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「製薬マネー」がもたらす処方への悪影響

「製薬マネー」がもたらす処方への悪影響

データベースで見えてきた様々な問題点

NPO法人ワセダクロニクルは、探査ジャーナリズムの世界的ネットワークであるGIJN(世界探査ジャーナリズムネットワーク)に日本から唯一加盟しているニュース組織である。

 2018年に公開したマネーデータベース「製薬会社と医師」は大きな注目を集めた。このデータベースはワセダクロニクルとNPO法人医療ガバナンス研究所が共同で調査↘作成したもので、製薬企業から広告塔となる医師達へのお金の流れを明らかにしている。

 そのワセダクロニクルが8月から9月にかけて、早稲田大学で「アリンコの知恵袋」と題した連続講演を行った。様々なテーマがある中、8月31日に行われた第4回が製薬マネーを扱った講演会だった。『その薬、大丈夫ですか?——製薬マネーデータベースで見えてきたもの——』と題して、医師でマネーデータベースの作成にも関わった尾崎章彦氏(公益財団法人ときわ会常磐病院乳腺外科医、医療ガバナンス研究所所員)と、患者の代表として會田昭一郎氏(市民のためのがん治療の会代表)が講演を行った。

見えてきた3つの問題点

 まず、尾崎氏が製薬マネーデータベースの概略を分かりやすく解説した。このデータベースは、日本製薬工業協会(製薬協)に所属している71社(公開当時)の製薬企業を対象としたもので、これらの会社の売り上げで日本の医薬品売り上げの約80%を占めているという。

 対象としたマネーは、講演会の講師謝金、原稿執筆料、コンサルティング料といったもので、2016年にこれらの企業から医療者に支払われたものを拾い上げた。↖

 「その金額を合わせると、全体で約277億円になります。30万人強の医師の3分の1に当たる9万人に渡っており、医師全体の頭数で割ると1人当たり9万円程度でした。一方で、1000万円以上受け取っている医師が100人強いることが明らかになっています」(尾崎氏)。

 こうした製薬マネーが広告塔となる医師に渡ることには3つの問題点がある、と尾崎氏は指摘する。

 1つ目の問題点は、処方に対する影響である。

 「製薬会社が開く講演会は、まさに権威を笠に着たステルスマーケティング。企業のMR(医薬情報担当者)が自分で直接言えばいいことを、えらいドクターに言ってもらっています。講演といっても、実際は製薬企業が伝えてほしいことを話しているのです。それによって、医師の処方が影響を受けると考えられるわけです」(尾崎氏)。

 アメリカの研究などでは、製薬会社からお金が支払われると、たとえそれが2000円程度の食事だったとしても処方に影響することがある、ということが明らかになっているという。日本の医師に支払われている金額からすれば、当然、処方に影響が現れていると考えられるわけだ。

 2つ目の問題点は、本来の業務に対する影響である。

 「1年間で1000万円以上のお金を受け取っている医師が100人強いたのですが、例えば1回の講演料が10万円だとすると、100回くらいやらなければ1000万円になりません。年間50週とすると、だいたい週に2回のペースです。それも常に自分の病院でやるわけではなく、遠くに出掛けていくこともあるでしょう。そうなると、病院を空けることになるわけです」(尾崎氏)。

 多額の製薬マネーをもらっているのは、大学教授などに多い。それで本当に診療・教育・研究などの本来の業務を行えているのか疑問である。

 3つ目の問題点は、医療費に対する影響である。

 「医薬品の価格には、開発費のみならず宣伝費が一部上乗せされているといわれています。製薬企業が宣伝に使っているお金も薬価に影響しているわけです」(尾崎氏)。

 講師謝金などとして医師に支払われた製薬マネーを、製薬企業は宣伝費とは認めないだろうが、やはり薬の価格に上乗せされていると考えて間違いない。薬剤費の高騰が問題となっている現在、製薬マネーが注目を集めるのは当然である。

 その製薬マネーだが、データベースに拾われている講師謝金などの277億円が全てではないという。

 「講師謝金などの他に、講演会の会場費・食費・交通費・宿泊費などをどれだけ支払っているかというと、1200億円以上の経費が計上されています」(尾崎氏)。

 こうした事実からも、製薬マネーの巨大さが分かってくる。ワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所は現在、17年版の製薬マネーデータベースの作成に取り組んでいる。医師だけでなく、研究機関などについても準備を進めているという。

網の目を塞ぐ必要がある

 會田氏が代表を務める「市民のためのがん治療の会」は、04年に設立された患者会である。患者会の中には製薬企業からのお金を受け取っているところもあるようだが、市民のためのがん治療の会は、いっさい受け取ってこなかった。特定の団体や学会、特定の事業者や事業者団体とは特別な関係を持たずに運営してきた患者会だという。

 製薬マネーの問題で患者として最も気になるのは、お金が支払われることで正しい医療が行われなくなり、その被害が患者に及ぶのではないかということである。

 「現在は疾病ごとに診療ガイドラインが作られていて、一般の医師はガイドラインに沿って診療を進めます。そのガイドラインが、製薬マネーの影響を受けたものだったらと考えると怖くなります。そういう意味でも、このデータベースは画期的で、多くの人達が自分の問題として製薬マネーをチェックしていくことが大切だと思います」(會田氏)。

 ただし、データベースの網の目をくぐって、何とか引っかからずにお金の受け渡しをする人達が現れるだろう、と會田氏は指摘する。

 「例えば製薬企業が大学に寄附講座を作り、1講座3000万円とか5000万円とかの金額を寄付し、そこに特任教授を送り込むとします。その特任教授には、寄附講座から給料という形でお金が支払われます。こうすると、製薬マネーデータベースには引っかからずに済むわけです。あるいは団体などを作り、製薬企業はその団体に寄付して、医師は団体からお金を受け取る、という方法もあります。実は資金配分団体ではないのかと思えるような患者会もあります」(會田氏)。

 製薬マネーデータベースが画期的だったことは間違いないが、新たに17年版が作られるのであれば、こうした“網の目を”塞ぐことも考えてほしい。

 ただし、データベース作成には膨大な作業が必要になる。ワセダクロニクルでは、それを可能にするため、活動費の寄付を募集している。

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