタン)名誉教授。22年国立成育医療研究センター病院長(現職)。

国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)は28診療科を備える病院、研究所、臨床研究センターの連携により、小児の希少疾患に対する高度先進医療・周産期医療を主に展開する。Newsweek誌による「Best Specialized Asia Pacific Hospitals 2024」の小児部門では3位を獲得。昨年10月には「女性の健康総合センター」を新設し、女性医療や幅広いライフステージの健康支援にも取り組む。小児生体肝移植の世界的な権威として著名な笠原群生病院長に、同施設の取り組みと将来展望について伺った。


——貴センターの理念、使命、社会的役割についてお聞かせ下さい。

笠原 1965年に発足した国立小児病院が始まりで、2002年に国立大蔵病院と合併し、04年に研究所を開設しました。「病院と研究所が一体となり、健全な次世代を育成するための医療と研究を推進します」を理念とし、小児医療を根幹としながらも、リプロダクションに係る疾患に関わる医療と研究を推進する役割を担ってきました。そういう意味では、女性の一生を支え、更に次の世代に至る迄、非常に広いスパンをカバーしていると言えます。最近では、健康は生涯を通じて形成されるという考え方から、「ライフコースアプローチ」の重要性が高まっています。そうした中で、当センターには予防、治療、リハビリ、介護迄を全て統合し、生涯のあらゆる時点で医療が介入するシステムを社会に実装する役割が有ると思っています。

——重症や希少疾患の小児、ハイリスクな妊産婦への高度専門医療と地域医療とを両立されています。

笠原 研究所と連携し、日本全国からご紹介頂いた患者さんに高度医療を提供しています。一方で、世田谷区医師会や玉川医師会と強力に連携を取り、地域医療にも力を入れています。現在、277の連携医療施設が在り、「診診連携」や「病診連携」には非常に強い病院だと思います。又、少子化により小児医療を縮小している病院が増え、集約化が進んでいる中でも、当センターが担う役割が大きくなっています。現在、一般の入院患者の内、世田谷区民が占める割合は約38%、外来の場合は約42%、救急外来では約70%以上となっていますので、地域に根ざした「24時間365日断らない」病院となっていると思います。

研究・臨床の連携によりES細胞の臨床応用で実績

——併設する研究所と臨床研究センターとの連携や、28診療科の連携体制についてお教え下さい。

笠原 当センターでは、医師以外にも多くの医療者が患者さんに関与し、見守る体制を取っています。元々が小児と女性に特化した病院ですので、皆で力を合わせて様々な角度から手を差し伸べて患者さんを支えています。当センターの病院と研究所を繋ぐ橋が在り、我々はこれを「夢の架け橋」と呼んでいます。この橋を渡って病院から検体を運び、研究所でiPS細胞やES細胞を作製して病院に戻すといったやり取りが行われています。研究所には多くのシーズが有り、我々は希少疾患を扱っていますので、トランスレーショナルリサーチが可能な環境ではありました。臨床研究センターとの連携は、特に小児の治験が少ない事から始まりました。アカデミック臨床研究機関(ARO)として外部の大学や学会の研究支援も行っていますので、幅広く国内に於ける臨床と研究を繋ぐ役割を担っています。診療科間の垣根も低く、病院、研究所、臨床研究センター、女性の健康総合センター全てが連携し、良いチームワークを築けていると思います。

——再生医療の研究と臨床応用の進捗は。

笠原 公式発表は20年の事になりますが、世界初のファースト・イン・ヒューマンとなるES細胞から作製した肝細胞を、先天性代謝異常の小児5名に既に移植しました。通常、先天性代謝異常のお子さんは生後にミルクを飲み始めると直ぐに血中アンモニアが上昇し、神経がダメージを受けて意識障害や痙攣、発達障害等を来たします。ES細胞から作製した肝細胞を移植した事でアンモニアを分解する酵素を産生出来る様になり、現在は5名とも完全無障害で普通の保育園に通っています。iPS細胞の臨床応用についても、京都大学のiPS細胞研究所CiRA(サイラ)とも密にコミュニケーションを取りながら進めているところです。

——手術支援ロボットについては如何ですか?

笠原 今年度、日本の小児病院で初めて手術支援ロボットを導入します。ロボットは圧倒的に視野が良く、人の手よりもよく動きます。特に、小児は体が小さいのでブレが無く正確に動くのが最大の利点です。ボトルシップに例えると、船だけを作れるのが通常の手術、船をボトルの外から作れるのが腹腔鏡手術、ボトルの中に入って船を作る事が出来るのが手術支援ロボットで、それだけ画期的なものです。ロボットが導入されれば、小児外科、小児泌尿器科、小児耳鼻科、移植外科等、全ての診療科が協力して活用が進むでしょう。しかし、現時点では小児医療、周産期医療、療育医療で認められている術式が少なく、当センターとしては小児医療と女性医療でロボットを応用した治療法を確立させ、保険収載に繋げる事がミッションだと考えています。

——どの位の症例数で申請出来るのでしょうか。

笠原 例えば、高度先進医療では5〜10例です。希少疾患は症例を集めるのが難しく、オールジャパンで取り組む必要が有ります。この領域には患者さんの為に何がベストなのかを常に考えている医師が多いので、それも実現可能だと考えます。当センターが礎となり、ここから全国へと広げていきたいと思います。

——これ迄のご実績を踏まえ、小児移植医療の現状と社会的意義について、先生のお考えをお聞かせ下さい。

笠原 海外からもよく指摘を受けますが、日本は未だ生体移植が主体で、脳死による臓器移植が進んでいません。当センターのドナーは9割位が生体で、その殆どは両親からの臓器提供によるものです。臓器移植が開始された当初は、車輪の両輪の様に生体と脳死が同時に進み、何れ生体肝移植は緊急避難的に実施する様になるという見通しだったのが、そのままドナーの善意に甘えてきてしまったというのが現状です。ドナーの合併症もゼロではありませんから、我々も反省しなければならないところです。

——生体移植だけでは限界が有ります。

笠原 心臓移植は生体移植では不可能ですし、例えば遺伝性疾患のお子さんで移植が必要な場合、ご両親が同じ病気又は保因者だとドナーになる事が出来ません。この様に生体移植で救えない命が有る以上、脳死による移植も推進していかなければなりません。その為に、厚生労働省とは臓器提供施設連携体制構築事業を17施設で実施していますし、日本臓器移植ネットワークや日本医師会関連学会とも協同して啓発活動を続けているところです。昨今、臓器提供が有るにも拘わらず、移植施設が多忙な故に移植が出来ないというケースが報じられた事が有りましたが、その点はやはり移植施設に人的・財的な資源を投入していかなければならないと思います。又、欧米では、移植前の臓器を温存する為の体外灌流保存装置が実用化されています。肝臓の場合、摘出後12時間以内の移植が必要ですが、機械で灌流する事により翌朝でも手術を行える様になります。この様な技術は日本でも導入していく必要が有ると思います。


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