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無痛分娩「医療ミス」で問われる産婦人科医会の対応

無痛分娩「医療ミス」で問われる産婦人科医会の対応
刑事防ぐ」か「監社会化か

痛分娩を巡って、関西を中心に「医療ミス」を問われる事態が相次いで報道されている。お産にリスクは付きものだが、こうも騒ぎになると国や学会も乗り出さざるを得なくなる。だが、本当に無痛分娩は危険なのか。開業医を中心とした産婦人科医の集まりである日本産婦人科医会(以下、医会)はこの事態を重くみて、緊急提言や調査を矢継ぎ早に繰り出している。しか し、こうした医会の動きには警戒論も出ている。

 これまでに各紙の報道で分かっている全国の分娩取り扱い医療機関での無痛分娩に伴う事故は、4カ所5件ある。最も古いのは、京都府京田辺市の「ふるき産婦人科」で、2011年4月。無痛分娩を選び、その後帝王切開となった女性の子供が重い障害を負った。子供は3歳で死亡したという。ふるき産婦人科では、12年11月にも無痛分娩の麻酔を受けた女性の容体が急変し、搬送先で帝王切開を受けるも母子ともに重い障害が残った。

 15年8月には神戸市中央区の「母と子の上田病院」で無痛分娩をした女性が大量出血し搬送されるも、約1年後に死亡。17年1月には、大阪府和泉市の「老木レディスクリニック」で無痛分娩を受けた女性が搬送先の病院で約10日後に死亡した。

 さらに、15年9月に神戸市西区の「おかざきマタニティクリニック」で無痛分娩を受けた女性が麻酔直後に体調が悪化、搬送先の病院で帝王切開で生まれた子供とともに重い障害を負い、後に女性が死亡していたことも分かった。女性の夫は塩崎恭久・厚生労働相と医会、日本産科婦人科学会、日本産科麻酔学会に宛てて無痛分娩の実態調査や医療体制の充実を訴える要望書を出すなど、被害を積極的に公表。ふるき産婦人科で無痛分娩を受け重い障害を負った女性の家族も同様だ。

 女性はロシア人で、母親はロシアで医師をしている。その母が報道機関に手記を寄せ、「医師が1人の病院で出産をするのは危険過ぎる」と警鐘を鳴らしたのだ。ロシアと日本では医療体制が異なり、単純な比較は出来ないが、この母親の手記は広く読まれ、「国民の間に、医師1人の医療機関で出産をするのは危ないという認識が広まっている」(全国紙記者)という。

大阪では業務上過失致死事件に

 捜査機関も動いている。老木レディスクリニックの事案は、大阪府警が業務上過失致死の容疑で書類送検すると伝えられ、母と子の上田病院の事案も、遺族が刑事告訴したことが伝えられている。医会の幹部は「我々の記憶には、産科医が逮捕された福島県立大野病院の事件が鮮明に残っている。不幸な結果に終わったことは残念だが、医療現場に刑事介入を許していては、医療は崩壊する」と危機感を強める。

 ただ、刑事介入を防ぐには作戦が必要だ。そもそも、お産にはリスクが付きまとう。日本は世界一、妊婦死亡率が低い国だが、21世紀の現代でもお産が命懸けであることに変わりはない。だが、産科麻酔に詳しい麻酔科医は「無痛分娩や麻酔を危険視するのは間違っている。正しい方法で行えば、無痛分娩は妊婦に大きなメリットがある」と強調する。まずは無痛分娩中の事故の正確な数値を示し、自然分娩に比べリスクが高いのかどうか、調べる必要がある。

 出産時の痛みを和らげることで産後の回復が早くなる無痛分娩は、高齢出産が増えた日本には朗報だ。欧米では広く行われており、安全性についても一定の知見がある。一般的に高齢出産ではトラブルが多くなるが、前述の5件の無痛分娩では妊婦の多くは30代前半。初産年齢が30歳を超えた現代からすれば平均的な妊婦と言えるだろう。

麻酔から分娩まで1人の「綱渡り医療」

 患者の数だけ異なる結果が起こり得る医療では、過失が無くても不幸な結果となることがある。では、事故はたまたま起きた不幸な出来事だったのか。そうとも言えないと専門家は語る。

 「ふるき産婦人科」のホームページ(現在は閉鎖)などには、無痛分娩に24時間対応することが謳われていた。ある麻酔科医はこれに驚いてこう語る。「陣痛を待ってから無痛分娩をしていると、いつお産が始まるか分からないから、医師は24時間対応する必要がある。麻酔科医を24時間待機させることは難しく、大規模な病院でない限り24時間対応は無理だろう」。

 ふるき産婦人科で無痛分娩の硬膜外麻酔をしていたのは院長1人だった。そして、この院長は診療報酬の不正請求に絡み、医師会を除名になった人物。医会の関係者は「京都の産婦人科医らは、院長の存在は知っていても、会ったことがある人はほとんどいなかったようだ」と明かす。院長が大々的に宣伝していた24時間対応の無痛分娩は、1人で麻酔から分娩までに対応する綱渡りの医療であり、周囲からも医院の中のことはほとんど知られていなかった。

 実は、今回の無痛分娩の相次ぐ事故報道にもっとも戸惑っていたのは、当の医会だった。医会には妊産婦の死亡事例の報告を受け内容を分析する独自の「妊産婦死亡評価委員会」があるが、一連の事故はいずれも報告されていなかったからだ。「報道が次々に出て、我々は記事を元に事実確認を進めていった」と医会幹部は明かす。

 お産の事故を巡っては、分娩に関連して重い脳性麻痺となった子供と家族が対象の「産科無過失補償制度」もあるが、ここで行った原因分析や再発防止の報告書は目的外に使用出来ない。「結局、医会の医療安全部では無痛分娩に関する情報が集められていなかったということ。こうしたことで良いのか、事故を把握する方法が無いのかを、今検証している」と医会関係者は明かす。

 医会が妊産婦の死亡や重大な事案を報告させ、改善に向けた検証をするのは、刑事介入を避けたい思惑があるためだ。いわゆる「性善説」に基づいた自助努力である。ただ、医会と距離がある医師にはその意図は伝わらず、締め付けを厳しくすれば、かえって改善に向けた提言や指導を避ける結果になりかねない。

 医会の関係者は「小さなエリアであれば、近所の医療機関に悪い噂が立ったら、地元医会は把握出来ると思う。そこでキャッチ出来るのが理想だ」と語るが、それでは性善説ではなく〝監視社会〟になってしまう。

 さらに、全国紙記者によると、医会は無痛分娩に必要な条件やスキルを挙げ、無痛分娩の安全性を担保するための認定制度を検討しているという。「会員から反対の声が多いだろうから、実際に実施されるかは不明だ」(記者)というが、医会が社会から求められる安全なお産にどう関わっていくかを模索中であることは間違いない。厚労省も、無痛分娩の安全性について、医会にしっかりした対応を求めたという。

 大野病院事件に端を発した医療崩壊からようやく立ち直りつつある昨今だが、医療事故訴訟は再び増加傾向にある。あの医療不信の時代がまた訪れるのか。産婦人科医会の動きに、医療界が注目している。

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