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在日米軍駐留経費「4倍増」に首相はどう応えるか

在日米軍駐留経費「4倍増」に首相はどう応えるか
既に毎年約8000億円の予算を在日米軍に〝献上〟

この1月に、米国で『とても安定した天才』(A Very Stable Genius)という、変わったタイトルの本が出版された。副題が「ドナルド・トランプの米国に対するテスト」(Donald J.Trumpʼs Testing of America)とあり、主にトランプ大統領と国防総省や統合参謀本部との政権内部の確執が克明に綴られている。特に内部告発者が違法を覚悟で録音記録を公開でもしない限り絶対に書けないような内容が盛り込まれており、米国政治の第一級の資料価値がある。

 そこにトランプが17年12月、ホワイトハウスの会議室で軍高官や主要閣僚を相手にまくしたてた顛末が暴露されている。トランプは「米国が兵力を派遣している全ての国々は、米国に支払いを始める必要がある。利益を出す必要がある」「カネを取り戻す必要があるんだよ」と述べたという。

 生き馬の目を抜くようなニューヨークの不動産業界で稀有な勝ち組として残ったトランプだが、このように軍事の世界は全く無知のようだ。それでも米軍を駐留させている国から「利益」を出したり、「カネを取り戻す」というトランプの発想から、日本が対象外になるはずがない。『朝日新聞』1月26日付(電子版)は、以下のように報じている。

 「2021年度から5年間の米軍駐留経費の日本側の負担額を決める日米協議について、スティルウェル国務次官補は24日、ワシントンで行われた講演で『我々は地域の安全保障情勢が5年前や10年前とは全く異なるという事実を考慮しなければいけない』と述べ、日本に対して負担の増額を要求する考えを示した」

 既に米外交誌『フォーリン・ポリシー』(電子版)は19年11月15日号で、同年7月に当時のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とマシュー・ポッティンガー国家安全保障会議アジア担当上級部長が来日した際、日本側に「在日米軍駐留経費の大幅増額を負担するよう求めた」と報じている。現段階で日米間の公式な協議事項にはなっていない模様だが、前出の『朝日』記事によると、スティルウェル国務次官補は「現在行われている韓国との交渉から学ぶべきところはあると思う」と語ったという。

米軍兵士の給与払っても超過する金額

 米国は昨年来、韓国に駐留米軍の負担額を実に5倍以上の約50億㌦にするよう要求し、これに応じない韓国との間で交渉が難航中。在韓米軍も在日米軍も共にハワイに本部がある米軍のインド太平洋軍の指揮下にあるが、『フォーリン・ポリシー』によれば、米国側が日本に要求したのは現行の在日米軍駐留経費の約20億㌦を約80億㌦にするという内容で、こちらは4倍だ。

 安倍晋三政権はこれまで、米国のこうした要求の動きに対し対応を明確にしてはいないが、一方で、他の主要メディアにまして「日米同盟」とやらに入れ込んでいる風の『日経』ですら、この1月30日付のオピニオン2面で「防衛省の試算によると、駐留経費の日本の負担は既に8割を超える」と指摘。「さらに増やすとすれば、『米軍兵士の給料を払うくらいしかない。それでは日本の傭兵のようになってしまう』(日本の安保担当者)」から、米国側の要求は「物理的に無理な話である」と主張している。

 だが、仮に「物理的に無理」だとしても、安倍程度の頭の持ち主には通じまい。国会で例の「桜を見る会」問題で追及されて「幅広く募っているという認識だった。募集しているという認識ではなかった」といった珍答弁しか出来ない安倍の事だ。「駐留経費を増やしたが増額ではない」くらいの発言をしかねない。

 前出の約20億㌦という数字は、19年度の米軍基地従業員の給与や米兵の住宅・娯楽施設の建設及び維持費等を盛り込んだ「思いやり予算」の1974億円にほぼ相当する。米側はそれを4倍にしろと言うから7896億円に跳ね上がるが、それこそ「米軍兵士の給料」を全額払って100%米軍駐留経費を日本が負担したとしても大幅に超過する額だ。すると、この超過分はいったいどのような名義になるのか。

思いやり予算とは別に年5930億円

 しかも、米国側担当者が知ってか知らずか日本は「思いやり予算」に加え、別の巨額の予算を在日米軍に献上している。例えば、19年度予算の例では①沖縄・辺野古米軍新基地建設等の「米軍再編関係経費」1679億円②沖縄米軍基地関連の「SACO」(沖縄に関する特別行動委員会)経費256億円③基地周辺対策費や米軍用地借り上げ料、漁業補償費等の3993憶円が計上され、「思いやり予算」と合算すると総額7902億円に達する。過去最大となった前年度の8022億円に次ぐ予算規模で、米国側が要求する「思いやり予算」4倍増の7896億円すら上回っているのだ。

 60年前の日米安保条約改定に伴って結ばれた、在日米軍に対する日本国内での権限を定めた日米地位協定の第24条では、「日本国に合衆国軍隊を維持することに伴う全ての経費」を「日本国に負担をかけないで合衆国が負担する」と定めてある。この趣旨からすれば、「思いやり予算」のみならず①②とも予算上の法的根拠は存在しない。

 こんな無理筋が延々とまかり通ってきているのも、『日経』を始めとする主要メディアが「思いやり予算」の廃止を含む米軍関連支出の見直しについて、ほとんど追及してこなかったからだろう。しかも額面上、全額「米軍兵士の給料を払う」事態にすらなっても、絶対に米軍が「日本の傭兵」にならないのが対米従属の対米従属たる所以である構造すら、『日経』はまるで理解していないようだ。

 現行の「思いやり予算」の名義上の裏付けである「特別協定」は2021年3月に期限切れとなり、その延長交渉が今年から始まる。そこでは、日本の「防衛」にカネを出しているのだから「カネを取り戻す」というトランプの流儀により、米国側が韓国に対してと同様の姿勢に出てくるのはまず間違いない。安倍がどう対応するか見ものだが、本人は歴代首相の中でも対米従属の姿勢が露骨だった中曽根康弘や小泉純一郎以上に、卑屈なまでの米国への媚売りを常とする。トランプに「ノー」と言ったためしなどないから、予測は案外、容易かもしれない。

 それでも、トランプが何も言わなくとも毎年8000億円近い予算が在日米軍に貢ぐだけの目的で支出されるのは変わらない。10年で約8兆円もの規模だ。安倍は年金を自動削減する「マクロ経済スライド」で、2043年までに基礎年金(国民年金)を約7兆円程度削減する腹積もりだ。高齢者には命綱の年金が、さらに削減されていく。加えて、安倍政権が13年以降の約6年間で削減した社会保障費の総額は約3・9兆円に達するが、それを考えたら有権者は、自分の税金の使い途ぐらいもっと関心を持っていいはずなのだが……。 (敬称略)

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