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第47回 火中の栗拾うクリストフ・ウェバー新社長

第47回 火中の栗拾うクリストフ・ウェバー新社長
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
火中の栗拾うクリストフ・ウェバー新社長

「炎上」の前の静けさか。武田薬品工業(長谷川閑史社長)は現在、奇妙な静寂に包まれている。

 武田は昨年11月、社長の交代を発表した。長谷川の後を襲うのはクリストフ・ウェバー。同社のコーポレートオフィサーの任にある人物だ。グラクソ・スミスクラインのコーポレートエグゼクティブチームメンバーをはじめ、関連企業で要職を歴任してきた。5月20日の取締役会でウェバーの社長就任を含む取締役選任議案を6月27日開催予定の定時株主総会に付議することを決議。何事もなければ、同日、47歳の新社長が誕生する。ウェバーの新たな役職は〈代表取締役社長COO(最高執行責任者)〉、長谷川は〈代表取締役会長CEO(最高経営責任者)〉となる予定だ。

「長谷川院政」に立ちはだかる壁
 「経営のグローバル化」といえば聞こえはいい。だが、武田は欧米の製薬企業を次々に買収し、社内の枢要な地位はすでに外国人が押さえている。売り上げの中で海外市場が占める割合はすでに5割を超えた。ウェバーは武田にとって初の外国人社長。国内主要製造業が海外からトップを招くこと自体、異例の事態といっていい。こうした組織のトップである長谷川が経済同友会代表幹事を務め、「成長戦略」立案の一翼を担うことの奇怪さについてはこれまで何度も指摘してきた通りだ。

 長谷川は若いウェバーを御し、「院政」を敷く腹積もりとみられる。だが、内外の情勢はとても悠長に構えていられるようなものではない。

 臨床試験結果の捏造が確実視される「CASE‐J事件」。京都大学(松本紘総長)の調査結果が近く発表される。内容によっては、冒頭に記した通り、再び武田が炎上することになる。

 長谷川─ウェバー体制は始動早々、火消しに躍起にならざるを得ない。問題は他にもある。2型糖尿病治療薬「アクトス」に関する米国の訴訟。5月16日にはイリノイ州クック郡巡回裁判所が武田に有利な陪審評決を下したと同社は発表している。訴訟はぼうこうがんで死亡した糖尿病患者の遺族ががんの発症はアクトスの服用が原因と訴えたもの。陪審評決は原告の主張を退けたという。

 アクトスの膀胱がんリスクに関しては米食品医薬品局(FDA)が2010年、服用でがんにかかる危険性が高まる恐れがあると発表。だが武田は、「がん発症リスクを隠した認識もなく、がんを引き起こす確かな根拠もない」と反論。現在、米国で数千件の訴訟が進行している。4月にはルイジアナ州ラファイエットの連邦地裁の陪審が武田に60億㌦(約6100億円)、販売提携先の米イーライ・リリーに30億㌦(約3100億円)の支払いを求める評決を下している。

 「米国の司法は厳しい。武田はアクトス訴訟に対応するため、相当な体力を使うことになるでしょう。弁護士費用も数億円単位が予想される。消耗する可能性は高い」(国内製薬企業OB)

 〈高血圧症治療剤「カンデサルタン錠『あすか』」に関する事業化契約の締結について〉──そんなリリースを武田が出したのは5月16日のことだった。あすか製薬(山口隆社長)と武田は同日、高血圧症治療剤〈カンデサルタン錠「あすか」〉(一般名:カンデサルタンシレキセチル、以下〈カンデサルタン「あすか」〉)に関する事業化契約を締結したのだ。

 カンデサルタン「あすか」は武田が同社の高血圧症治療剤「ブロプレス錠」(一般名:カンデサルタンシレキセチル、以下〈ブロプレス〉)の特許権などをあすかに許諾したもの。「オーソライズド・ジェネリック(Authorized Generic:AG」と呼ばれる薬の一種だ。今年2月、あすかは厚生労働省からカンデサルタン「あすか」の製造販売承認を取得。目下、6月の薬価収載に向けて薬価申請を行っているという。

 この契約に基づき、薬価基準収載後、あすかはカンデサルタン「あすか」を発売、医療機関に情報提供を行う。一方、武田はカンデサルタン「あすか」をあすかから仕入れ、特約店に販売する物流業務に特化。その他、契約内容の詳細については開示していない。

 あすかは、13年10月にあすかジェネリック事業本部を新設。既存の医薬営業本部と協働して医薬品販売事業を推進している。カンデサルタン「あすか」の発売はあすかのジェネリック事業における製品ラインアップ拡大とプレゼンス向上につながるという。あすかはブロプレスと原薬や添加物、製造方法が同じAGを患者や医療関係者に届ける。

 リリースによれば、〈武田薬品は、患者さんや医療関係者の皆さんに新たな価値をお届けするために、ビジネスのあらゆる可能性を常に追求しています〉。

 〈現在の市場環境ではジェネリック医薬品に対する一定の社会ニーズがあり、武田薬品は、品質・安定供給・情報の提供および収集といった観点から、それらのニーズを十分に満たすジェネリック医薬品が提供される必要があると考えています。そのため、武田薬品は、カンデサルタン「あすか」が患者さんや医療関係者の皆さんの幅広いニーズに対応することができると考え、本契約の締結に至りました〉

 〈あすか製薬と武田薬品は、ブロプレスのAGである本剤の発売を通じ、高血圧症治療に一層貢献するとともに多様な医療ニーズにお応えする医薬品をお届けしてまいります〉

 一方で「グローバル」をうたいながら、返す刀ではグループ企業を使って伸び盛りのジェネリック市場にも色目を使う。武田はメディアに収益確保が目的ではないとうそぶいているようだ。だが、本音では目先の金も捨てがたいのだろう。

取締役には新たなインセンティブプラン
 5月末、武田は取締役の報酬体系改訂を打ち出した。こちらも人事同様、6月の株主総会で本決まりとなる。具体的には〈株式報酬制度〉を導入。〈役員報酬BIP(Board Incentive Plan)信託〉と呼ばれる仕組みを採用する。これは米国の業績連動型株式報酬(Performance Share)制度や譲渡制限付株式報酬(Restricted Stock)制度を参考にした役員に対するインセンティブプラン。BIP信託によって取得した武田の株式を業績目標の達成度などに応じて取締役に交付する。

 インセンティブを取りにいくほどの余力が今の武田に果たして残っているのか。

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