SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

自民党初の女性総裁 高市早苗新総裁誕生のカラクリ

自民党初の女性総裁 高市早苗新総裁誕生のカラクリ
囁かれる「第2次麻生政権」の声

自民党の第29代総裁に、高市早苗前経済安全保障担当相(64)が選出された。大方の下馬評を覆し、小泉進次郎農水相(44)を破った末の結果だった。結党70年を迎える自民党で女性の総裁は初めてだ。本稿執筆(10月6日)時点では首相に指名されていないが、その公算が大きく、憲政史上初の女性首相にもなる見通しだ。高市総裁誕生の経過を振り返りたい。

 10月4日に投開票された総裁選は、高市、小泉両氏の他、林芳正官房長官(64)、小林鷹之元経済安全保障担当相(50)、茂木敏充前幹事長(69)の5人で争われた。国会議員票と党員・党友票の計590票で競い、第1回投票では、高市氏が最多の183票(国会議員票64票、党員・党友票119票)、小泉氏が164票(同80票、同84票)を獲得したが、過半数を得る候補がいなかった為、両氏による決選投票となった。林氏は134票(同72票、同62票)、小林氏は59票(同44票、同15票)、茂木氏は49票(同34票、同15票)だった。決選投票で党員票は、両氏の内、都道府県毎に票数が多かった方に1票ずつ割り振られる。党員票を多く集めた高市氏は36票で、小泉氏は11票だった。改めて投票し直した国会議員票も高市氏が149票と、小泉氏の145票をリードし、合計29票差で高市氏が決選投票を制した。

 事前のメディアによる情勢調査では、小泉氏が優勢と報じる内容が多かった。9月28日の読売新聞オンラインは、「小泉氏と高市氏が先行し林氏が追う」との表現で情勢を伝えた。2割弱が不明としながらも、議員の支持動向として小泉氏が71人で最多。林氏が52人、高市氏が38人とした。自民支持層調査でも小泉氏が40%と最多で、高市氏が25%、林氏は16%の支持を集めているとした。日本テレビも10月1日、国会議員票と党員・党友票を加えた合計で、小泉氏は160票を超えて最多とし、高市氏が150票台半ばで続くと報道した。同月2日の日本経済新聞の電子版でも、「小泉氏がやや先行で高市氏・林氏追う 議員・党員票分析」との見出しで同様の内容を報じている。こうした状況から、自民党内でも小泉氏優勢との見方が大半を占めていた。

高市氏が「逆転」した訳は

 高市氏は何故「逆転」出来たのか。幾つかの要素が有るが、大別すると以下の様になるだろう。①麻生太郎元首相の暗躍、②岸田文雄前首相の無策、③小泉氏陣営の脇の甘さ、④党員間での高市氏の人気の根強さ、だ。

 麻生氏は党内で唯一残った麻生派(43人)を率いている。前回の総裁選では高市氏を支援した麻生氏は非主流派として1年を過ごしたが、今回は最終盤迄、旗幟を鮮明にしなかった。だが、水面下では暗躍していた様で、TBSの報道(10月4日)によれば、高市氏の支援を決めた麻生氏は、1回目の投票では麻生派の議員に小林氏と茂木氏に投票する様指示したという。これは高市氏が決選投票に残るのを見越し、小林氏と茂木氏の国会議員票を高市氏に上乗せするのを求める戦術で、国会議員票の「貸し借り」が成立したという。国会議員票で劣勢だった高市氏が、決選投票で大きく票を伸ばしたのは、こうしたカラクリが有ったからだ。

 麻生氏は総裁選後、記者団に対し、「お前ら、舐めている様だったけど、ちゃんと選挙になったろ」と満面の笑顔で語った。自民党関係者は「麻生氏は高市氏でも小泉氏でもどちらでも良かった様だが、高市氏からのアプローチが凄かったらしい」と漏らす。

