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未来の会

日医の「強制加入組織化」、実現には問題山積み

日医の「強制加入組織化」、実現には問題山積み

高度な自律性確保する〝透明性ある組織運営〟が不可欠

 「医師になろうとする者は、医師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない」

 医師全般の職務・資格などを規定する医師法の第2条にあるように、日本国内で医師として活動するためには厚労相から医師免許の交付を受けなければならないが、ドイツなどとは異なり、日本医師会(日医)といった医師組織への加入は強制されていない。この結果、約32万人いる医師のうち、日医の会員は約17万人と全医師の5割強にとどまっており、日本では「医師の自律」の問題が常に付きまとう。

 医師免許の有無が医師の活動を左右する以上、医師の身分は必然的に厚労省の管理下に置かれる。厚労省は、医師免許の交付とともに、医療に関する不正、医師としての品位を損なう行為などがあった場合、医師法第7条に基づき、医道審議会(厚労相の諮問機関)の意見を聞いた上で、免許取り消しや期間を定めた医業の停止を命じられる。

 今年6月には、厚労省が、わいせつ事件で有罪判決が確定した滋賀県の歯科医師1人の歯科医師免許を取り消すとともに、他の刑事事件で有罪判決が確定するなどした医師や歯科医師計12人を業務停止1カ月〜3年、計3人を戒告とする行政処分を決定した。他に4人を厳重注意としている。

医師処分に自律性発揮できない日医

 これらの処分を実質的に決定するのは年に数回、非公開で開かれる医道審議会の医道分科会だ。医道分科会には日医会長や日本歯科医師会(日歯)会長も加わる。ただ、あくまでも両会長は学識経験者ら9人の委員の中の一メンバーにすぎず、医師組織として日医や日歯が自律性を発揮しているとは言い難い。独自調査は行わないため、基本的には刑事処分の後追いにとどまっている。行政処分の数も少なく、法律の専門家からは「刑事処分を受けた以外のケースを対象にするには分科会の体制が貧弱すぎるため、ミスを繰り返す『リピーター医師』などの問題医師を温存することに繋がっている」との指摘も出ている。

 2015年10月にスタートした医療事故調査制度は医師の責任追及が目的ではなく、事故の再発防止に主眼が置かれたが、これも「医療現場に不当な司法介入を許さず、医療側が自律的に解決する」(日医幹部)という建前からだ。その割には厚労省が指定する第三者機関「日本医療安全調査機構」への医療機関からの事故届け出は想定よりも少なく〝身内への甘さ〟が見え隠れする。こうした生ぬるい現状が続けば、いずれ医師免許の更新制の導入といった厚労省の管理強化を招くことに繋がりかねない。

 その解決策の1つが、医師による最大組織である日医を医師の強制加入組織とする案だ。戦前の日医は、医薬分業を求める日本薬剤師会に対抗するため、大正時代に勤務医を含めた強制加入組織となったが、戦後、組織の民主化を求める連合国軍総司令部(GHQ)の指示で任意加入組織へ移行。その後、開業医を中心とした業界団体として発展した経緯がある。再び強制加入組織となれば、行政から自立して、医師の質向上や労働環境の改善などに責任を持って取り組むことが期待できる。

 参考になるのは、強制加入組織である日本弁護士連合会(日弁連)だ。日弁連は弁護士法に基づき設立され、完全な自治権で各地にある52の単位弁護士会や弁護士らの指導・監督などを行う。弁護士個人は単位弁護士会を通じて日弁連の弁護士名簿に登録されなければ、司法試験に合格していても法律業務ができない。入会者の資格審査や登録手続きは日弁連自身が行う仕組みとなっている。

 弁護士は「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」(弁護士法第1条)ことを目標とし、いかなる権力にも屈することなく、自由独立でないといけないとされている。戦前は国に監督権限があったが、戦後に弁護士自治を実現し、会員に不祥事が生じた場合は日弁連自身が懲戒、指導監督するという自律のシステムを確立した。

 懲戒の種類には戒告、2年以内の業務停止、退会命令、除名の4つがあり、懲戒請求に基づき単位弁護士会の綱紀委員会や懲戒委員会が調査・審査を行う。18年の単位弁護士会の懲戒処分数は88件に上る。弁護士数は約4万人で、全体の人数に対する処分者の割合を医師と比較すると、かなり多めの数字となる。日弁連は自律性が一定程度機能しているといえるだろう。

独立性の高さは独善にも繋がる

 ただ、独立性の高さは独善に繋がる危険性もある。日弁連の執行部は、集団的自衛権の行使を限定的に容認する安全保障法制や原発政策、憲法改正などを巡り安倍晋三政権への反対姿勢を明確に打ち出している。これに対し、日弁連内からは「強制加入にもかかわらず、会員の様々な思想・信条を無視して、政治的中立を破ってもいいのか」といった意見も少なくない。日弁連関係者によると、弁護士会活動に熱心な会員に左派系が多く、会長を含め執行部入りするためには革新的な政策を主張しなければならないという事情があるといい、組織内の論理が優先し、世論の趨勢と乖離することが目立っている。

 これは日医が強制加入組織となる場合にも十分想定される事態だ。「ケンカ太郎」と呼ばれた武見太郎会長の時代、日医は診療報酬の引き上げを求めて日歯とともに全国一斉休診を行うなど患者無視の政治闘争を繰り広げた。同様の行為を強制加入組織となった日医が実行するとしたら、全国の全ての医療機関が休診することにもなりかねず、国民の生命を危機に陥れるのは間違いない。

 このように日医の強制加入組織化にはメリットとデメリットがある。実効力のある形で実現するには、高度な自律を確保するため透明性のある組織運営が欠かせない。現在の横倉義武会長は持ち前のバランス感覚で連続4期にわたり安定的に執行部を運営し、世界医師会長にも就任。

 こうした体制ならば強制組織化も可能だが、以前の日医は会長選を巡り各都道府県医師会が勢力争いを繰り広げるのが常で、いつまた元の日医に戻るかは分からない。「強制加入組織になると、会員数が増えて意見集約が大変。厚労省の庇護の下、今のなあなあのままでいい」(日医スタッフ)というのが日医の大勢の本音だ。

 かつて武見会長は、医師の自律性を「プロフェッショナル・フリーダム」と呼んだが、「行政に干渉されたくない」というエゴイズムを表しているとも評価された。医師全体が「欲張り村の村長」などと揶揄されるようなエゴイズムを排して、専門性を持った職業人として「プロフェッショナル・オートノミー(自律性)」を果たしていけば、強制加入組織化にも道が開けてくる。社会保障費の膨張に国民の目も厳しくなる中、日医は独善を排して信頼感のある組織として存続できるかが問われている。

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