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診療報酬改定率は政策とかけ離れて「政治決着」

診療報酬改定率は政策とかけ離れて「政治決着」
「本体プラス改定」は8月には水面下で決まっていた

2018年度の診療報酬改定は、全体こそ1・19%のマイナスだったが、技術料や人件費など医師らの身入りに直結する「本体部分」は0・55%増となり、同時改定となった介護報酬も0・54%増に落ち着いた。

 ただし、今回も薬剤費の抑制によって財源をひねり出す、その場しのぎの構図に変わりはない。業界など関係者の間には安堵の空気が流れるものの、「このやり方をいつまで続けられるのか」との懸念の声も漏れる。

 17年12月18日午後。麻生太郎・副総理兼財務相と加藤勝信・厚生労働相の大臣折衝により、診療、介護、障害福祉のトリプル改定は全てプラスになることが確定した。

 麻生氏に深々と頭を下げた後、厚労省に戻った加藤氏はにこやかに記者会見に臨み、「25年までに、団塊の世代が75歳を超えていく。それに沿った提供体制にしていかなければならず、必要な予算を確保した」と語った。

 診療報酬本体の改定を巡り、年末ギリギリまでプラスかマイナスかで財務省と厚労省が角突き合わせたのは例年の通り。

 しかし、両省の綱引きは表面上の演出にすぎず、水面下では8月末の段階でプラス改定となることが早々に固まっていた。薬の公定価格を市場価格に近付ける価格差解消だけで国費1500億円強を捻出出来ることが分かり、社会保障費の伸びを約1300億円抑制する政府方針に目途が付いていたためだ。

 診療報酬を0・1%アップさせるのに要する財源は100億円強。その段階で、価格差解消以外の薬価制度改革によって300億円程度浮くことも見えてきており、焦点は前回16年度改定の本体の伸び率0・49%をどれだけ超えることが出来るか、に移っていた。

日医と経済界の要望の間を取った数字

 「四捨五入すりゃ、プラス0・6%じゃないですか」

 12月12日深夜。電話口の向こうで、そう言って「本体プラス0・55%」を提示してきた麻生財務相に対して、日本医師会(日医)の横倉義武会長は「分かりました」と頷いた。

 0・55%増は、「最低0・6%増」を求めていた日医と、保険料の企業負担分の増加を嫌って「0・5%」を主張する経済界の間を取った数字である。安倍晋三首相の意向も踏まえた回答と分かった上での返事だった。

 麻生氏をはじめ、財務省サイドが描いていたのは、前回の0・49%増をギリギリ上回りつつ、経済界の顔も立つ0・5%増だった。

 しかし、厚労族議員から薬価の抑制だけで巨額の財源が確保出来ることを耳打ちされていた横倉氏は、「0・6〜0・8%増」を譲らず、財務省の打診を跳ね付けていた。来年の日医会長選で4選を目指す横倉氏にとり、前回改定を上回るアップ率の確保は至上命題だった。

 これに応えたのが、安倍首相だ。横倉氏は、07年に安倍氏が第1次政権を投げ出した後も安倍氏と関係を繋いできた。「横倉さんは信頼出来る方だ」。首相はたびたび、周辺にそう語っている。

 一方の日医も、17年10月の衆院選では20万票を誇る組織を挙げて自民党を支援し、同党に大勝をもたらした。首相は11月9日に横倉氏を官邸に招き、診療報酬について「しっかりお礼をさせていただきます」と伝えている。

 首相だけでなく、同じ福岡県出身の麻生氏とも気脈を通じている横倉氏は、「0・55%増」の政治的メッセージを汲み取り、矛を収めた。決着のキーマンは安倍、麻生、横倉の3氏で、厚労族議員が絡む余地はなかった。

 「介護報酬が上がると、保険料も上がるんだぞ」

 12月11日、麻生財務相を訪れ、介護報酬のアップを要望した「地域包括ケアシステム・介護推進議員連盟」の面々に、麻生氏はクギを刺すのを忘れなかった。

 とはいえ、同議連の会長は麻生氏が務める。つまり、議連の麻生会長が麻生財務相に介護報酬アップを陳情した格好だった。

 表向き、強面を通した麻生氏だったが、介護報酬は3年前の前回改定で2・27%引き下げ、多くの事業所の経営を悪化させていた。介護離職の防止を唱える安倍政権に「2回連続のマイナス」という選択肢はなかった。診療報酬本体の0・55%増が固まるのと同時に、0・54%増に決まった。

 厚労省幹部は「診療報酬本体とほぼ同じ伸びにしつつ、日医に配慮して少しだけ抑えた」と、政策とはかけ離れた政治決着だったことを明かす。

 0・55%のアップに伴い、税金約900億円、保険料約1200億円、患者の窓口負担約300億円が、国民の新たな負担となる。にもかかわらず、供給者側の事情が重視され、利用する側の負担増を巡る議論はほとんどされることがなかった。

 「改定率は恣意的に操作出来る」

 毎回、政官を挙げて0・1%台の攻防が繰り広げられる報酬改定。しかし、近年は関係者の間から「数字にどれほどの意味があるのか」との疑問も聞こえてくる。

 今回の診療報酬改定では、財務省と厚労省の数字が食い違っている。厚労省の見解は、本体0・55%増、薬価マイナス1・74%で全体マイナス1・19%なのに対し、財務省は薬価のマイナス分から薬価制度改革に伴う分を除き、全体をマイナス0・9%としている。

 一方で厚労省は、病院前に立地している「門前薬局」への報酬減額分を改定の枠から外した。他の薬価制度改革分を含めながら、門前薬局分だけを除外したのも分かりづらく、厚労族幹部は「恣意的に改定率を操作出来るのは確か」と話す。

 従来の改定率は、財務省の数字、つまり、本体と薬価と市場価格の価格差解消分の差し引きで表してきた。今回、早々と本体のプラスが固まった理由として、この薬価差が今の算定方式になった00年以降、最高の9・1%に達したことがある。

 要因の一つは、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の普及率が65%を超え、価格競争が激しくなって公定価格と市価の差が開いたことが挙げられる。

 ただ、今後もこの傾向は続くとはいえ、18年度以降、薬価は毎年改定となることが決まっている。薬価差の大きい品目はその都度値下げされ、まとめて財源を確保出来る機会は少なくなる。

 一方で、本体改定は引き続き2年に一度のまま。薬価差の解消で生じた財源を本体に回すのは、これまでより難しくなる。

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