SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

次期年金制度改革に向け社保審議会の議論スタート

次期年金制度改革に向け社保審議会の議論スタート
最大の焦点は基礎年金の底上げ策、検討案には批判も……

2025年の次期年金制度改革に向け、厚生労働相の諮問機関、社会保障審議会年金部会の議論が始まった。最大の焦点は今後給付水準が下がり続け、46年度には今より3割近い下げ幅になる基礎年金の底上げ策だ。厚生労働省は財源として会社員らが加入する厚生年金の報酬比例部分からの持ち出しを増やす案を検討している。

 こうした案に、「会社員が損をする」といった批判も出ている。ただ、厚生年金は国民共通の基礎年金の上に報酬比例部分が乗る2階建て。厚労省は「報酬比例部分は減っても基礎年金が増える為、大半の会社員は差し引きで現行ルールより給付水準がアップする」と説明している。これはウソではないものの、少なくとも既に受給している人の多くには当て嵌まらない。にも拘らず厚労省はこの点に触れていない。

 従来、年金は物価の伸びに合わせて増やしていた。インフレ等による物価上昇に年金の伸びが追い付かないと、年金の実質価値が下がって高齢者の生活が苦しくなる為だ。ところが少子高齢化で年金財政が苦境に陥った事から、04年の年金改革では「マクロ経済スライド」が導入された。年金の伸びを長期間物価上昇分より低く抑え続け、毎年じわじわと年金を減らして行くというものだ。

 当時の試算では厚生年金(報酬比例部分)、基礎年金とも減額を続ける期間(スライド期間)を23年度迄の19年間とすれば財政が安定し、以降はスライド期間終了時点の給付水準を維持出来るとしていた。

 ただ、マクロ経済スライドは物価が上がらないデフレ下では発動させない決まりが有る。近年長く続いたデフレにより、同スライドは殆ど効果を発揮しなかった。この為スライド期間については、19年の検証で報酬比例部分は2年延長して25年度迄、基礎年金は23年延ばして46年度迄減額し続けないと年金財政が持たないと判断され、これが現行ルールになった。

年金制度全体で基礎年金を支える格好となる

 年金財政には事業主と従業員が定率の保険料(給与の18・3%)を折半で支払う厚生年金の財布と、自営業者らが定額の保険料(22年度は月額1万6590円)を払う国民年金の財布、そして国民共通の基礎年金の財布が有る。基礎年金の財布には厚生年金と国民年金の財布からそれぞれ加入者数に応じた金額が投じられる仕組みになっている。

 マクロ経済スライドが十分機能しなかった結果、今の高齢者は予定より高水準の年金を受給しており、その分年金財政は傷んでいる。規模が大きい厚生年金の財布はまだしも、小規模の国民年金の財布は火の車。この煽りで国民年金財政からの支出を受ける基礎年金財政も悪化し、スライド期間を延ばして大幅に減額しないと破綻する事態に陥った。

 現在、基礎年金の月額は満額で約6万5000円。給付水準(現役世代の平均的手取り額に対する給付額の割合)で見ると36・4%になる。これを現行ルール通り46年度迄スライド期間を続ければ、一定の経済成長が実現する場合でも26・5%迄下がる。今より27%減だ。「これでは基礎年金だけの人は生活出来ない」との悲鳴が上がり、基礎年金の底上げ策が次期制度改革の最大の懸案になっている。

 厚労省は基礎年金の底上げ策として、パートらへの厚生年金適用拡大によって「基礎年金だけ」の人を減らす事や、基礎年金の加入期間(現行40年間)を45年に引き延ばす事も検討している。

 ただ、保険料が労使折半の厚生年金を更に適用拡大する案には、事業主負担が増える飲食業界等の反発が強く容易ではない。又基礎年金の加入期間延長には財務省が強く反発している。給付財源の2分の1は国庫負担であり、加入期間を5年延ばして年金が増えるとその分税負担も増えるからだ。厚労省の試算では最終的に1・2兆円程度の税負担が必要と言い、財務省は「先の事とは言え、そんなカネ、どこに有るのか」(幹部)とそっぽを向いている。

 そこで基礎年金のスライド期間を13年繰り上げ33年度迄として減額幅を圧縮する一方、厚生年金の報酬比例部分へのスライド期間は8年延ばして33年度迄とし、双方の調整終了時期を一致させる案が浮上した。報酬比例部分の減額で浮いた分を基礎年金財源に回す等し、基礎年金のスライド期間を短縮させる事を想定している。

 基礎年金が大幅に下がる現行ルールのままでは、基礎年金のみの人が困窮するのは勿論、給与の低い会社員は年金の目減りが大きくなる。給与が低い人は報酬比例部分も低く、年金全体に占める定額給付の基礎年金の割合が大きい為だ。その点、スライド期間を一致させれば全加入者が同じ目減り幅になる。基礎年金を年金制度全体でより強く支える格好になり、所得再分配機能も高まる。財源難の折、改革の方向性としてはやむを得ない内容だろう。

 ただ、厚労省は厚生年金の持ち出しが増える事で「会社員が損をする」と受け止められるのを恐れ、「世帯年収1680万円以上の高所得層以外は現行ルールより給付水準が上がる」といった説明をしている。スライド期間の13年短縮により、現行ルールなら46年度に26・5%迄下がる筈の基礎年金の給付水準(19年度時点で36・4%)を32・9%迄底上げ出来る事を根拠としている。

得をするかの様な厚労省の説明のトリック

但し、これにはトリックが潜んでいる。厚労省が「現行ルールよりアップする」と言っているのは、将来年金をもらい始める現役世代を指している。既に厚生年金を受給している人にとっては、3年後の25年度に終了する筈だったマクロ経済スライドが33年度迄8年延びる事になる。25年度で終われば報酬比例部分の減額幅は3%程度で済むが、8年延びる事で10%程度に拡大する。

 一方、基礎年金はスライド期間を13年短縮(33年度終了)する事で減額幅は10%になり、27%になる現行ルールより縮小する。とは言え、既に受給している人にとっては報酬比例部分の減額が先行する事になる。基礎年金のスライド期間が終わる前に亡くなる人だけでも相当数に及ぶだろう。

 厚労省年金局の担当者は「受給者は今、想定より高い年金を受給しているのだから子や孫世代の為我慢して欲しい」と言う。それでも国としてそうした本音は発信せず、誰もが得をするかの様な説明をしている。更に、「現行ルールよりアップする」例には会社員だった夫と専業主婦の妻というモデル世帯しか示しておらず、夫婦とも厚生年金の世帯、独身の会社員らには言及していない。

 厚生年金も国民年金も加入者数に応じて基礎年金を支える事で、基礎年金を国民共通の制度としている。厚労省は給付を積立金で賄っている部分については加入者数でなく積立金に応じた拠出額に変える事を検討している。そうする事で少しゆとりの有る厚生年金からの拠出を増やし、基礎年金の財政を好転させる意向だ。

 しかし、このスライド終了時期を一致させる案については、既に厚生年金を受給している人達の年金が減る事以外にもハードルが有る。基礎年金の給付財源は2分の1が税金だ。スライド調整期間の一致によって基礎年金を底上げすれば、その分国庫負担も積み増さねばならない。財務省は了解しておらず、現時点では厚労省の「希望」に留まる。同省は基礎年金への加入期間を45年に延ばす案とセットで進めたい意向だが、事は簡単には運びそうにない。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top