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「被害者救済法」巡り「手柄争い」新法作成の舞台裏

「被害者救済法」巡り「手柄争い」新法作成の舞台裏
名ばかりの被害者救済法「実効性が乏しい」と批判の声

昨年の臨時国会で最重要法案と位置付けられた、通称「被害者救済新法」。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題に端を発してまとめられたのだが、不当な寄付勧誘行為を規制するだけで被害者救済とは名ばかり。関係者からは「実効性が乏しい」と批判されている。ただ、こんな法案でも岸田文雄・首相と「ポスト岸田」の最有力候補と目される河野太郎・消費者担当相との「手柄争い」の道具にされたという。最終盤には茂木敏充・自民党幹事長も「参戦」した新法作成の舞台裏から透けて見えたものとは——。

 世論の厳しい批判が旧統一教会問題に向けられている事をいち早く汲み取ったのは、昨年8月10日の内閣改造で消費者担当相に就任し、総裁選で争った首相のライバル、河野氏だった。河野氏は新法の土台になった報告書をまとめた有識者検討会のメンバーに、旧統一教会批判の急先鋒である紀藤正樹・弁護士と、国民民主党の衆院議員だった菅野志桜里・弁護士の起用をトップダウンで決める等、霞が関では選べない様な人選を断行した。大手紙記者は「宗教法人法の見直しに迄言及する等、この2人が検討会の議論を主導したのは間違い無い」と明かす。

 報告書では、法人格を剥奪する解散命令請求を視野に入れて調査する様求め、法制度の見直しでは寄付に関する新規制の導入等を提言。具体的には、壺や印鑑等を法外な値段で売り付ける霊感商法対策では不当な勧誘によって契約してしまった場合の消費者契約法の取り消し権の要件緩和や、マインドコントロールから抜け出して被害を認識するには時間を要する事から、取り消し権が行使出来る期間を現行の5年から延長すべきと主張。合理的な判断が出来ない状況での寄付の要求行為を念頭に、禁止規範を設ける様求め、違反した場合の取り消しや無効を規定するよう検討を提言する等、旧統一教会に厳しい内容で踏み込んだものになった。

首相と河野氏の間で手柄争いの「暗闘」

 河野氏は検討会に毎回欠かさず出席し、官僚任せにしない姿勢を明確にした。この結果、報告書の中身は、被害者救済新法と呼ばれる「法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律」や「消費者契約法」の素地になった。

 しかし、河野氏のこの動きに警戒したのが首相官邸だ。昨年10月17日に公表された報告書の段取りを巡り、河野氏が思い描くスケジュールに「横やり」を入れた。当初、河野氏が報告書を事前に公表する段取りだったが、首相が「待った」を掛けたのだ。報告書に旧統一教会への調査を求める記述が有った為で、首相として自ら調査を指示する前に河野氏が報告書を大々的に公表する事を許さなかったからだ。

  最終的に、首相が調査を永岡桂子・文科相に指示するとほぼ同時に、消費者庁が報告書をホームページに公表するという運びに落ち着いたのだ。消費者庁関係者は「公表の数日前から首相が河野氏を官邸に呼び出す等2人の間で暗闘が有った。正に手柄争いをしている様だった」と振り返る。

新法の立法課程は異例の展開を辿る

 だが、これはまだ序ノ口に過ぎない。新法の立法過程は、異例の展開を辿る。通常、政府が提出する法案は有識者で構成する各省庁の審議会や検討会で法案の要綱を定めるのだが、今回は与野党の議員による協議会で法案の内容を仕上げたからだ。河野氏の手から新法が取り上げられた格好だ。

 10月21日に始まった与野党協議の初会合に集まったのは5人の衆院議員。自民党からは若宮健嗣・前消費者担当相、宮崎政久・元法務政務官の2人。公明党は大口善徳・政調会長代理、立憲民主党が長妻昭・政調会長、日本維新の会は音喜多駿・政調会長がそれぞれ参加した。永田町を取材する政治部の記者は「自民党の若宮氏と宮崎氏はいずれも茂木派。特に弁護士資格を持つ宮崎氏が与党側の実務者として中心的な役割を果たしていた。その宮崎氏は茂木幹事長に日参し、逐次報告や指示を受けていた。つまり、この時点で茂木幹事長が主導権を握ろうとしていたのは明白だった」と解説する。

