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長期入院で奪われた伊藤さんの40年 精神医療国賠の口頭弁論始まる

長期入院で奪われた伊藤さんの40年 精神医療国賠の口頭弁論始まる
第1回「精神医療ダークサイド」最新事情

この国には世界全体の2割にあたる約33万もの精神病床がひしめく。治療よりも隔離が目的の強制入院が後を絶たず、入院期間1年以上の患者は約16万6000人(2019年)に上る。
 「私の病気は長期入院による施設症でした」

 2020年9月30日、群馬県に住む伊藤時男さん(69歳)は、厚生労働省で開かれた精神医療国家賠償請求訴訟研究会の会見でそう語った。精神科病院に長期入院させられ、憲法が定める幸福追求権や居住の自由などを侵害されたとして、この日、国に3300万円の損害賠償を求めて提訴した。穏やかで的を射たその応答は、長期隔離の不条理を如実に物語っていた。

 伊藤さんの入院歴は40年超。このうち38年間は、福島第一原発に近い福島県大熊町の民間精神科病院に収容されていた。

  「私が退院できたのは、不謹慎な言い方ですが原発事故のおかげ。事故による避難がなければ今も閉じ込められていたと思う」

 良好とはいえない家庭環境で育ち、自己否定感が強い子ども時代を過ごした。16歳の時、対人関係のストレスなどで躁状態になり、東京の精神科病院に強制入院させられた。翌年脱走したが、すぐに連れ戻されて「懲罰的な電気ショックを受けた」。

 犯罪に手を染めたわけではない。のしかかるストレスに一時的に心を乱しただけだ。それなのに10代で精神科病院の「固定資産」となり、「精神分裂病」(統合失調症)の診断で服薬を強いられた。パニック発作や手の震えなど薬の副作用もあり、社会復帰の道を閉ざされた。2度目の脱走後に送られたのが、大熊町の病院だった。

 「福島の病院は金銭のことばかり考えていた。患者1人を1年間入院させれば500万円入る。私の周りだけで30年以上の入院患者が10人以上。自殺する人もいてたまらなく辛かった」

 頻繁に川柳を作り、新聞投稿で気力を保った。病院の厨房などで真面目に働き、主治医が「退院」と告げるのを待った。

 しかし、福島ではその日はやって来なかった。2003年には入院形態が強制入院(医療保護入院)から任意入院に切り替わったが、帰る家も金もない。その頃には「退院するのが怖いという気持ちも生まれていた」と言う。

 伊藤さんの代理人を務める佐藤暁子弁護士は次のように語る。

 「閉ざされた精神科病院では、その中でひとつの社会が出来上がり、『すぐに出たい』という気持ちが薄らいでいく。物理的にも精神的にも無力な状態になる。国はこれから何をするべきか、裁判で問いたい」

 精神科病院を民間に数多く作らせ、施設症を次々と生み出してもなお、傍観を続けたこの国のダークサイド。そこにやっと司法のメスが入ろうとしている。

 私が8年前、患者支援に取り組む東谷幸政さんに「国賠訴訟を本気でやったらどうか」と持ち掛け、この運動は始まった。東谷さんは同研究会を作って代表となった。だが、長期入院で心身共に弱らされた患者達の中から、戦える原告を見つけ出すのは困難だった。そこに現れたのが、原発事故を機に自由を得た伊藤さんだった。

 3月1日、東京地裁で第1回口頭弁論が行われる。裁判の行方に注目したい。

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