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未来の会

「民主党」は安倍氏の死出の道連れになるのか

「民主党」は安倍氏の死出の道連れになるのか
日本の衰退を止める「歴史的使命」を投げ出したまま

安倍晋三・元首相は死の直前まで何かを焦っていた。2020年9月の首相退任後、それ迄以上に憲法改正の主張を強め、防衛費大幅増の旗を振り、アベノミクスの否定に繋がる財政健全化や金融引き締めの意見には敵愾心を露わにした。今から思えば、自身の政治人生の終焉をどこかで予感し、歴代最長の在任期間を誇った安倍政権の評価を早く確定させなければ、との思いに駆られていたのかもしれない。

 その安倍氏が敵視し続けたのが「民主党」だった。カギ括弧付きの「民主党」とは、旧民主党と、その流れを汲む政治勢力を包含する意味で便宜的にそう表記する。現在の「民主党」を代表するのは立憲民主党だが、昨秋の衆院選、今夏の参院選と続けて議席を減らし、参院選の比例代表では日本維新の会の得票を下回った。政権奪還を目指すどころか、いよいよ野党第1党の座すらも危ぶまれるのが「民主党」の現状である。

もはや野党第1党の任にあらず

 興味深いデータが有る。参院選の投開票から1週間になる7月16、17日に実施された毎日新聞の世論調査で「立憲民主党と日本維新の会のどちらに期待するか」との質問に「立憲民主党」との回答は20%に留まり、「日本維新の会」の46%の半分にも及ばなかった。「どちらにも期待しない」が28%。立憲民主党はもはや野党第1党の任にあらずとの宣告を突き付けられたに等しい。

 同じ世論調査で岸田文雄政権の物価対策を「評価する」との回答は14%、「評価しない」が58%、新型コロナウイルス対策を「評価する」は35%、「評価しない」が34%だった。にも拘わらず、岸田政権の与党である自民、公明両党は参院選で大勝し、岸田内閣は5割を上回る高い支持率を維持している。不満の受け皿となる野党の不在が岸田政権を支えていると言って良いだろう。

 06年、「戦後レジームからの脱却」を掲げて政権に就いた安倍氏の前に立ちはだかったのが「民主党」だった。07年の参院選で旧民主党が大勝した結果、参院で野党が多数を占める「ねじれ国会」になり、安倍政権は間も無く退陣に追い込まれた。「民主党」に対する安倍氏の敵愾心はそこから始まったのかもしれないが、「民主党」側は「反安倍」を旗印に躍進した訳ではない。

 2年後の09年に政権交代を成し遂げた旧民主党が有権者から託された歴史的な使命は、少子化・人口減少とデフレ不況に象徴される日本の経済・社会の衰退に歯止めを掛け、再び成長軌道に乗せる事だった。しかし、旧民主党政権は消費税の引き上げ等を巡る内紛で瓦解した。

 1993年の細川護煕政権発足に前後して始まる平成の政治・行政改革は、経済バブルと冷戦構造の崩壊を受けて、昭和に築かれた古い日本の経済・社会構造を新しく再構築する為、先ずは政治構造を政権交代可能な体制に変革しようという試みだった。それが旧民主党政権として一旦結実した訳だが、「民主党」は政権の自壊という形でその歴史的使命を投げ出したのである。

 「民主党」から政権を奪還した自民、公明両党はその使命を引き継ぐ事が期待された。「再チャレンジ」に成功した第2次安倍政権はそれを自覚していたからこそ、「戦後レジームからの脱却」という理念的目標より、デフレ脱却という現実的目標を優先させた。それがアベノミクスだ。

 しかし、一時的なカンフル剤だった筈の財政出動と金融緩和が今や自己目的化し、アベノミクスを止めたら景気後退を招くという袋小路から日本経済は抜け出せないまま喘いでいる。コロナ禍とウクライナ戦争で世界的不況が進行する中、アベノミクスの歴史的評価はマイナス方向に傾いている。だからであろう。凶弾に倒れる時まで安倍氏はアベノミクス否定論の台頭を恐れていた。

「反安倍」野党共闘の果てに

第2次安倍政権の当初のキャッチフレーズは「日本を取り戻す」だった。日本の経済・社会構造を再構築する歴史的使命を果たそうという意気込みにも受け取れるが、実態は「民主党」が混乱させた政治を旧体制側に取り戻そうという権力闘争の掛け声として用いられた感がある。その結果、平成の政治・行政改革という大きな流れの中で進められた「政治主導」の強化は第2次安倍政権に都合良く利用され、「安倍1強」という歪んだ「官邸主導」へと変質した。旧民主党政権が少子化対策として取り組んだ「社会全体で子どもを育てる」社会への変革は「家庭で子どもを育てる」旧体制へ逆戻りし、人口減少に歯止めを掛けるどころか、旧民主党政権を否定する権力闘争が子育て支援より優先された。

 「日本を取り戻す」は、米軍普天間飛行場の移設問題で日米同盟を軋ませ、尖閣諸島の国有化で対中関係を悪化させた旧民主党政権の外交・安全保障政策を否定する意味でも用いられた。その延長線上にあったのが、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障法制の整備だった。安倍氏が「戦後レジームからの脱却」という理念優先で動いていたら、憲法9条の改正に取り組むのが筋だった。だが、中国の急速な軍事的台頭に対抗する為、憲法解釈の変更によって日米同盟の実質的強化を急いだ。ある意味でこの方が強引な力技だった。これに「違憲だ」と反発した「民主党」は共産党との「反安倍」共闘に傾斜して行く。

 野党転落後の「民主党」は、国民世論を敵・味方に分断する安倍元首相の政治手法に乗せられて、「反安倍」の主張を代弁するのが存在意義であるかの様に振る舞い、旧民主党政権が果たせなかった歴史的使命に改めて取り組む気概も具体策も示す事が出来ないまま現在に至る。

 結局、安倍氏の歴代最長政権は「日本の経済・社会の衰退に歯止めを掛け、再び成長軌道に乗せる」という本来的な意味で「日本を取り戻す」には至らず、その後継政権も然り。ならば再び野党の出番になっても良い状況なのに、一度、国民を裏切った「民主党」が期待を取り戻すのは容易ではなかった。世論に蔓延した政治不信は、立憲民主党以外の既成政党にも向けられている。参院選比例代表では自民、公明、共産党も議席を減らし、代わって議席を伸ばしたのが維新、新たに議席を得たのが参政党だった。

 しかし、非「民主党」の野党第1党候補として注目される日本維新の会も、政策の主眼は「身を切る改革」による政治・行政改革に在り、日本の衰退に歯止めを掛ける処方箋を示しているとは言い難い。平成以降の「失われた30年」に対する処方箋を既成政党も新興政党も有権者に提示出来ていないから、参院選の焦点は分散し、圧勝した与党に対しても期待感が高まらない。先述した毎日新聞の世論調査では、次の参院選が行われる3年後の日本の社会が今より「良くなっていると思う」との回答は14%しかなく、「良くも悪くもなっていないと思う」が37%、「悪くなっていると思う」という悲観派が36%だった。

 立憲民主党の泉健太代表は参院選の結果について「踏み止まった。十二分に挽回して行く余地が有る」と総括した。しかし、アンチテーゼは、対抗すべき存在を失えば、自らの存在意義も消失する。「民主党」はこのまま安倍氏の死出の道連れとなってしまうのだろうか。

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