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新型コロナワクチンを巡り露呈した「諸問題」

新型コロナワクチンを巡り露呈した「諸問題」
政府見通しも二転三転、安定供給は〝綱渡り〟

新型コロナウイルスワクチンの接種が、一部の医療従事者を皮切りに国内でもようやく始まった。とはいえ、世界各国によるワクチン争奪戦のあおりを受け、一般国民全員への接種に必要な分量をいつ確保出来るのかははっきりしない。政府が公表する見通しも二転三転しており、安定供給に向けた綱渡りが続く。

 2月24日、ワクチンを担当する河野太郎・行政改革担当相は65歳以↘上の高齢者(約3600万人)向けの接種を4月12日から始める方針を明らかにした。2月14日に承認した、米製薬大手、ファイザー社製のワクチンだ。1人につき3週間空けて2回打つ事が承認の前提となっている。

ファイザーから足下を見られた日本

 政府は国内で確保出来るワクチン量を把握出来ず、この直前まで高齢者への接種開始時期を「4月1日以降」と曖昧にしていた。河野氏は「(自治体から)いつまで待つんだ、と声をいただき、(供給)スケジュールを示すデッドラインだろうと思った」として、4月12日から試行的にスタートさせる方針に転じた。

 ワクチンの接種計画に関してはドタバタが続く。国立病院機構など100病院の医師、看護師らを対象として、2月17日に先行接種が始まったものの、当初約370万人と見込んでいた対象者数は土壇場で約480万人に膨れた。だが、「高齢者は4月1日以降」という方針は国民に「4月から」と受け止められていた。自治体は厚生労働省の指示によって3月中旬に高齢者に接種券を送る準備を進めており、半ば「4月中の開始」は公約と化していた。

 これで結果的に、先行接種対象の医療従事者と高齢者は同時並行で進めざるを得なくなった。河野氏は↖

3月12日になって、約5000万人分については6月末までに調達出来るとの見通しを示したものの、政府の基本対処方針は「6月末までに全国民に提供出来る数量の確保を目指す」。依然、高齢者の次の順番とされている基礎疾患のある人、そして一般国民向けの接種時期については示す事が出来ていない。日本医師会の中川俊男会長は2月25日の記者会見で、「自治体でしっかり交通整理しないと、大混乱になる可能性がある」と懸念を示している。

 政府は接種が他国より大幅に遅れている理由として、欧米より感染者数が少なく、日本人対象の治験に時間を要する、と説明してきた。だが、それだけではない。政府とファイザー社間の「6月までに1億2000万回分(6000万人分)を提供する」という当初の基本合意は、接種が迫った1月の段階の正式契約では「年内に1億4400万回分(7200万人分)」に変わり、時期が半年ずれ込んだ。

 背景には、厚労省がファイザー側と当初結んだ合意に、数量や供給時期を確約する文言を盛り込めなかった事がある。売り手が圧倒的に有利な中、交渉材料に乏しい日本側がファイザーから足下を見られた格好だ。

 政府は英国製薬大手のアストラゼネカとも1億2000万回分の提供を受ける事で合意しており、うち3000万回分は3月に間に合わせるとしている。ただ、同社が日本での承認を申請したのは2月5日の事だ。ファイザー社製が申請から承認までに約2カ月要した事を踏まえると、3月中の供給開始は微妙なところ。

 他にも日本は米モデルナ社とも5000万回分の提供を受ける事で合意しており、モデルナ製の国内流通を請け負う武田薬品工業は今年前半に供給を開始出来るとの見通しを示している。それでも同社は、1月にようやく日本での治験を開始した段階だ。

 曖昧な供給スケジュールは自治体を悩ませている。先行実施分に関しては都道府県は配分先を国から委ねられており、コロナ陽性者と接する機会が多い医療機関への優先配分を検討しているところが多い。代表的なのは3月1〜2週で約7万回分の割り当てを受けた大阪府。大阪市内1カ所に一旦集約した上で、対象病院に配送する「大阪モデル」を謳う。

 ただ、市町村の中にはまだ医師や看護師らを十分確保出来ないところも少なくない。神奈川県内のある市では「医療従事者と高齢者の接種時期が重なるなら、医師らの確保が大変だ。ある程度先までの供給量・時期がはっきりしなければ予定が立てられない」との悲鳴が挙がる。4月分の割り当てではごく一部の高齢者しか接種出来ないといい、担当者は「あまりの少なさに愕然とした。接種を先にする人としない人の線引きが悩ましい」と漏らす。

まだあるワクチンを巡る「落とし穴」

 世界各国が自国分の確保に躍起になる中、欧州連合(EU)が域内で生産されたワクチンの輸出規制に踏み切った事も懸念材料だ。日本向けの生産拠点を欧州に置くファイザーも日本に空輸する際、飛行機1便ごとにEUの承認を得ている。

 政府の担当者は「品不足は4月が山場で、そう長くは続かない」と自信を示すが、不安材料である事は確かだ。また、日本では接種が始まろうとしていた矢先に、国内で普及している注射器ではファイザー製のワクチン1瓶(6回分)で5回分しか使えない事も分かった。政府はメーカーに6回分とれる注射器の増産を働き掛けているが、供給計画に影響する事は避けられない。

 ワクチン切れの懸念が拭えないとあって、自民党を中心に2回必要とされている接種を1回に減らす案まで浮上してきた。ファイザー社製については、1回の接種でも一定の効果がある、との海外のデータがあり、それを根拠にしている。「数が足りない以上、広く1回接種した方が公平では」との声も党内にはある。

 これに対し、政府は2回の接種を前提に薬事承認されている事や、当該の海外データは厳密な治験に基づくものではない事を挙げて、慎重な姿勢を崩していない。河野氏も「2回接種で準備している」と否定している。

 今のところ、日本では接種を受けた後に死亡した人はいない他、欧米よりアナフィラキシーの発症割合が高いとの指摘もあるものの、重篤な副反応はみられていない。ただし、ノルウェーでは接種した高齢者が多数死亡する事例も起きている。ワクチンとの因果関係は分かっていないが、厚労省の専門部会では、個別に接種の有益性を判断するよう求める声もあった。

 菅義偉政権がワクチンに前のめりなのは、今年秋までに衆院選を控える中、国民にコロナ禍を収束させる期待を抱かせ、低迷する支持率回復に向けた最強の材料とみている事がある。だが、一体いつ、希望する人が全員接種を終えられるのか、まるで分からないのが現状だ。安倍晋三政権時代の閣僚経験者は「ワクチンには、まだまだ落とし穴がたくさんある。吉と出るか凶と出るか、まだ分からん」と話す。

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