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第25回 診療報酬改定で手腕問われる「初の女性医療課長」

第25回 診療報酬改定で手腕問われる「初の女性医療課長」

 年末に政府予算を編成するに当たって、焦点となるのが診療報酬の改定率の水準だ。財務省が引き下げを求める一方、厚生労働省は引き上げを求めるのが恒例の構図となりそうだ。そうした状況下で、診療報酬の「配分」という重要な立場を担うのが厚生労働省保険局医療課長だ。今回、女性として初めて医療課長に就任した森光敬子氏が診療報酬改定の陣頭指揮を執る。

 森光氏は1992年に佐賀医大を卒業し、同年に旧厚生省に入省。生活衛生局食品保健課(当時)を振り出しに、医薬安全局監視指導課、老人保健福祉局老人保健課などを歴任。環境庁企画調整局保健業務課や文部省体育局学校健康教育課、埼玉県保健医療部健康づくり支援課にも出向し、医療課課長補佐、医政局研究開発振興課を経て18年7月に女性登用の一環で現職に就任した。

 医療課長は、診療報酬を改定する際に医薬業界の要望を受けて点数を加減し、その具体的な中身を決める重要なポジションだ。過去には、慶応義塾大医学部出身の鈴木康裕・医務技監(84年入省)や同じ慶応卒の宮嵜雅則・健康局長(87年)、東京大医学部卒で医政・医薬品等産業振興などを担当する迫井正深・大臣官房審議官(92年)といった省内で出世街道を走る「実力者」も医療課長を経験した。ある厚労省幹部は「医系技官にとって花形ポストだ」と話す。

 森光氏に対する仕事面への評判は悪くない。業界紙記者は「医療課長補佐時代に業界団体とトラブルになりかけたことがあり心配する声もあったが、無難にこなしている印象だ。女性ということも幸いしている可能性がある」と話す。中央社会保険医療協議会を捌く立場柄、厚労省に大きな影響力を持つ日本医師会に肩入れしがちだが、日医と意見が対立することが多い健康保険組合連合会とも勉強会を開くなど、「バランスの取れた差配をしている」(若手医系技官)。仕事と子育てを両立させ、現代的な働き方を実践しているのも、部下からの評価を高めている一因のようだ。

 診療報酬改定のうち、妊婦加算の見直しも課題の1つだ。大手マスコミが5月に「妊婦加算、再開の方向で検討」という記事を出した時には、当時の樽見英樹・保険局長とともに記事を書いた記者に猛抗議した。この件が影響してか、記者の間では「マスコミに冷たい」との評判もある。妊婦加算は凍結を主張した自民党の小泉進次郎・前厚労部会長が環境相に転身したため、見直しへの推進力は弱まっている。とはいえ、「濵谷浩樹・保険局長から見直しへの宿題が出ている」(保険局若手)といい、改定に向けた課題の1つだ。

 今回の診療報酬改定は、医師の働き方への対応がメーンテーマで、毎年改定が始まるため薬価財源は乏しく、大きな改革は難しいとされる。難題がある訳ではなさそうだが、医師の技術料に当たる「本体」部分のプラス幅をどれだけ確保できるかが大きな焦点だ。期待されるほどの結果が得られなければ、日医の横倉義武会長の進退にも影響しかねない重要な改定だ。最終的に改定率は高度な政治判断で決まるものだが、森光氏の手腕も大きく影響する。年末から改定が始まる来年4月にかけて、初の女性医療課長の真価が問われる場面が訪れるだろう。

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