新法の内容は「無いよりまし程度」との指摘

法案のイニシアティブは、河野氏→首相→茂木氏に移った様に見える。当時、政府・与党として新法を臨時国会で成立させるのか否かが問われ始めた。茂木氏を含め、政府・与党内では臨時国会は新法提出迄で、新法の成立は今年1月に開かれる通常国会で致し方ない、と考えていたと見られる。事実、昨年11月1日の与野党協議の会合で、与党側は新法成立の先送りと採られ兼ねない考えを伝えていたという。こうした方針が伝えられると、世論の猛反発を招き、方針転換を余儀無くされた。

 腰の定まらない状況でまとめられた新法は、とにかく実効性に乏しいと評判が悪い。新法では個人から法人や団体への寄付を規制の対象とし、6類型の禁止規定を設けている。類型の1つに、霊感の知見を使って不安を煽り、本人や家族の不利益を回避するには寄付が必要不可欠であると告げる事が含まれている。ただ、この「必要不可欠」という文言が有る為に、野党等から「対象が狭すぎる」と批判を浴びた。寄付を求める法人に、個人の自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状態に陥らせない様にする等配慮義務を課したが、あくまで配慮なので禁止されていない。更に、高額な寄付で「宗教2世」と呼ばれる信者を親に持つ子供など家族が貧困に陥っているケースが多い事から、扶養されている子供や配偶者についても寄付した本人に代わって返還を求める事を可能とした。だが、将来受け取るべき分も含めた婚姻費用や養育費など扶養の範囲内に限られ、億単位という高額献金の極々一部しか取り戻す事は出来ない。

 法案の概要は茂木氏がわざわざぶら下がり取材を設定して明らかにし、「手柄」を演出したが、その後の国会審議で矢面に立ったのは首相だった。共産党など野党議員からは条文の解釈や具体的な適用範囲を確かめる質問が矢継ぎ早に繰り出された。例えば、「教義は信じているが高額の寄付を後悔したら取り消せるのか」等というものだったが、首相は単に条文を読み上げるだけ。聞いた人が分かる様な答弁は皆無に等しかった。挙げ句の果てには、マインドコントロールによる寄付なら「多くの場合、不安を抱いている事に乗じて勧誘されており、取り消し権の対象となる」と答弁する等、やや正確性を欠くと思われるものも散見された。

 担当大臣の河野氏は拍車を掛けて酷い有様だ。答弁は早口で野党議員からも「早過ぎて聞き取れない」と不満が漏れる程だ。国会での審議を取材していた大手紙記者は「河野大臣の態度はとても酷く、誠実さに欠けるものだった。やる気が有るとはとても思えず、当事者という意識が無かった」と酷評する。

 こうした状況下で成立した新法は、全国霊感商法対策弁護士連絡会から「無いよりましという程度の内容で、救済の幅が広がったと到底言えない。早急な見直しが必要だ」と指摘されてしまう程。「悲劇のヒロイン」としてマスコミで連日取り上げられた元2世信者の小川さゆりさん(活動名)が国会に参考人として出席した際、「来年の国会で子供の宗教的虐待を防ぐ法律の成立をお願いしたい」と早速、宿題を課されてしまった。

 新法の立法過程を巡って繰り広げられた水面下での「暗闘」。イニシアティブは首相、河野氏、茂木氏の3者で激しく移り変わり、最終的に首相が握った形になったものの、内閣支持率の浮上には繋がらず「不発」に終わった。一番の被害者は期待をするだけして振り回された、宗教2世ら当事者かも知れない。「手柄」の獲得ばかりに走った3人の犯した「罪」は重いと言うべきか。

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