非弁膜症性心房細動の血栓症予防のために、直接型経口抗凝固剤(DOAC)が多用されているが、薬のチェックでは88号1)で、詳しく検討し、DOACの有用性は証明されておらず、現在もなお、ワルファリンが標準薬剤であることを報告した。また、ワルファリンの至適INRとして一般に普及している2.0〜3.0は過剰であり、出血の害が大きい。至適INRは、1.5〜2.2とすべきことも併せて強調した。
特に抗リン脂質抗体症候群(APS)へのDOACの使用は、ワルファリンに比較して血栓だけでなく出血まで増やす。薬のチェック91号2)の記事の概略を紹介する。
欧州の規制勧告と日本の甘い紹介
英仏当局は、2018年公表のランダム化比較試験(RCT)3)をもとに2019年に以下の規制を行った。
(1)血栓症の既往歴があり、高リスクのAPS患者にはDOACを開始しないように。
(2)DOACを使用中の患者には、ワルファリンへの変更を考慮すること。
しかし、日本では、2020年2月に添付文書の「その他の注意」に、海外の臨床試験で、「血栓塞栓性イベントの再発が、ワルファリン群61例では認められなかったのに対し、本剤群では59例中7例に認められた」と、日本においては起こっていないかのような注意しか記されていない。
RCTでは血栓+出血+死亡がワルファリンの7倍
欧州における規制の根拠は、血栓症の既往と3種の抗リン脂質抗体陽性の高リスクAPS患者を対象にリバーロキサバン(R群:59人)とワルファリン(W群:61人)を比較した非遮蔽RCTである3)。
血栓は動脈・静脈合わせてW群0人対R群8人、死亡例はW群0人、R群1人、大出血例W群2人、R群4人。ワルファリンの目標INRは2〜3なので、薬のチェック1)で勧める1.5〜2.2ならW群の出血はもっと少なかっただろう。
血栓+出血+症例はW群2人(3%)対R群13人(22%)、粗オッズ比で8.3(p=0.002)、調整ハザード比7.4(p=0.008)であった。
ワルファリンの12倍の血栓:日本でも報告
Satoら4)は、血栓症発症までの期間を2種類の方法で比較。W群に比較してDOAC使用群で危険度がそれぞれ12.1倍(p=0.01)、11.9倍(p=0.0005)であったと報告している。また、血栓症だけでなく、出血(大出血ないし臨床的に重要な出血)も3.6倍増えていた、との報告も別にある。
2020年半ばを過ぎた現時点で、リバーロキサバンのRCTと、それ以外のDOACを検討したコホート研究2件で血栓と出血の危険度が同程度にあり、他方、DOACの害を否定するデータはない。
したがって、リバーロキサバンだけでなく、他のDOAC製品(ダビガトランやアピキサバン、エドキサバン)も同様の害があると考えられる。
実地臨床では
APS、特に高リスク患者ではDOACを開始すべきでなく、DOACを使用中なら早期にワルファリンに切り替え、INRで1.5〜2.2でコントロールすべきである。また、DOACはAPSには「禁忌」とすべきである。
参考文献
1) 薬のチェック、2020:20(No88):30-34
2) 薬のチェック、2020:20(No91):112-113
3) Pengo V et al. Blood. 2018; 132:1365-1371.
4) Sato T et al. Lupus. 2019; 28: 1577-1582.
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