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未来の会

感染症法再改正へ6月中「抜本強化策」まとめる方針

感染症法再改正へ6月中「抜本強化策」まとめる方針

医療機関への権限強化検討、日本医師会や自治体の反発も

政府は新型コロナウイルス等新たな感染症への対応策として、感染症法の再改正に乗り出した。コロナ禍で入院出来ない人が続出した事を踏まえ、病床の迅速な確保に向けた医療機関に対する国や都道府県の権限強化等を検討している。秋の臨時国会への法案提出を睨み、6月中に「抜本強化策」をまとめる方針だ。但し、日本医師会や自治体等の反発が見込まれ、時間切れ・先送りになる気配も漂う。

 今年1〜3月のコロナ「第6波」では、自宅等医療機関外で療養中に死亡した人が少なくとも555人に上る事が厚生労働省の調査で分かった。待機療養者の中で目立ったのは、高齢者・障害者施設等で感染したものの、空き病床が無く施設内で待機療養していた人達で、計6610人に及んだ。

病床確保へ向け法的拘束力の有る案を模索

 大阪府では昨年末以降、入院出来ずに施設内で死亡した人が57人に達した。府内の或る有料老人ホームでは死者こそ出なかったものの、入居者の感染により混乱した。施設長は「朝から夕まで保健所に電話を掛け続けたにも拘わらず、入院をさせてあげられなかった。まさかとは思ったが…」と話す。医療機関ではない為コロナ治療薬は確保出来ず、焦りを募らせたと言う。

 コロナ禍では、入院や診察を受けられない人が各地で相次いだ。病床としてカウントされていながら、実際は看護師ら医療スタッフ不足等で使用出来ない「幽霊病床」が多数有った事、人手不足も重なって行政による病床確保要請に応じない医療機関が相次いだ事による病床のひっ迫が要因だった。

 これに対し、政府は昨年2月に感染症法を改正。正当な理由無く要請に応じない医療機関には都道府県が勧告出来る様にし、従わなければ施設名を公表出来る様にした。それまで行政が出来る事は「要請」だけに留まっていた。

 法改正を受け、東京都は昨年8月、都内の約400病院に最大限の入院患者の受け入れを要請し、受け入れをしていない約250病院や診療所等には、看護師や医師の宿泊療養施設等への派遣を求めた。従わない場合の「勧告権」を背景に、各医療機関からの協力を引き出そうとしたのだ。

 しかし、改正法は裏を返すと「正当な理由」が有れば要請に従わなくてもいい、という事でもある。「正当な理由」の定義は不明確で、人手不足の他、「通常診療への影響」が生じる事も理由になる。要請はしたものの、勧告には踏み切れなかった東日本の県の担当者は「定義が曖昧な為、勧告や公表に踏み込むのは難しい」と漏らし、要請しても人手不足を理由に断られる事が多い、と言う。結果的に法改正は不発に終わり、以降も都市部を中心に病床不足が発生し増床を必要とした。

 あそこで政府内には再度の法改正をする案が浮上。医療機関に対して通常の病床確保に加え、臨時の医療施設の設置やワクチン接種、ウイルス検査の実施等に関しても法的拘束力の有る指示を出せる様にする案等を模索している。又、保健所を持つ政令市や中核市等に対する都道府県の権限を強める事も視野に入れる。「都道府県に対抗意識を持つ政令市と都道府県間の意思疎通が不十分な面が窺えた」(厚労省幹部)との反省を踏まえたものだ。

「結局人手不足の解消策に尽きる」との声も

 ただ、岸田政権は昨年10月の発足直後に1度、同法再改正を検討している。それが変異株「オミクロン」による感染拡大の対応に追われ、結局先送りを余儀なくされた。その後この春になって取りあえず第6波が収束した事もあり、今年6月中を目処に感染症に関する強化策を打ち出す事にした。柱は前述した国や都道府県の権限強化だ。

 とは言え、医療機関による入院患者の受け入れ、とりわけ重症患者の治療には専門医や看護師ら医療スタッフを充実させる必要が有る。それでも各医療機関が平時から感染拡大時用の医療スタッフを揃えておく事は現実的で無い。が、一方でいざという時に人材を集める事は難しい。日頃から医療機関同士の連携を強化していく事に加え、人材の育成・派遣を可能とする体制を整備しておかねばならない。東京都内の病院長は「結局は人手不足の解消策に尽きる。それ無しに強制力を付与しても機能しないだろう」と漏らす。

5月に有識者会議を発足、会議の焦点とは…

 入院病床のひっ迫を防ぐには、「かかりつけ医」の機能を高める事も重要だ。

 軽症患者は身近な開業医が診る事を徹底する事で大病院への患者集中を避け、重症者がスムーズに入院出来る様になるからだ。だが、当初は「人手不足」「感染対策が困難」と言った理由で発熱者の診察すら拒否する開業医が続出し、結果的に多くの医療難民を生み出した。開業医と大病院の連携強化は日本の医療政策の主要課題で有り続け、国も再三旗を振っている。にも拘わらず両者の連携の歩みは遅い。

 5月11日、政府はこれ迄のコロナ対策を検証する為、自治医科大の永井良三学長を座長とする有識者会議を発足させ、6月に向けて対応策をまとめる方針を再確認した。会議の焦点は国等の権限強化や医療提供体制の見直しと共に、岸田首相がぶち上げた感染症に対する「指令塔機能」の抜本的強化策だ。

 元々「指令塔」としては、首相が昨年9月の自民党総裁選で表明した「健康危機管理庁(仮称)」の創設が考えられていた。厚労省の感染症に関する一部業務を同庁に移管した上で、任務の多い厚労相の役割を一部スリム化し、感染症に対応する閣僚を配置する事を主眼に置いていた。しかし、岸田政権が発足すると自民党内からも慎重論が相次いだ。省庁再編論に繫る事や、新たな庁と厚労省との権限重複等が懸念された為だった。

「抜本的な対策」に踏み込むのは難しいのが現状

国や都道府県の権限強化等一連の対策には、日本医師会や政令市等の強い反発が予想される。7月の参院選を控え、野党だけでなく医師会の支援を受ける自民党も「抜本的な対策」に踏み込むのは難しいのが現状だ。

 日本は8割以上の医療機関が民営だ。医師が医療法人を立ち上げるのが一般的で、公的病院が主体の欧州とは決定的に違う。公立主体の欧州では政府の強制力による規制が可能なのに対し、民間主体の日本では政府による統制が難しいとされて来た。現に日本の医療界は歴史的に政府の介入を極端に嫌って来た経緯が有る。感染症法の改正案を巡っては、政治的な事情に加えて「民営」の壁も立ちはだかる。長年感染症対策に携わって来た厚労省OBは「国や都道府県が指示出来る項目については、詳細に詰めねばならないだろう。時間的な制約は勿論の事だが、そもそも法改正自体も難航するだろう」と見ている。いつまでも変われない日本の医療、患者不在の日本の医療がある。

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