 一方、首相退任後、キングメーカーを気取る岸田氏は総裁選で存在感を見せ付ける事は出来なかった。腹心の木原誠二選対委員長は小泉氏を支援する一方で、旧岸田派の林氏は総裁選に出馬し、解散したとは言え、岸田派は分裂した形となった。林氏陣営関係者は「小泉氏優勢が伝えられる中で、岸田氏は旧派閥のメンバーに何も指示を出さなかった。当の本人は小泉氏を支援した筈で、今回は勝ち馬に乗れなかった様だ。今後は林派が立ち上がる筈で、そうなれば岸田氏の存在感は益々無くなるだろう」と当て擦りを口にした。

小泉陣営の何が問題だったのか

今回の総裁選では、小泉陣営の「脇の甘さ」も際立った。小泉氏は環境相と農水相を歴任し、選対委員長も経験しているが、僅か1カ月程度で辞任。重要なポジションの経験が乏しい。政策理解力も決して高くはなく、改革志向が売りのホープだった。だが、前回の総裁選で解雇規制の緩和を打ち出して、争点に急浮上した。舌足らずな説明が世間の誤解を生んだとして、「解雇規制の緩和ではない」と弁明したが後の祭り。結果的に、3位に甘んじる原因ともなった。

 今回は、その反省を生かし、事前に用意したペーパーを読み上げ、安全運転に徹した。この姿が討論から逃げているとの印象を与え、世間から再びバッシングに晒される事となった。日本記者クラブでの討論会では、林氏から2030年度迄に平均賃金100万円増を目指す公約について、「どれ位のインフレ率を想定し、日本銀行とどう連携していくのか」と質問されたが、小泉氏は賃上げ促進税制や、デジタルトランスフォーメーション等の省力化投資等、政策を総動員して実現する考えを示したが説得力を欠き、日銀との連携については言及が無く、改めて答弁能力に疑問符が付いた。

 極め付けは、ニコニコ動画での配信動画に他陣営を貶めたり、小泉氏を賞賛したりするコメントを依頼する指示を出した「ステマ問題」だ。小泉氏本人は把握せず、牧島かれん元デジタル相の事務所が行ったと言う。小泉氏陣営関係者は「これは昨年からやっていた。だから牧島氏の問題ではない」と明かす。これが週刊誌に暴かれ、インターネットでは大きな騒動となり、総裁選からの撤退を求める声が日増しに大きくなった。それでもマスコミで優勢を伝えられると、総裁選前日には陣営関係者で祝勝会を開き、「国会議員等は酔い潰れる迄飲んだ」(関係者)と言う。

 「取り巻きが悪過ぎる」と指摘するのは、自民党関係者だ。木原氏や牧島氏、小林史明氏、村井英樹氏等が中心となって小泉氏を支援していたが、「情報を共有せず、身内のノリでやっている。加藤勝信財務相は選対本部長だったが、後から来たという事もあり、全体を把握していなかった。小泉氏はちゃんとしたグループを作る必要が有る」と語る。

高市氏陣営の党員票が麻生氏の良い口実に

 そして、一番大きな要因が、高市氏の党員票の強さだ。全体の40%に当たる25万931票を集め、首位に立った都道府県数は前回の18から31に大幅に増えた。特に地元・奈良では87%の得票率を叩き出し、兵庫でも50%を超えた。東京も47%に上った。一方、決選投票で高市氏に敗れた小泉氏は17万9130票で、得票率は29%と、10ポイント以上も離した。高市氏陣営は「地道に地方を回って、支持者と握手した結果だ」と明かす。

 この集票力が、国会議員の投票行動を動かした。麻生氏が高市氏を支持する要因となったのが、「党員票で圧倒している」との事前情報だった。最終盤にこうした情報が漏れ伝わり、麻生氏は高市氏でも勝てると踏んだ。「党員票の多い方に入れる様に」との口実が出来たからだ。有権者の声に耳を傾けると説得されて、反論出来る政治家は多くない。麻生氏はこうした国会議員の心理を十二分に活用したのだ。

 「第2次麻生政権だ」。高市総裁誕生を表して自民党内ではこうした声を多く耳にする。只、麻生氏だけでなく、様々な要素が絡み合って誕生した政権である事は間違いない。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top