
東海大学医学部は、「科学とヒューマニズムの融和」の精神の下1974年に創設、翌75年に付属病院を開院し、共に50周年の節目を迎えた。参加型臨床実習の導入や多職種連携教育、基礎と臨床を往還する統合型カリキュラム等、特色有る医学教育に積極的に取り組んできた同学が、次の50年に向けて掲げるビジョンは「先駆ける医学部」。28年には教育・研究・臨床を一体化する新校舎の竣工も予定されている。25年4月に医学部長に就任した大上研二氏に、目指す医療人教育の在り方と将来構想について聞いた。
——医学部長に就任され1年を迎えられました。改めて、貴学の理念や育成を目指す医師像について、考えをお聞かせ下さい。
大上 東海大学医学部は一昨年の24年に創立50周年、付属病院は25年に開院50周年を迎えました。本学の建学の精神は、創設者のである松前重義先生の「科学技術は人類の幸福のためにある」という思想が根幹に在ります。そして医学部では建学の精神である「科学とヒューマニズムの融和」を目指して医学教育を行っています。患者に寄り添う医療を実践する上で、人間の理性や尊厳、価値を尊重する姿勢は欠かせません。物質文明としての科学と、精神文明としてのヒューマニズム、この双方を生かしながら、患者を支える医療の実践に取り組んでいます。
——教育環境の拡充の為、新校舎の整備も進められているそうですね。
大上 医学部と付属病院を擁する伊勢原キャンパスでは、現在の1号館の耐震性能に不足が有る為、28年3月の竣工を目指して新1号館の建設を進めています。 教育・研究・臨床を一体的に展開出来る拠点として、又、建学100周年に向けて掲げたビジョン「先駆ける医学部・医学部付属病院」を見据えた中核施設として、大きな役割を担う事を期待しています。本学では、「One Team」という考え方を大切にしています。学生、教職員、医療スタッフが同じ方向を見据え、それぞれの専門性を生かしながら協働する環境を整える事が、これからの医学教育と医療の発展に繋がると考えています。
参加型臨床実習とチーム医療の重要性
——医学教育に於いて、重視されている点は。
大上 先ずは「良医」の育成ですね。高度な技術や専門性を持つ「名医」である事も大切ですが、患者や家族に寄り添い、医療に責任を持つ「良医」であって欲しいと思います。そうした意味合いからも、本学では臨床実習についても、かなり早い段階から従来型の見学中心の実習から参加型臨床実習へシフトしてきました。全国の共用試験であるCBT(Computer-Based Testing)とOSCE (Objective Structured Clinical Examination) に合格後、4年次の後半には白衣授与式が有りますが、医学部生も一定範囲で診療参加が認められます。そこで、単に見学に留まらず、可能な範囲で医療行為や各種手技に参加し、学生も診療チームの一員となって貰う様にしています。例えば救命救急領域では、夜間当直に同行し、救急搬送患者の初期対応を体験する事も有る。他の診療科に於いても、実践的に診療へ関与して貰い、技能の習得は勿論、臨床の際の判断力の養成を図っています。
——チームの中で実践的な臨床を学ぶ事になりますね。
大上 「チーム医療」に対する理解も重視しています。医療は医師のみで完結するものではなく、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務職員等、多職種の協働によって成り立っているからです。手前味噌になりますが、19年の箱根駅伝で、本学は初めて総合優勝を果たしました。その年の成績は、実は区間賞は8区の小松陽平君の1つだけでした。しかし、他の区間でも殆どが2位又は3位、全体で見ても2桁順位が無く、謂わば「穴」が無かった。これが勝因だったと思います。医療に於いても同様で、特定の職種のみが優れていても十分ではありません。全体で見て弱点の無い体制、即ち穴の無い「One Team」として機能する組織作りが非常に大切なのだと思います。
——そうしたチーム医療の考え方は、教育体制の中にも反映されているのでしょうか。
大上 総合大学としての強みを生かし、領域や学部の垣根を出来るだけ低くした教育体制を整えたいと考えています。良医を育てる上でも、医学部の中だけで完結するのではなく、他学部の学生とも関わりながら学ぶ環境は重要だと思います。現在、カリキュラムの見直しを進めており、26年度からは垂直・水平統合型カリキュラムを導入します。例えば臓器や疾患毎に、基礎医学と臨床医学を横断的に学ぶ形です。従来の様に、解剖、生理、各診療科といった科目毎に分かれて教育するだけでは、どうしても知識が断片的になりがちです。そこで、基礎の教員と臨床の教員が互いに議論しながら教育内容を統合し、学生が1つの医学として理解出来る様な形にしていきたいと考えています。教員同士が協働して教育を行い、分野横断的に学びを深めていける体制を整えていきます。
——18年度には医学部に看護学科が加わり、21年度からは多職種連携教育が本格的に始まりました。
大上 看護学科との連携は本学の大きな強みです。同一キャンパス内に医学科、看護学科、付属病院が集約された環境は、各職種の役割や専門性の相互理解、円滑なコミュニケーションを図る上で大きな利点となっています。ここでの経験は、将来、医師や看護師として医療現場に立つ際の医療安全の観点からも極めて意義が有るでしょう。何故なら、職種間の意思疎通が不十分だと、医療事故のリスクが高まるからです。私自身、医療安全担当として副院長を務めた経験からも、「疑問を感じても発言する事が出来ない」「指摘する事で関係が悪化してしまう事を懸念する」といった垣根の有る状況は、医療安全上極めて危険です。医療従事者がチームの中で互いに対等な立場に在り、どんな事でも言い易い雰囲気——所謂「心理的安全性」を確保する意味でも、同じキャンパスで一体的に学べる事は、大きな要素だと思っています。
研究マインドを育てる医学教育
——臨床教育と基礎教育はどの様に関連付けられているのでしょうか。
大上 医学教育では、臨床の現場で生まれた疑問を基礎研究に持ち帰り、学術的に検証し、その成果を再び臨床で確かめていく循環が非常に重要です。そうした流れを学生の段階から意識する事で、基礎と臨床の繋がりを実感出来る様になります。実際の診療の現場では、既存の医療だけでは解決が難しい課題に直面する事も少なくありません。その際、日常診療の中で生じたクリニカルクエスチョンを基礎研究者と共有し、基礎医学の視点から新しい治療法や検査法の可能性を探る事が重要になります。臨床の知識や技能、そして新しい医療の開発も、何れも基礎医学を土台として成り立っているからです。その様に、臨床で得た問いを基礎に持ち帰り、そこで得られた知見を再び患者に還元していく。そうした医学の循環を理解する事が、医師としての視野を広げる上でも重要だと考えています。学生の段階からその様な視点を持って学んで欲しいと思っています。



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