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「かかりつけ医」制度化、24年度からの施行を視野

「かかりつけ医」制度化、24年度からの施行を視野

財務省案の「登録制」導入は見送り、日本医師会は安堵

厚生労働省は「かかりつけ医」の制度化を巡り、日常的な医療の提供といったかかりつけ医の役割を法律に明示する方針を打ち出した。患者が希望すれば医療機関と書面でかかりつけ医である事を確認し合う方式とし、財務省等が求めていた、患者が最初に受診する医療機関を事前に決める「登録制」の導入は見送った。

 登録制について日本医師会は「患者のフリーアクセスを制限する」と強く抵抗して来た。それだけに日医は先ずは安堵している。一方、提案を撥ね付けられた格好の財務省だが、ある幹部は「織り込み済み。先ずは楔を打ち込んだ」(幹部)と話し、長期戦の構えでいる。

 かかりつけ医の定義に関しては、医療法の施行規則に「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う」との一文が有る。先ずはこの定義を医療法に明記する事で、法律で担保されたものに格上げする。

 かかりつけ医の具体的役割については、①日常的な病気、怪我に幅広い対応が可能か②休日や夜間の対応③在宅医療にどの程度対応可能か④入退院時の支援の有無⑤他の医療機関や介護施設との連携——等を想定している。休日や夜間対応は地域の複数の医療機関が協力して対応する事を前提としている。

 医療機関はかかりつけ医として果たせる役割を都道府県に報告、都道府県はウェブ上で発信している「医療機能情報提供制度」を拡充した上で報告内容を掲載し、患者がどの医療機関を選べば良いか分かり易い様にする。

 患者は医療機関と書面を交わし、かかりつけ医である事を確認出来る様にする。但し、医療機関側も生活習慣病を抱える等し、病状を継続して把握する事が必要と判断した患者に限って受け付ける。健康な人が「マイドクター」を選ぶ仕組みではなく患者、医療機関双方の自主性に委ねるスタイルだ。厚労省は早ければ来年の通常国会に医療法改正案を提出し、24年度からの施行を視野に入れている。

かかりつけ医議論のそもそもの出発点とは

 にわかに「かかりつけ医」の議論が進んだのは、新型コロナウイルスの感染が疑われる患者が、普段かかっていた医療機関から診療を断られるケースが相次いだ事が切っ掛けだ。厚労省はかかりつけ医の役割を明確化する事を目的に、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の専門部会で議論をスタートさせた。

 日本の医療の大きな課題の1つは、医療機関の役割分担が曖昧なままとなっている点だ。軽微な怪我や病気でも高度な治療が出来る大病院に足を運ぶ患者は多く、大病院の業務を圧迫している。かかりつけ医等の紹介状無しに受診すれば負担が生じる制度は導入されているものの、大病院への患者集中はなかなか改まらない。

 先ずは身近なクリニックが幅広い医学的知見を有するかかりつけ医として責任を持ち、地域の患者を診察する、そして高度な治療を要する患者のみ大病院に繋ぐ役割を担うべきだ——。こうした論点がかかりつけ医議論のそもそもの出発点だった。

 英国では国民にかかりつけ医の登録を義務付ける「家庭医」制度を導入している。病気になった時に直接大病院に行く事は出来ず、先ずは家庭医の判断を仰がねばならない。家庭医は患者の受診回数に拘らず、平均1500人程度の登録患者数に応じて月毎に定額の報酬を受け取るのが基本となっている。

 財務省が思い描くのは、こうした英国の仕組みに準じた制度だ。患者が症状によって異なる医療機関にかかり、重複して検査や投薬を受けるのを防ぎたい、との思惑が有る。更に報酬を定額払いにする事が出来れば医師が無駄な検査や治療をしなくなり、医療費の総額を抑える事が出来ると考えている。

 かかりつけ医を巡る議論は古くから有る。35年前の1987年、旧厚生省の「家庭医に関する懇談会」による報告書が最初だ。同懇談会は「住民に身近な地域密着の家庭医を計画的に育成すべき」と明示し、かかりつけ医を制度化する様求めた。しかし、「医療費抑制策」と捉えた日本医師会は「開業医の選別に繋がる」と猛反発し、結局この構想は消えた。

争点は「登録制」「定額払い」の有無となる

ただ、約20年の時を経て再び蘇る。2年後の2008年度に施行される後期高齢者医療制度を見据え、06年に国民健康保険中央会の「高齢社会における医療報酬体系のあり方に関する研究会」が公表した報告書だ。75歳以上の人はかかりつけ医を選んで登録、かかりつけ医の診療報酬は登録患者数に応じた定額払い(人頭払い)を基本とし、一部出来高払いと併用するとの内容だった。

 明らかに英国の家庭医制度を参考にした仕組みだった。やはり日医は強く反対したものの、厚労省08年度の診療報酬改定で「後期高齢者診療料」という名の定額払いの点数を採り入れた。慢性疾患等を抱える患者が担当医を選び、医師はかかりつけ医として継続して患者の健康管理をして行くという内容だった。

 ただ、後期高齢者診療科という75歳以上の人のみを対象とした報酬とした事が徒となった。「高齢者を安上がりの医療で済ませようとする姥捨て山の発想だ」といった批判が広範に沸き起こり、2年後には廃止に追い込まれた。

 一連の議論を経て、日医は13年、四病院団体協議会と合同でかかりつけ医の機能を提言した。地域の医療機関が連携する形で休日・夜間対応可能な体制を構築している、在宅医療を推進している、といった事を条件とする内容だ。

 日医など医療関係団体が主張するかかりつけ医の機能は、今回厚労省が示した案と大きくは変わらない。又、財務省側にもこうした機能自体に異論は無い。要するに争点は「登録制」「定額払い」の有無に絞られている。

 一度は後期高齢者医療制度に導入された定額払いを復活すべく、財務省は、虎視眈々と機会を見定めて来た。そこへコロナ禍における医療機関の診療拒否問題が起きた。施設の構造やスタッフ不足等で物理的に対応出来ないクリニックも少なくなかったものの、開業医への批判の高まりに乗じ、今年6月に策定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針2002)に「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」との文章を入れ込んだ。

 今回も日医は「かかりつけ医への登録を義務付けたり、割り当てたりする事には反対」「日本の良い医療の伝統を損なう乱暴な議論だ」(松本吉郎会長)等と批判の論陣を張り、「いつでも、自分の好きな医療機関に通う事が出来る」システムの死守に回った。その結果、政府の全世代型社会保障構築会議は医療機関と患者双方の自主性に委ねる「手上げ方式」を提案。厚労省案も同会議の案に沿った誰もが反対しない骨組みに落ち着いた。

 それでも、財務省はコロナ禍で診察拒否が相次いだ教訓を引き合いに、「『いつでも、自分の好きな医療機関に通う』事が出来なかったのが現状だ」(幹部)と指摘している。今回は正面切って定額払いの導入は求めず、「かかりつけ医の制度化」を優先したものの、視線はその先を見据えている。

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